質問、意見等はこちらへどうぞ。[kyou4-a●ルナドットEメイルドットエヌイードットジェイピー(luna.email.ne.jp)](●を@に)天野 貴司
三月二十九日に今年最初の関東例会が行われました。
新規会員の方や、例会に初参加という方、そして別段ゲストというわけではないけれど、現在デビュー作「不夜城」で人気沸騰中の馳星周氏を交え、二十名ほどが集まっての例会となりました。
馳氏の「深夜プラスワン」でのバーテンダー時代や、日本冒険小説協会の事、書評家時代などのいろいろなエピソードや、会員同士のいつものミステリや映画などなどのいろいろな話題、フライヤーでお馴染みの丸鷹御意見番直井奉行のお話と、短いながらも楽しい例会となりました。
話題は尽きないもので、例会の場所である「オリエンタル・ムーン」を出た後も、近くの喫茶店へ移動しての延長戦。
次回の関東例会は「ハメットバースディ・ディナー」。そこでまた会えることを楽しみにして、みな帰路に着いたようです。その後は馳氏の話題につられてか、新宿方面に流れた人も居たようですが。(おそらく「深夜プラスワン」を目指して)
読み終わっての第一の感想、ああもう読み終わってしまったの一言。楽しく過ごしている時間の過ぎるのは速いというのは、本を読む事にもあてはまるようで、面白く、また物語の中に惹き込まれれば惹き込まれるほど、頁をめくるスピードが上がってしまい、結果として楽しみが短くなってしまう。幸か不幸か、そういった作品にはあまり遭遇しないのではあるが。
まあ、それはさておき、新しい私立探偵の登場である。かつての私立探偵達のような、孤高の騎士といった造形は、多分もう現れてこないであろうが、本物語のハリー・ライスのような、いわば等身大の主人公。周りを見渡せばすぐ近くにいるような人物というのも身近に感じられる分だけ、行動や感情の動きにすんなりと同調出来る。これが物語に簡単にとけ込める要因のひとつでもあるように思える。
決してタフではない主人公、そしてそれを補うように腕っ節の強い相棒。このパターンは、ロバート・クレイスのエルヴィス・コールシリーズに近いとも言えるし、ありふれているとも言えるが、それはそれでなかなかいい味をだしている。
全体としてはかなり粗削りな印象を受けるが、逆に今後どう変化していくかがまた別の楽しみでもあったりする。
「ストリート・キッズ」は正直言ってあまり良いとは思わなかったのだが、今度の物語はじーんと胸に染み入ってしまいました。
典型的な主人公事件巻込まれ型のストーリーだけど、登場人物達の描き方にめりはりがあるせいか、多少の大風呂敷もなんのその。
一種独特の哀愁感を漂わせた後半も、切ないながらも読み終えた後にふわっとした余韻を残してくれて、妙な心地好さを感じさせてくれる。
読んでいて、どうも気になったのが過去のエピソードがいたる所に出てくるという点。作者名もちょっと記憶の片隅にあったのでちらっと解説をめくれば案の定シリーズ物。九十二年に新潮文庫で出版された「殺しの儀式」がシリーズ一作目で、本作品は四作目にあたるようだ。
「殺しの儀式」は、冗談だろ!ってラストで結構腹を立てた覚えがあるが、すごくつまらないという作品ではなかった記憶がある。ただ、本作品にも言えるのだがちょっとそつがなさすぎるかなあ、と。読ませるつぼは押さえているのだろうが、逆にそれが平凡さを前面に出してしまう結果になっているように思える。
しかしまあ、シリーズ物がちゃんと訳出されないのはいつもの事ではあるが、賞を取ったからって、突然出版するってのもなあ。シリーズ物の円熟で評価を受けていく作品も多いと思うのだが。
久々に目一杯外してしまった。「図書館」という言葉に惑わされたのかもしれない。
「エリー・クラインの収穫」「ストーン・シティ」に較べるとちょっとパワー・ダウンしたかな、と。もっとも、ねちっこい描写は相変わらず。
自分が殺人事件の犯人にされてしまうかもしれない、といって素人が警察の真似事で犯人捜しをしていく。まあよくある設定ではあるが、どうも主人公の行動が行き当たりばったりで読んでいて訴えてくるものが無い。何かひとつでもポイントがあれば別なのだが、苛立ちばかりが残ってしまった。
ミッチェル・スミス ( Mitchell Smith ) (布施 由紀子 訳 新潮文庫)
ごく普通の勤め人である主人公。ベトナム戦争時代の悪夢に惑わされながら惰性で過ごしている日々。これが偶然目にした転落事故をきっかけに事件に巻込まれていく。ともすれば安易ともとれる展開ではあるが、裕福な家庭そしてベトナム戦争を経て、自分自身を、ひょっとしたら元々形をなしていなかった本来の自分という物を追い求めていく物語のように感じられる。
ストーリーの流れからすると、もう少し短い方が良いようにも感じるが、これでもか、と言わんばかりの描写は作者の描き方の癖だろうか。これが無いと、やっぱりちょっと中身のない物語になってしまうのかもしれない。
ちょっと彩りを添えようと、デジタルカメラで撮った写真を入れてみました。まあ、その分少し読み込みが遅くなってしまったかもしれませんが。
それと「ファルコン」の絵も前号の途中から追加と。この絵は、ケンリックなどのイラストでミステリファンお馴染みの桜井一氏が、本会の為に描いてくれた物で、フライヤーの顔とも言える存在です。
さて、では楽しい本に巡り会える事を願って、また次号で。