|
|
1.金春屋ゴメス 2.善人長屋 -善人長屋No.1- 3.無花果の実のなるころに-お蔦さんの神楽坂日記No.1- 4.閻魔の世直し-善人長屋No.2- 6.いつもが消えた日-お蔦さんの神楽坂日記No.2- 8.まるまるの毬 10.睦月童 |
秋葉原先留交番ゆうれい付き、大川契り、九十九藤、みやこさわぎ、雨上がり、月霞む夜、永田町小町バトル、隠居すごろく、亥子ころころ、せき越えぬ、わかれ縁 |
心淋し川、婿どの相逢席、六つの村を越えて髭をなびかせる者、よろずを引くもの、首取物語、うさぎ玉ほろほろ、とりどりみどり、隠居おてだま、姥玉みっつ、バタン島漂流記 |
牧谿の猿、初瀬屋の客 |
●「金春屋(こんぱるや)ゴメス」● ★ 日本ファンタジーノベル大賞 |
|
2008年10月
|
前からどんな作品か気になっていた本なので、ちょっと空いてしまった時間を潰そうと図書館から借出したのが、やっと読むに至ったきっかけ。
時代は近未来の日本。その日本国の真ん中にありながら、別世界の如くに存在するのが「江戸国」。 その辰次郎が入国した江戸国、そこを差配するのは長崎奉行(入出国管理も必要という点では江戸町奉行より当時の長崎奉行の役割に近いという理由)。 近未来でありながら登場人物たちが走り回るのは昔の江戸そのものという舞台設定の面白さは、井上ひさし「吉里吉里人」等のSF作品に通じるものがありますが、折角の題名にもなっている金春屋ゴメスの存在感が今一つに終わった観あり。そのために、ストーリィとしての面白さが中途半端に終わったという印象が拭えません。 |
●「善人長屋」● ★☆ |
|
2012年10月
|
千七長屋、別名「善人長屋」。 差配も店子も情に厚くて、気持ちの良い善人ばかり、という評判から。 しかし、実際は大違い。差配も店子もそろって盗人や騙り等々の裏稼業を持つ悪党ぞろい。 そんな千七長屋に何をどう間違ったか、とびきりお人好しの錠前屋・加助が移り住んできたことから歯車が狂い出す。 お節介にも困っている人間に出会う度、長屋に連れ込んできては何とかしてやりたいと願う加助に皆が振り回され、本来悪人である筈の長屋住人たちが裏稼業の技を使って人助けに大奮闘、という連作短篇集。 主人公は、表稼業は質屋・裏稼業は故買屋という儀右衛門とお俊夫婦の三女でしっかり者のお縫い。 軽快な時代版エンターテイメントという風だったのですが、それを一気に重厚な読後感に変えたのは、書き下ろしで前編・後編というべき「夜叉坊主の代之吉」と「野州屋の蔵」の2篇。 善人長屋/泥棒簪/抜けずの刀/嘘つき紅/源平蛍/犀の子守歌/冬の蝉/夜叉坊主の代之吉/野州屋の蔵 |
3. | |
「無花果の実のなるころに-お蔦さんの神楽坂日記-」 ★☆ |
|
2013年09月
|
東京の神楽坂を舞台に、元芸妓で料理が全くできない祖母=お蔦さんと、両親が札幌赴任中その家に同居して祖母の食事の面倒を見ることになった中学生の孫=滝本望(のぞむ)コンビによる連作日常ミステリ。 老婦人探偵で有名なのは勿論アガサ・クリスティのミス・マープル。国内作品では吉永南央「紅雲町珈琲屋こよみ」の杉浦草という存在もありますが、世間をよく知る人間通でかつ洒脱な人物というのが本書探偵役=お蔦さんのキャラクター。 お蔦さんのお膝元、様々な経験を通じて望が少しずつ成長していく姿も本書の読み処。 罪かぶりの夜/蟬の赤/無花果の実のなるころに/酸っぱい遺産/果てしのない噓/シナガワ戦争 |
4. | |
「閻魔の世直し-善人長屋-」 ★☆ |
|
2015年10月
|
善人たちばかりが住むという通称“善人長屋”。しかし、実際に住んでいるのは小悪党ばかり。 前作は、善人長屋に引っ越してきた正真正銘の善人である加助に皆が振り回され、あろうことか悪党連中が人助けに奔走するといった滑稽味ある連作短篇集でしたが、今回加助はストーリィの中心とはならず顔見せだけ。 善人長屋の連中は小悪党ばかりながら多士済々。一致協力、各々の持ち味を生かして閻魔組あぶり出しに動き出したところは、まるで大江戸版スパイ大作戦といった風で、スリリングな面白さ。同時に、根深い苦味もたっぷり含んでいます。 |
5. | |
「三途の川で落としもの」 ★☆ |
|
2016年12月
|
橋から落ちて意識不明の状態となった志田叶人(かなと)は小学6年、12歳。 手術を拒む娘を案じる母親、自分に斬りつけた息子を案じる父親、無差別大量殺人を犯した青年の話を経た後で辿り着くのは、叶人自身が味わった出来事。 プロローグ/ダ・ツ・エヴァのススメ/因果十蔵/悪虎千里を走る/叶人の彼方/エピローグ |
6. | |
「いつもが消えた日-お蔦さんの神楽坂日記-」 ★★ |
|
2016年08月
|
「無花果の実のなるころに」に続く、料理上手な中学生の孫=滝本望と元芸者で料理ダメの祖母=お蔦さんコンビが活躍するシリーズ第2弾。今回は意外にも長編でした。 同じ中学の友人でサッカー部の彰彦とその後輩=金森有斗、幼馴染の洋平も呼んで賑やかに滝本家で夕食を振る舞ったその夜、血相を変えて有斗が戻ってきます。 軽い気持ちで読み始めたところ、予想もしなかった殺人事件? 中学生青春ストーリィ+予想以上の難事件。長編とあって思いの外に読み応えたっぷり、でした。 |
7. | |
「上野池之端 鱗や繁盛記」 ★☆ |
|
2016年10月
|
江戸に奉公に出た従姉が良縁を得て店を辞めたのでその代わりにと請われ、14歳の少女=お末は信州の小さな村から江戸に出てきます。 少女の成長と、料理茶屋の復活の足取りを連作風に描いた時代小説ですが、異色なのは各篇の内容がミステリともなっており、その解明に向けて八十八朗が名推理を披露する、という展開にあります。 |
8. | |
「まるまるの毬(いが)」 ★☆ 吉川英治文学新人賞 |
|
2017年06月
|
江戸は麹町にある菓子屋=南星屋は、菓子職人の治兵衛と出戻り娘のお永、孫娘のお君と3人で営む小さな店。 実は治兵衛、旗本の次男坊で自ら親に懇願して菓子職人になったという経緯あり。年中南星屋に菓子を食べにくる弟の五郎も出家して、今は大刹の相典寺の住職=石海。 治兵衛、石海の兄弟が元武家だったということもある所為か、各篇ストーリィの殆どは武家と関わりあるもの。というより、治兵衛の出生の故から必然的に関わってしまう、という展開です。 しかし、ストーリィとしての楽しさは、全国の名産菓子に通暁する治兵衛と菓子に関する記憶力抜群のお永、看板娘で元気の良いお君に、闊達な石海こと五郎といった家族チームワークの良さ、そして各章で登場する名産菓子の紹介にあります。 時代小説世界にも随分グルメ要素が入り込んできたものです。 |
9. | |
「六花落々(りつかふるふる)」 ★★☆ |
|
2017年10月
|
下総古河藩の下級武士の嫡男である小松尚七は、何故?どうして?と些細なことについて問い掛けばかりしていたことから変人扱いされ、「何故なに尚七」と揶揄される存在。 そんな尚七に眼を止めたのが、藩内の名家で今は出世頭の鷹見十郎左衛門忠常。 やがて用人に昇進した忠常から尚七は、他藩から養子に迎えられた次期藩主=土井利位(としつら)の御学問相手に抜擢されます。そのおかげで尚七には、蘭学等々、新しい知識・学問への扉が開けていく・・・。 何故?という疑問、知りたいという欲求、純粋無垢な探究心が前へ、前へと進む原動力となっていく。 そうしてこそ進歩が生まれるのでしょう。閉塞的というイメージの強い時代小説の世界においてそうした物語が描かれる、尚七という人物像の魅力でもありますが、何とも清々しく、楽しい。 鷹見忠常、後に隠居して鷹見泉石は江戸時代における著名な蘭学者だったとのことですが、本書において尚七に対する蘭学や世界知識への導き手となりますが、古河藩の用人~老中として政治家の横顔の方が強い。 その忠常に支えられ、また尚七の存在に癒される藩主の利位、個人欲なく探究心のままに進む尚七と、その3者の結び付きが本書における魅力の一つと言って過言ではありません。 また、歴史上に名を残す有名人物も次々と登場しているところにも興味尽きません。 なお、西條さんが本作品を執筆したきっかけは、鷹見泉石に対する興味だったそうです。また、小松尚七も実在の御学問相手だったとのこと。 表題の「六花」とは、尚七と利位が一緒になって興味を燃やす、雪の結晶のことのようです。 新しい感覚を味わえる時代小説、お薦めです。 1.六花邂逅/2.おらんだ正月/3.だるま大黒/4.はぐれかすがい/5.びいどろの青/6.雪の華/最終話.白炎 |
10. | |
「睦月童(むつきわらし)」 ★★ |
|
|
日本橋にある下り酒屋の国見屋にある年の始め、奇妙な童女が客人として現れます。 跡取り息子の央介17歳が悪い遊びを覚え、その将来を心配した父親の平右衛門が祖母の故郷である陸奥盛岡の山中にある富士野庄までわざわざ出かけ、招き連れてきたのがこの童女イオ。 痩せて野暮ったい印象のイオでしたが、ただの童女ではありません。睦月神の住まう太郎山から12年に1度ふもとの村に降りてくるという“睦月童”、俗にいう座敷童なのだという。 そのイオが持つ不思議な能力は、他人の罪をその目に映すという“鏡”の力。 そのイオとの出会いによってすっかり心を入れ替えた央介とイオのコンビが、飛び歩くようにして江戸市中の事件を解決します。 それだけならファンタジーでユニーク、兄と歳の離れた妹という様子の央介とイオコンビによる事件帳という処なのですが、終盤に至り、イオとその“睦月の里”の正体を明らかにしようとする展開になると、本ストーリィの印象は一変します。 日本古来の伝承話について私としては、無理にその正体を明らかにしようとすることなく、ファンタジーなままにしておいた方が良いのでは、と感じざるを得ません。 ファンタジーで楽しげな前半ストーリィと、シビアですっきりしない後半ストーリィ、という組み合わせによる時代物長編。 上記2つの印象がせめぎ合い、読後の感想はちょっと複雑です。 1.睦月童/2.狐火/3.さきよみ/4.魔物/5.富士野庄/6.赤い月/7.睦月神 |
西條奈加作品のページ No.2 へ 西條奈加作品のページ No.3 へ