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11.ほかほか蕗ご飯−居酒屋ぜんや No.1− 12.17歳のうた 13.ふんわり穴子天−居酒屋ぜんや No.2− 14.リリスの娘 15.ころころ手鞠ずし−居酒屋ぜんや No.3− 16.さくさくかるめいら−居酒屋ぜんや No.4− 17.若旦那のひざまくら 18.つるつる鮎そうめん−居酒屋ぜんや No.5− 19.あったかけんちん汁−居酒屋ぜんや No.6− 20.愛と追憶の泥濘 |
【作家歴】、こじれたふたり、羊くんと踊れば、泣いたらアカンで通天閣、迷子の大人、ヒーローインタビュー、ただいまが聞こえない、虹猫喫茶店、ウィメンズマラソン、ハーレーじじいの背中、ほかほか蕗ご飯 |
妻の終活、ふうふうつみれ鍋、とろとろ卵がゆ、さらさら鰹茶漬け、雨の日は一回休み、たそがれ大食堂、すみれ飴、萩の餅、ねじり梅 |
蓮の露 |
「ほかほか蕗ご飯−居酒屋ぜんや−」 ★★ | |
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坂井希久子さんが時代小説というのも意外でしたが、いきなりシリーズものとはねぇ・・・。 美味しい惣菜とご飯を手軽な値段で提供する、美人で気品ある女将が営む居酒屋を主舞台にした“居酒屋ぜんや”シリーズの開幕です。 貧乏旗本の次男坊=林只次郎、鶯に美声で鳴くよう躾ける腕を買われ、請け負ったその稼ぎで今や実家である林家の家計を実質支えているという状況。 そんな只次郎が、ここに行けば悩み事もすぐ解決してしまうと鳥の糞買いである又三に連れて行かれたのが、庶民的な居酒屋のぜんや。美人で気品漂うお妙に一目惚れした只次郎、さらにそのお妙の作る料理の美味さに謹厳であるべき武家という身を忘れ、思わず「うまぁ!」と。 完結するまで高田郁“みをつくし料理帖”シリーズを愛読してきましたが、同作品には少々悲壮的で必死な様相がありました。 それと対照的に本書は、お妙に亭主と死別するという不幸があったとはいえ、お妙が作る料理はごく庶民の味で気軽に舌鼓を打てるものですし、「うっま!」と叫ぶ只次郎を始めとして和気藹々とした楽しさに満ちています。 ちなみに主要な登場人物はというと、武家らしからぬ只次郎に、その只次郎と漫才コンビのような駆け引きを始終繰り広げる大店の隠居、お妙、お妙と店を営む大年増で口の悪いお勝、等々と一人一人が楽しい。 そうした点が本書の魅力。これからシリーズ本として楽しめるかと思うと、嬉しくてたまりません。 笹鳴き/六花/冬の蝶/梅見/なずなの花 |
「17歳のうた」 ★★ |
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2019年05月
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純粋で、かつ爽快な青春譜、5篇。 17歳と言えば、全てはこれからという年代。これからに向かって足を踏み出そうとしている時期と言っても良いかと思います。 5篇の主人公は、いずれも17歳の少女たち。 そこはそれ、同じ17歳と言っても各々置かれた状況や思いも、人それぞれです。 でも共通して見えてくるのは、自分一人では何も出来ないことを知り、だからといって自分が頑張らなければ何も始まらないことをまた知る、という青春&成長ストーリィです。 ・「Owner of a Lonely」:中学を卒業して舞妓の世界に飛び込んだ彩葉。久し振りに戻った東京でかつての同級生たちと再会しますが・・・。 ・「Hero」:マグロ漁師の家に育った留子の思いは・・・。 ・「We are the Champions」:ひょんなことから後に引けないこととなり、元レディース総長だった姉の真似をして難局を乗り越えようとするマリエ・・・。 ・「Changes」:失踪した兄に変わって神社の神職を継ぎたいと望む千夏ですが、氏子総代の反対する声は大きく・・・。 ・「I Want You Back」:冴えない地元密着型アイドル“雪ん娘”で奮闘するみゆきですが、リーダーであった美琴が受験を理由に辞めたことが鬱屈して残っている・・・。 心から気持ち良く感じられるストーリィを読みたい方にお薦め。 私としては特に、「Owner of a Lonely」と「Changes」の2篇が好きです。 Owner of a Lonely Heart/Hero/We are the Champions/Changes/I Want You Back |
「ふんわり穴子天−居酒屋ぜんや−」 ★☆ |
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「ほかほか蕗ご飯」に続くシリーズ、第2弾。 前作が楽しく、第2作も楽しみにしていたのですが、登場人物も基本的には前作からの延長で新しい展開は然程見られなかったところがちょっと残念。 でも、「ぜんや」の女主人であるお妙が作り出す数々の料理は、身近で本当に美味しそう。それを空想しながら味わうだけでも楽しみは十分です。 なお、鳥の糞買いである又三が姿を消して只次郎らが心配。それに代わるかのように、只次郎の義姉であるお葉の父親で北町奉行所の吟味方与力である柳井が登場。 お葉の実母が死んだ後さっさと後妻を娶った上に妾まで抱えている人物とあって、お妙の周りに柳井が姿を見せるたび只次郎が過剰反応するというパターンの繰り返し。この2人のやり取りが、本巻での新しい見せ場かもしれません。 ・「花の宴」:ぜんや常連客たちで花見。お妙が用意した料理の仕掛けには、花見一行だけでなく読み手まで陶然となります。 ・「鮎売り」:いたいけな鮎売りの少女からお妙が鮎を買い取ったところから展開する篇。 ・「立葵」:病床についている母親のため、只次郎が鴨を持ち込んでお妙に料理を依頼するのですが、お相伴にあずかる人物も登場して楽しそうです。 ・「翡翠蛸」:升川屋喜兵衛の新妻で上方育ちのお志乃が「うちもう嫌やぁ」と駆け込んできて、夫婦の深刻な危機。 しかし、女性はいざとなると強いですねぇ。男たちと女たちの考え方の違いが際立つ篇。分が悪いのは男たちの方であることは言を俟ちません。 ・「送り火」:妖怪髪切り騒動と、送り火という行事の中に亡き夫=善助に対するお妙の想いが覗かれます。 花の宴/鮎売り/立葵/翡翠蛸/送り火 |
「リリスの娘」 ★★ |
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出版社紹介文によると「この女は麗しき悪魔か、それとも淫らな女神か。・・・夜の魔女、リリスのごとき女の、蠱惑と謎に彩られた一生を流麗に描いた七つの官能連作短篇集」とか。 それ故、読むかどうか迷ったのですが、読んでみたところ意外に面白かった。 確かに官能小説ではあります。 凛子という主人公の、少女から老女までの一生を7篇に分けて描いた連作短篇集。そのどの篇にも男女の官能的なシーンが描かれていますし、それが主要場面とも言えます。 おぉっ、確かに官能小説だ、でも何故坂井希久子さんが? というのが読み始めての最初の思い。 確かに官能ストーリィではあるのですが、それほど煽情的ではなく、意外にあっさりした印象。何故ならそこでは、相手となる男性の愚かしさが対照的に浮かび上がってくるからです。 凛子の方が楽しみ半分&演技半分であるようなのに対して、男側は生身の自分をさらけ出させられてしまった、という風なのですから。 児童施設から金持ちの老人に引き取られた養女という頼りない身の上から、経営者としての力量も現しつつ、風格を漂わせると同時に蠱惑的な魅力も失わない一人の女傑へと変身を遂げた凛子の一生は、まさに圧巻。 官能シーンも読み処ではありますが、その背後にある凛子の人生ストーリィこそが本当の読み処。 最終篇の「夢の守り人」では、凛子という女性の印象が一気に覆ります。お楽しみに。 ※ちなみに“リリス”とは、古代伝承で夜の妖怪(魔女)といわれ、アダムの最初の妻ともされている一方、現代では女性解放運動の象徴の一つとなっているそうです。 黒猫のリン/消えない罪と、甘美な罰/優しい幻影/人形の家/女神の采配/ガラスの誓い/夢の守り人 |
「ころころ手鞠ずし−居酒屋ぜんや−」 ★☆ |
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「ふんわり穴子天」に続く、シリーズ第3弾。 鳥の糞買いである又三が姿を消したまま、皆で心配していたところ、又三が遺体となって発見されます。 只次郎、お妙を見張るよう依頼を受けていたという又三の死に不審なものを感じ、お妙らに内緒で、自ら調べようと行動を始めます。 しかし、そのことによって、自分に何か隠しているとお妙から不信感を持たれ、2人の間がぎくしゃく。 しゃきっとしろ、只次郎!とついつい言いたくなる巻です。 ・「大嵐」:又三が相対死を装った遺体となって発見・・・ ・「賽の目」:又三の死に関わりがある駄染め屋を捜そうと、只次郎は旗本屋敷で開かれている賭場に潜り込みます・・・ ・「紅葉の手」:升川屋の嫁で懐妊中の志乃と、姑の関係が最悪に。自分で仲裁せずすぐ人に頼ろうとする喜兵衛ですが、放っても置けずお妙は料理を作ってお勝と共に志乃の元へ・・・ ・「蒸し蕎麦」:今は廃れた蒸し蕎麦、皆で作ってみようと、常連客たちがぜんやに集まり、挑戦します。その成果は? ・「煤払い」:ギクシャクしっぱなしの只次郎とお妙。お勝が2人の仲直りの為、煤払いの手伝いを只次郎に命じます・・・。 いくら事実を隠し、嘘をつこうと、美味しいものの前では常に子供のよう、「う、まぁい!」と正直に声を張り上げる只次郎、憎めませんねー。 お妙が作り出す美味しそうな料理の数々と、只次郎の「う、まぁい!」という声が揃っているところが、本シリーズの楽しさ。 6歳差のお妙と只次郎の仲が今後どうなっていくのかまるで分りませんが、少しずつ、少しずつ歩んでいくところも、本シリーズの味わい良さです。 大嵐/賽の目/紅葉の手/蒸し蕎麦/煤払い |
「さくさくかるめいら−居酒屋ぜんや−」 ★☆ | |
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「ころころ手鞠寿司」に続く、シリーズ第4弾。 今回は、割と平穏無事。 その所為か、お妙が作る美味しそうな料理の数々が、なおのこと印象に残ります。 そしてこれもまた定番、只次郎の「うっまぁーい」の声が。 とくに“豆腐づくし”(「朧月」)、“鰹づくし”(「鰹酔い」)という処。 ・「藪入り」:熊吉が藪入りで<ぜんや>に帰ってきますが、ちょっとしたトラブルが・・・。 ・「朧 月」:鶯の鳴き合わせ会で只次郎が知り合ったのは、勘定奉行の用人である柏木。殿さまのためルリオを所望するのですが・・・。お妙が<ぜんや>で柏木の好きな豆腐づくし。 ・「砂抜き」:火事で長屋を焼き出されホームレスとなっていた浪人者の草間重蔵。お妙が裏店住み込みの用心棒として雇うのですが・・・。只次郎の強力なライバル? ・「雛の宴」:只次郎の姪であるお栄を囲む桃の節句に、祖父である柳井与力も出席。祖父と実母(お葉)、実父(重正)と叔父(只次郎)の4人を前にしてお栄が言い出したのは・・・。 ・「鰹酔い」:女房の志乃が男子を出産した後の升井屋喜兵衛、たまにはお志乃の目の届かないところでと、親しい仲間を呼び、<ぜんや>で内祝い名目の鰹づくし料理を堪能・・・。 藪入り/朧月/砂抜き/雛の宴/鰹酔い |
「若旦那のひざまくら」 ★★ | |
2021年11月
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百貨店で婦人服バイヤーをしている長谷川芹、38歳。 母親が早くに離婚しシングルマザーとして苦労してきたため、負担を掛けないようにと懸命に頑張って来た。 その芹が仕事の関係から仕事場で出会ったのは、老舗西陣織物の若旦那=板倉充、27歳。 充の真剣な気持ちについ芹もその気にさせられ、恋仲に。 リストラで中途退職の募集があったことからこれ幸いと退職し、充の実家のある京都、充の住むマンションに移り住んだんのですが、充の両親は11歳という年齢差以外にも気にくわないところがあるのか、結婚に大反対。 充の母親からは尽く嫌がらせを受け、その母親お気に入りの嫁候補=舞妓の<菊わか>こと若葉と共同戦線と張られ・・・。 この困難に芹と充はどう立ち向かうのか。 11歳という年齢差カップル=芹と充の2人を主人公にした軽快でコミカルな恋愛&結婚ストーリィかと思ったのですが、とんだ“お仕事小説”に発展していってしまうのですから面白い。 生粋の京都人が非京都人に対して振る舞う、意地悪さ、嫌らしさが存分発揮され、評判の京都人の手強さとはこうしたものか、と知る面白さ。 京都の土俵ではタジタジの芹ですが、家業のビジネス話(直営店新設)を聞かされるや一転して充の父親や職人たちを振り回し始め、さながら鉄砲玉のように突進し始めます。すわ、逆襲か?と思わせる展開が、実に痛快。 ただ、敵対、勝ち負けに終わるストーリィではなく、お互いに相手を理解し合うまでの徹底的バトル、それを経て新たな人的ネットワークが出来上がる、というところが嬉しい、楽しいストーリィです。 お互いに遠慮、容赦のない言葉が飛び交うところは、呆気に取られてしまうこと度々、というくらい愉快。 愉快な話が大好きな方に、お薦め。 |
「つるつる鮎そうめん−居酒屋ぜんや−」 ★☆ | |
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「さくさくかるめいら」に続く、シリーズ第5弾。 毎回、季節に合った美味しそうな料理が次々と出されるところ、何と言ってもそこが一番の魅力。 そして、料理人のお妙にすっかり惚れ込んでいる旗本次男坊の林只次郎や、いつも<ぜんや>に顔をそろえる常連客の隠居や旦那衆らとの和気藹々とした賑わいが楽しいですね〜。 ・「五月晴れ」:酒問屋升川屋の喜兵衛とお志乃の間に生まれた男の子の千寿、元気だが身体中の肌が赤くただれた状態。お妙がお祝いの料理を頼まれ、升川屋を訪れるのですが・・・。 ・「駆け落ち」:町人姿になって使いにでた只次郎、偶然にも駆け落ち娘に遭遇して・・・。 コミカルさと、滅多に味わえない解放感に只次郎が酔いしれているところが楽しい。 ・「七夕流し」:亡き夫の善助との関わりをお妙が偲びます。そして、<ぜんや>の用心棒を務める草間重蔵に、ふとしたことから疑念が生まれることに・・・。 ・「俄事」:只次郎、草間重蔵の正体を調べようと元仲間内を動き回ります。一方、思いがけなくも、医師だったお妙の父親と懇意だったという人物が現れ・・・。 ・「黒い腹」:善助の死に関わる不審な点が、今頃になって浮かび上がってきます・・・。 料理と絡めた人情話シリーズと思っていましたが、終盤になって何とサスペンスのような展開に。次巻以降が気になります。 五月晴れ/駆け落ち/七夕流し/俄事/黒い腹 |
「あったかけんちん汁−居酒屋ぜんや−」 ★☆ | |
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「つるつる鮎そうめん」に続く、シリーズ第6弾。 前巻で、お妙の亡き夫=善助の死に、草間重蔵、材木問屋「近江屋」が絡んでいるらしいと分かり、<ぜんや>常連客の商店主、隠居らが秘かに調べを開始します。 一方、旗本次男坊である林只次郎の身の上にも変化が生じます。父親が兄に家督を譲ると明言。両親が只次郎の離れに住むことにすると言い出し、当然ながら只次郎は居場所を失うことになります。そうしてどこかの武家へ婿養子入りを促そうというのが、父親の魂胆か。 そして、草間重蔵からついに、善助の死に関わる事実が一つ明らかになります。 お妙、只次郎らにとって一歩前進、というのが本巻ストーリィ。 <ぜんや>を舞台にしたところでは、年の暮れ、正月の様子が楽しめます。 口切り/歩く魚/鬼打ち豆/表と裏/初午 |
「愛と追憶の泥濘(ぬかるみ)」 ★★ | |
2022年02月
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主人公の柿谷莉歩は28歳、中学校で非常勤の司書。 そこで出会った理想的な結婚相手は、教育業界最大手の会社で営業部所属の宮田博之、33歳。 好きになって積極的にアプローチするものの、博之から打ち明けられたのは、自分はセックスができないEDとのこと。 しかし、それでも構わないと明言し、博之と恋人付き合いが始まるのですが・・・。 最初こそ現代的な、多少コミカルさも交えての結婚ストーリィという感じだったのですが、あれよあれよという間に別方向へと横滑りしていくような展開。 主人公も理想的な結婚に憧れる、やや軽いだけの女性という印象だったのですが、結局は自分の都合だけだったのか。 そして最後は・・・・。 幸せな結婚像や夫婦像といったものが吹き飛ばされてしまうような展開。 結婚というものを、どれだけ自分勝手に、自分の都合だけで考えていたのか。 以前と異なり、結婚が人生の基盤であった時代から大きく変容しているということもあるのでしょう。 本作では、そうした背景に少年少女期の経験がトラウマになっていることが描かれますが、たとえそうであるにしろ、泥沼のような登場人物たちのエゴには呻かずにはいられず。 読み手を圧倒させるだけの迫力あるストーリィなのですが、個人的には目をそむけたくなる気持ちでいっぱいです。 1.秘密/2.欲望/3.家族/4.探索/5.制裁/6.天啓/7.記憶/8.安泰 |
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