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1.君の膵臓をたべたい 2.また、同じ夢を見ていた 3.よるのばけもの 4.か「」く「」し「」ご「」と「 5.青くて痛くて脆い 6.麦本三歩の好きなもの 7.この気持ちもいつか忘れる 8.麦本三歩の好きなもの 第二集 9.腹を割ったら血が出るだけさ 10.恋とそれとあと全部 |
告白撃、歪曲済アイラービュ |
1. | |
「君の膵臓をたべたい」 ★★☆ | |
2017年04月
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かなり衝撃的な題名です。それ故に読んだ方が良いのかどうか迷い、一旦は見送ったという経緯あり。それでも気になり、どうも評判が高いらしいと知り、改めて読むに至った一冊。 |
※映画化 →「君の膵臓をたべたい」
2. | |
「また、同じ夢を見ていた」 ★★ |
2018年07月
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本書の主人公は小柳奈ノ花、小学生の女の子。 両親が仕事をしていて夜にならないと母親が帰宅しないため、放課後はいつも野良猫のナーを伴い、きれいなお姉さんであるアバズレさんのアパート、丘の上の一軒家に住むおばあちゃんを訪ねて時間を過ごしている。 後、無人建物の屋上で知り合ったリストカット癖のある女子高生=南さんとも知り合う。 本好きで“かしこい子”を自認する奈ノ花ですが、クラスに友達はおらず、どちらかというと孤立気味なのか。 クラス担任のひとみ先生が出した国語授業の課題が、「幸せとは何か」。 本書は、奈ノ花がその答えを見つけるまでの、小学生版成長ストーリィと言えます。 主人公の奈ノ花のキャラクターがユニークで、大人の目からするととても魅力的。その分、子供らしくないとも言えますが。 (※人生について奈ノ花が語る幾つもの比喩、これが楽しい) その一方で、ナーをお供にする奈ノ花がアバズレさんや南さん、おばあちゃんと親しく交流する様子は楽しい。 実は本ストーリィ、ある仕掛けがあるのですが、中盤でそれに気付きました。乙一さんのかつての作品に似たストーリィがありましたから。でも乙一作品は短編、本書は長編。その分、他の登場人物との会話が楽しめ、そして胸熱くなるものがあります。 ベストセラーの後の2作目としては、十分に及第点。何より、好感の持てる作品に仕上がっている処が嬉しい。 本書は、多くの人へ、今後の人生へのエールを送るストーリィです。お薦め。 |
3. | |
「よるのばけもの」 ★★☆ |
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2019年04月
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デビュー作の題名にも驚かされましたが、本作では冒頭の展開から驚かされます。よくもまぁ、こんなストーリィを思いつくなぁと。 後から気が付くと似たような出だしにカフカ「変身」がありますが、まるで違った印象。変身するのは夜だからでしょうか。 「夜になると、僕は化け物になる」というショッキングな一文からストーリィは幕を開けます。 目から黒い粒が零れ落ちるとそれはみるまに全身を覆い、主人公の安達は、足が6本・目が8つ・尾が4本の化け物へ毎夜変身してしまいます。そのまま外へ。人を驚かすことにも飽きた主人公はある夜、忘れた宿題を取りに中学の教室へ。 そこで主人公は、思いがけない人物に出会ってしまいます。 それは、ある意味クラスで目立っている同級生の矢野さつき。 化け物の正体にすぐ気づいてしまった矢野、何故こんな時間に学校にいるのかというと、昼休みならぬ“夜休み”なのだと。 読み進んでいくと、本作が現在ではもはや定番ともいえる学校教育問題を扱っていることが判ります。 “化け物”とはいったい何を言うのか。外見を言うのか、それとも心を言うのか。 それ以上に、形も見えず、正体の判らないものこそ化け物と言うべきではないかと思います。 もう一人の主人公と言うべき矢野さつきが、何故いつも笑っているのか。その理由とストーリィの最終場面には、胸の中を突き刺されるような思いが残ります。 そしてまた、矢野さつきの健気さが愛おしい。 お薦め。 |
4. | |
「か「」く「」し「」ご「」と「」 ★★☆ |
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2020年11月
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変化球ばかりがその個性、特徴かと思った住野よるさん、今度はなんと直球どまん中勝負の青春ストーリィ、と思ったのですが、そう易々と単純なものではない!という処が住野よるさんらしさなのでしょうか。 大学受験前の高校3年、同じクラスで仲の良い男女生徒5人の、互いに交錯する想いを章毎、ひとりひとりを主人公にして描いた高校青春ストーリィ。 ただし、題名といい、各章題といい、何やら不可解な語の羅列。一体何の趣向なのだろうかと思ったのですが、それは読んでみればすぐ判ります。 単純な高校生ストーリィでないという理由は、5人共それぞれが向かい合う相手の気持ちを表す或るサインを見る力を持っているという設定にあります。 しかし、それは決して万能ではない。サインの意味を読み取るのは結局各人の洞察力に任されているのですから。 内気男子の京くん(大塚)、元気者女子のミッキー(三木)、パッパラパーを演じるパラ(黒田)、何があっても動じないヅカ(高崎)、内気女子のエル(宮里)といった5人、それぞれ個性的で魅力に富んでいます。 そしてその5人の関係をややこしくしているのが、仲が良い組み合わせと好きという想いの組み合わせが異なっていること。 いやー、これだけ舞台設定、趣向が凝られていれば、数多くある高校青春ストーリィの中でも頭一つ図抜けていると評しても過言ではありません。 ちょっと普通ではない処のある高3男女5人に交錯する想いを見事に複数視点から立体的かつ繊細に描き出した青春譚。自分のあの頃を思い出し、読み処・感慨ともたっぷりです。 住野よるさん、ますます見逃せない作家になりました。 プロロオグ/か、く。し!ご?と/か/く\し=ご*と/か1く2し3ご4と/か♠く◇し🍀ご♡と/か↓く←し↑ご→と/エピロオグ |
5. | |
「青くて痛くて脆い」 ★★ |
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主人公の田端楓は、大学に入学した早々、秋好寿乃という女子学生と出会う。 授業中、突拍子もない質問を連発し、周囲から浮き上がるばかりの秋好だったが、皆を幸せにしたいという理想に向かって邁進しようとする彼女のペースにいつしか巻き込まれ、秋好と田端は2人だけで秘密結社<モアイ>を結成する。 しかし、その田端が卒業を目前に控えた今、この世界に秋好寿乃はもういない、大きな団体となった<モアイ>はヒロという現リーダーの下にすっかり変質してしまったと彼は言う。 そして田端は「僕が、秋好が残した嘘を、本当に変える」と、<モアイ>を潰そうと決意する。 題名でいつも読者を強烈に惹きつける住野さんですが、本作においてもそれはどんな意味なのか?と、まず興味が湧きます。 そしてその意味は、読み始めてすぐ、あぁそういうことかと感じ取れます。大学1年、理想を大いに語り合う。しかし、それは傷つきやすいことでもあります・・・。 果たして本書題名の意味は、上記のとおりだったのでしょうか。読み終えた今、別のことではなかったかと思い返します。 大学の中というのは、所詮世間から守られた領域ではないでしょうか。その枠の中で動く学生たち、純真なほど傷つきやすいのではないか。 終盤、主人公とその相手が互いに激高して罵り合う場面、格好をつけていた表情をかなぐり捨てて傷つけあう場面は、真に圧巻、迫真に満ちています。 上記の場面、そしてその数年後となるエピローグ場面を、どう捉えたらよいのでしょうか。 安易にその答えを自分の中で決めたくない、と思います。 そのままにして、何度も思い返して考えてみる、その方が本作に相応しい気がします。 あぁ、なんと青春とは、輝きがあると同時に残酷さも併せ持っていることか。 ※ふと、青春映画の古典的名作「草原の輝き」(主演:ナタリー・ウッド、ウォーレン・ベイティ)を思い出しました。 |
※映画化 →「青くて痛くて脆い」
6. | |
「麦本三歩の好きなもの」 ★★ |
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2021年01月
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大学図書館で働く麦本三歩という若い女性を主人公に、ごくありふれた日常の生活を、明るく、愛おしく描き出した作品。 ごく日常の生活、光景を描いたというと、すぐ柴崎友香さんの作品が思い浮かびますが、同じ傾向であっても手触りは大きく異なります。 柴崎作品の主人公の多くは地味な存在。それに対して本作の麦本三歩はかなり愉快な存在です。 同じ等身大の主人公像とは言っても、ちょっとそそっかしくて、不器用でドジ、周りを気にするようでいて鈍感、といったキャラクター。自作自演により、ごく小さなことを大騒ぎしているというコミカルさがあり、真に愛すべき存在です。 それはそのまま、本作に描かれるごく普通の日常生活を象徴しているようです。 職場である大学図書館で、同じミスを繰り返すところがあるようで、指導係の“怖い先輩”に年中怒られているほか、“優しい先輩”や“おかしな先輩”ともいろいろと・・・。 毎日繰り返すフツーの日常生活であっても、丁寧に見直してみればそれはとても愛おしいものである筈、そんなメッセージが本作から伝わって来るようです。 好きなもの、楽しいものが沢山あることは、実に幸せなことだなぁと思います。 毎日、見直してみるようにしよおっと。 麦本三歩は歩くのが好き/麦本三歩は図書館が好き/麦本三歩はワンポイントが好き/麦本三歩は年上が好き/麦本三歩はライムが好き/麦本三歩は生クリームが好き/麦本三歩は君が好き/麦本三歩はブルボンが好き/麦本三歩は魔女宅が好き/麦本三歩はファンサービスが好き/麦本三歩はモントレーが好き/麦本三歩は今日が好き |
7. | |
「この気持ちもいつか忘れる」 ★☆ |
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2023年07月
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住野さん曰く、初の恋愛長編、とのこと。 今の生活に何の楽しみも見いだせていない高校生=鈴木香弥が主人公。 夜一人でランニングをしている香弥が立ち寄った、用済みのパス停。そこで香弥は、自分に呼びかける不思議な声を聞きます。 しかし、目を向けた香弥がそこに見出したのは、幾つもの光る点だけ。その正体は、全くの異世界に生きている少女。 「チカ」「カヤ」と呼び合うことになった彼女との出会いを重ねていくうち、香弥は自分がチカを恋していることを自覚します。しかし・・・・。 幽霊とか時空を超えた相手との恋ストーリィなら何度か読んだ覚えがありますが、異世界、そのうえその姿もろくに見ることのできない相手というのは珍しい。しかも、チカの生きている異世界には恋愛という感覚がないというのですから。 全体の2/3を占める上記展開は現実離れしていて、いや現実にある高校生活が希薄で、率直に言って違和感を覚えます。 しかし、題名となっている本作テーマが扱われるのは、その15年後を描く終盤。 忘れ難い恋愛の記憶。しかし、それは忘れずに抱えていることができるものなのか。忘れることは自分への裏切りなのか。 いや、どんな忘れ難い出来事や想いもいつしか記憶だけになり、気持ちそのものは忘れていくものではないでしょうか。 忘れることは罪ではなく、それは前に向かって進むために必要なものであり、進んだことの証なのではないか。 最後、主人公は救われて終わるのか、それとも救われずに終わるのか・・・どうぞお楽しみに。 |
8. | |
「麦本三歩の好きなもの 第二集」 ★★ |
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2023年01月
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ちょっとドジな若い女性=麦本三歩の日常的な日々を描く「麦本三歩の好きなもの」第2弾=「第二集」。 いやあー、楽しいですね~、麦本三歩の日常世界は。 相変わらず言葉を噛みながらジタバタと、失敗を繰り返す三歩ですが、とにかく明るいところが愉快、楽しい、愛おしい! 基本的には前作「第一集」とおりの日々ですが、ついに後輩が入ってくることで今までのように先輩たちから見た末っ子に甘んじている訳にはいきません。 とはいっても、暫くすると“真面目な後輩ちゃん”の前でもミスを繰り返すようになるのですから、三歩は真に愛すべき存在。 本作で特に楽しかったのは、次の篇。 ・「蟹が好き」:“うるさい友達”から彼女の美味しい弁当に釣られて参加した合コン絡みのお話。 ・「角が好き」:年末年始と久しぶりに実家に帰郷。二卵性双生児であるしっかり者の弟や両親との、家族風景が描かれます。 ・「パーティが好き」:先輩の結婚式に招待され披露宴に出席。とこおろがそこでも・・・。 ・「復讐ものが好き」:退職する先輩との別れを前にしてのあれこれ。三歩節の炸裂!という観あり。 麦本三歩の日々、まだまだ続きますよね、きっと。 麦本三歩は寝るのが好き/麦本三歩は焼売が好き/麦本三歩は蟹が好き/麦本三歩はプリンヘアが好き/麦本三歩は辻村深月が好き/麦本三歩は東京タワーが好き/麦本三歩は女の子が好き/麦本三歩は角が好き/麦本三歩はパーティが好き/麦本三歩は楽しい方が好き/麦本三歩は復讐ものが好き/麦本三歩は明日が好き |
9. | |
「腹を割ったら血が出るだけさ」 ★★ |
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かなりインパクトの強い題名です。デビュー作の「きみの膵臓をたべたい」を彷彿とさせます。 「きみの」の山内咲良も個性的な少女でしたが、本作に登場する高校生の糸林茜寧、その一方でアイドルグループのメンバーである後藤樹利亜も十分に個性的。 ただし、「きみの」が一直線の青春ストーリィであったのに対して本作は、かなりねじり曲がった感じの青春苦悩篇、という印象です。 糸林茜寧は皆から広く“愛されたい”願望の強い女子で、そんなキャラを作り上げてしまっている自分が厭で仕方ない。 そんなある日、共感する小説「少女のマーチ」に登場する<あい>そっくりな人物に出会い、自分を救ってくれる人物であってほしいと纏わりつくことになります。 その相手、宇川逢もまた個性的な人物で、女装の美男子。いつも本音で行動している。しかし、その逢に茜寧の気持ちがどれだけ理解できているのやら。 一方、女子アイドルグループ<インパチェンス>のメンバーである後藤樹利亜は、自らストーリィを作り、それに沿ったアイドル像であろうとしている。 それに対して敵対的に登場するのが、茜寧の幼馴染で同級生でもある上村竜彬。劣等感の裏返しで茜寧、樹利亜の化けの皮を何としてでも剥いでやろうと狙い定めている。 要は4者4様のストーリィなのですが、最も揺らぎがないのは、本音で全てを片づけてしまっている逢でしょう。 それに対して、茜寧や竜彬は、その年代でそうしたポジションならそうした悩みも当然あると思いますし、樹利亜にしろアイドルならその程度のキャラ作りは当たり前、と感じます。 それなのに各人が悩み、痛みを感じているのは、自分だけで完結してしまっていて、他の人間と本気で関わろうとしていないからではないでしょうか。 思い切って本音をさらしてしまえば当然に痛みもある、でもその後はすっきりできる筈、というメッセージを本作題名からは感じます。 痛み晒し合いの青春群像劇、と言いたいところです。 |
10. | |
「恋とそれとあと全部」 ★☆ |
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高校の同級生であり、下宿仲間であるめえめえ(瀬戸洋平)とサブレ(鳩代司)。 めえめえはサブレが好きだという気持ちを打ち明けられずにいたが、夏休みに遠方の祖父の家に行くというサブレから、思いがけず「じゃあ一緒に行く?」と誘われ「うん」と即諾。 そこから、めえめえにとって特別な四日間が始まります。 普通、いくら親しいからといって男友達を、祖父の元へのお出かけに誘ったりしないですよね。 それが下宿仲間という特殊性なのかもしれませんが、サブレを好きだという想いを隠せなくなってきためえめえにとっては、あれこれ考えてしまう旅となります。 とくにサブレが、あれこれ気にし過ぎるタイプの女の子とあってはなおのこと。 途中、度々同級生たちからのLINEが届く、という処はいかにも高校生たちらしい。 あぁ面倒くさい。とはいえ、高校時代の恋なんてそもそも面倒くさいものなのかもしれません。いろいろ想いを巡らせすぎてしまって。だからこそ忘れられないのかもしれませんが。 祖父の家に行こうとするサブレの目的がかなり奇妙なものなのですが、それと対照的に2人での旅、一人暮らしであるサブレの祖父との短い同居生活は、居心地が良さそうです。 しかし、最後、お互いが隠してきたことを明らかにせざるを得ないことなり・・・、あー面倒くさい。(笑) 果たしてめえめえの恋は叶えられるのかどうか。それは読んでのお楽しみです。 |