質問、意見等はこちらへどうぞ。[kyou4-a●ルナドットEメイルドットエヌイードットジェイピー(luna.email.ne.jp)](●を@に)天野 貴司
なかなか珍妙な作品ではある。まあ、題名を見れば内容のおおよその想像はついてしまうのだが、意外と冒頭の主人公の描写からは先の展開が見えにくいといったところはなかなか読ませてくれる。
主人公の元狙撃手という設定は、珍しいかもしれないがそれほど意表をつくものでもない。だが静の部分と動の部分。狙撃手として行動している時と、そうでない時、たとえば子供や女性などと相対している時などといった場面において、動の時との行動パターンのギャップがあまりに大きすぎ、ひどく現実から剥離した物語と感じさせてしまう。また、あまりにも平和的なラストへの展開といったところも、まるでワンパターンなTVのサスペンスドラマを観ている感がしてしまうのが難点か。
どういうわけか、比較的最近一般的に(?)注目されたのかのように書店で見かけるエドワード・バンカーである。その中でも、自伝的小説といわれる本作。なかなかの読み応えである。
本作に出てくる主人公は、いわゆるクライム・ノヴェルによくみかける開き直り型ではなく、一度犯罪を犯してしまった故に、おちてゆく主人公といったパターンなのかもしれないが、そこにいたってしまった過程が、どう表現していいのかが難しいのだが、別に高望みをしているわけではないのに、それさえもかなえられず、普通の社会科拒絶され、蟻地獄に捕らえられたかのように犯罪というものから逃れられずに生きてゆく姿が非常に物哀しく描かれている。
夜光虫」に続くいわゆる「不夜城」ではない、馳星周が描く物語である。
読後感としては、まず展開に強弱が無い、というのが正直な感想であろうか。おそらくは、本作が今までの作品とは異り、雑誌連載という形で書かれたということがひとつの要因ではないかと。 つまり、連載の回ごとに、ひとつの山場といったものを作り上げていかざるをえない雑誌連載という形態で描いた物をひとつの作品としてまとめた結果、全体のバランスがしばし崩れてしまったのではないのかと。まあ、そうはいってもこれは今までの作品と較べての話であり、こちらの単なる先入観かもしれない。
この作品を読んでもっとも印象深かったのは、やはり「血」ということ。肉親や兄弟などさまざまな形における「血」という絆、結びつきを本作のような観点で描いたものというのはなかなか今までなかったように思える。時としてそうったものは割と親しさなどといった明るい面ばかりから描かれ、こちらも明るいところばかりを見るようにしている感が無きにしもあらずだが、実際には哀しい面ばかりなのかもしれないな、と考えされる作品。
「リトル・ボーイ・ブルー」と同時期に日本で出版され、しかも同じ出版社でバンカーを買うなら、こちらも買わなければとワンセットで買ってしまった。
続けて読んで、まあ損をしたとは思わないが、似たような題材ではあるがこれだけ両極端なもののそれはそれで面白い。バンカーの作品が「冬の雨」とすれば、こちらは「夕立」とでもいうのだろうか。現代の作品としては別段に目新しいものではないかもしれないが、自らの心のおもむくままに生きている少年。 逆に、今でこそ、こういった主人公が渇望される時代なのかもしれない、と感じさせてくれた作品である。
しばらく、更新が出来ませんですいませんでした。おまけに、ちと内容が少ないし本も昨年のものですいません。私事ですが、昨年末から年頭へと同居人が出来まして、ちとどたばたしておりましたもので、、、、、、。
今年は、今月からのスタートになりますが、昨年同様お願いいたします。
では、また次号で。
All contents Copyright: 1996, 1999 Takashi and Kyousuke Amano
and The Maltese Falcon Society in Japan
All Rights Reserved.