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21.ぼくの死体をよろしくたのむ 22.森へ行きましょう 23.某 24.三度目の恋 25.明日、晴れますように |
【作家歴】、物語が始まる、椰子・椰子、おめでとう、センセイの鞄、ゆっくりさよならをとなえる、光ってみえるものあれは、ニシノユキヒコの恋と冒険、古道具中野商店、東京日記、東京日記2 |
風花、どこから行っても遠い町、これでよろしくて?、ナマズの幸運、天頂より少し下って、七夜物語、なめらかで熱くて甘苦しくて、猫を拾いに、水声、大きな鳥にさらわれないよう |
「ぼくの死体をよろしくたのむ」 ★★ |
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2022年09月
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現実的にはあり得ない話だったり、現実ではあるものの風変わりだったり、如何にも川上弘美さんならではのストーリィ世界、18篇。 軽やかで、どこかカラッとした明るさあり。そんな居心地良さを堪能できる短篇集です。 18篇の中では次のストーリィが私は楽しめました。 ・「大聖堂」:格安の賃貸物件を借りる条件は愛玩動物一匹を飼うこと。背中に一対の羽根があるその動物を主人公は「つばさ」と名づけ、お互いに馴染んでいくというストーリィ。 ・「二人でお茶を」:同い年の従姉妹トーコさんとの共同生活。外国育ちのトーコさんのちょっとしたズレが楽しい。 ・「銀座 午後二時 歌舞伎座あたり」:偶然に出会ってしまった小さな人。彼から頼まれ、狂暴猫から彼女を奪い返すことに。 ・「バタフライ・エフェクト」:2人の男女、出会うべき運命なのか? 迫真性を感じてドキドキしていたのに・・・。 ・「二百十日」:伯母の代わりに訪ねてきた少年るか。果たしてその正体は? これって楽しいなァ。 ・「スミレ」:実年齢ではなく精神年齢に応じた外見を持つことが出来るようになった未来社会。さてそこでの恋愛は・・・。 ・「無人島」:子供も成人し、家族解散を決定。私自身は御免ですが、他人事となるとなんとなく楽しい。 ・「廊下」:幕切れがきれい。人生が愛おしくなります。 鍵/大聖堂/ずっと雨が降っていたような気がしたけれど/二人でお茶を/銀座 午後二時 歌舞伎座あたり/なくしたものは/儀式/バタフライ・エフェクト/二百十日/お金は大切/ルル秋桜/憎い二人/ぼくの死体をよろしくたのむ/いいラクダを得る/土曜日には映画を見に/スミレ/無人島から/廊下 |
「森へ行きましょう」 ★★ |
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2020年12月
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留津とルツ、同じ日に同じ雪子という母親から生まれた2人の、成長〜恋愛〜結婚〜中高年という人生を、パラレルワールドとして描いた長編。 パラレルワールドであるが故に2人の人生はまるで異なり、対照的。それは2人の人生岐路における選択の違いと言えますが、単に選択の問題だけではなく、そもそも生まれた時からの性格の違いという点も大きいと感じます。だから違って当たり前。 それでも、本作を読むと、人生とは様々な切っ掛け、選択、状況の違いによって様々に変わっていく流動的なものである、という思いを強くします。 なお、2人の違いだけでなく、2人に関わる人物もみな違いが生じているという点が、妙に面白い。 終盤に至ると、岐路での選択によってさらに分岐は増えていくのですが、そのどれが正しく誤っているか、どの選択により幸せが得られたか得られなかったか、ということはありません。 要はどんな人生になろうと、自分自身がそれを納得できるかどうかが、自分の選択ゆえの結果と容認できるかどうかが、鍵なのだろうと思います。 留津にしろルツにしろ、他の誰かにしろ、ドラマチックな人生という印象はなく、多少の誇張はあるにしろいずれもごく普通のもの。 それでも、本作のように大きな視点から傍観者的に眺めると、人間の人生というのは選択があっての変容もあり、面白いものだなと感じます。 |
「 某(ぼう) 」 ★★ | |
2021年08月
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川上弘美作品というと不思議な物語が多いのですが、本作はその中でもインパクト充分。 なにしろ長い、変遷を繰り返す人生ドラマなのですから。 主人公が自分の存在を認識した時、名前を年齢も、性別すら分からず。一番古い記憶は、10分前。 そういう者が時々いると聞いたことがある、という病院医師の蔵と看護師の水沢に指導されるまま、人に擬態を繰り返していく。 まずは女子高生の丹羽ハルカ・16歳に。次は男子高校生の野田春眠(はるみ)、その次には高校事務職員の山中文夫・22歳へ。 男女、年齢を自由に変え、人への擬態を繰り返しますが、マリの時に蔵医師と水沢看護師の保護下から抜け出し・・・。 そして、自分と同様な<誰でもない者>たちとも出会い、長い年月を送っていく。 人間は生まれた時から性別も、性格もある程度決まっています。それに対し、彼らは自由に自分を変えることができ、選択することが出来ます。 しかし、それって幸せなことなのだろうか・・・。 人間に備わっていて、彼らに備わっていないものとは、何か。 彼らの宿命、運命を思うと同時に、人は何のために生きるのか、どう生きるべきなのかと、考えさせられました。 読み応えたっぷり、ある意味での一生ストーリィ。 ハルカ/春眠/文夫/マリ/ラモーナ/片山冬樹/ひかり/みのり−ひかり |
「三度目の恋」 ★☆ | |
2023年09月
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大人の女性の恋愛ストーリィはもう腹いっぱい、という状況で本作に当たってしまったような気がします。 主人公の梨子、幼い頃から恋していた相手=ナーちゃん(原田生矢)と長じて結婚。 これでもう満足できる幸せな人生を手に入れたと思いきや、ナーちゃんが幾人もの女性と関わり合うのを止めようとはしないことを梨子は知ることになります。 一方、梨子は夢を見るようになります。 その夢の中で梨子は、「昔の章」では江戸時代の吉原花魁=春月に、「昔昔の章」では平安時代の貴族の邸に仕える女房となり、その時代の恋愛を経験することになります。 その度に梨子の恋愛の相手となるのは、通った小学校で用務員であり結婚後にたまたま再会した高丘という男性。 子供心のまま無心にナーちゃんを恋した梨子は、他の時代の恋愛を経験することによってナーちゃんとの結婚生活を比較して見ることができるようになり・・・というストーリィ。 恋愛とは何ぞや、時代を超えて思考してみようとした作品、と言えるのではないでしょうか。 ただ、率直に言って、私としてはどうでもいいや、という気分。 時代によって恋愛形態も変われば、大恋愛しても結婚に至れば変わってくる部分もあろうと思いますので。 表題の「三度目の恋」とは、二度の恋模様を描いた本ストーリィの次に訪れるだろう恋のこと。 なお、「昔昔の章」では、主人公が使える姫さまの夫となるのは在原業平、また業平かとつい呻いてしまいました。 昔の章/昔昔の章/今の章 |
「明日、晴れますように−続七夜物語− May it be fine tomorrow」 ★★ | |
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「七夜物語」の続編。 主人公となるのは、仲の良い小学4年生の2人、鳴海絵(かい)と仄田りら。 名前を聞いて思い出すでしょうか? 前作「七夜物語」で主人公だった小学4年生、鳴海さよと仄田鷹彦、それぞれの子どもたちです。 りらは、虫や宇宙に関する本が大好きな女の子。口の利き方はとても丁寧で、真面目。そうした性格が仇となっているのでしょうか、同級生の女子2人から嫌がらせ、いじめに遭っています。 それでもそれがそう堪えていないのは、関心事が他にあり、また絵という仲の良い同級生がいるから。 一方の絵、両親が離婚し、母親のさよと団地で二人暮らし。でも母親には中務さんというボーイフレンドがいて、定期的に団地の家を訪れてきます。 そのりらと絵、親との関係をいろいろ考えたり、2人の性的成長にかかる戸惑いや疑問等々と、子どもたちが成長していく姿が丹念に描かれていきます。 本作は、その辺りの読み心地がとても良い作品です。 2人のそうした成長の過程で貴重となるのが、後に相談相手ともなる大学生メイとの出会いです。 そのメイの養父母が、前作に登場した欅野高校の定時制生徒で、さよと3人でくちぶえ部を結成した、南生と麦子という次第。 そして気になるのが、前作登場の、白いエプロンを身につけた大ねずみのグリクレルが本作にも登場するのか?ということ。 どうぞ安心してください、ちゃんと登場してきます。 ファンタジー性は前作より少ないですが、じっくり2人の、日々いろいろと考え、成長する姿をじっくり味わえる処が本作の魅力です。好きだなぁ。 20/ビゼンクラゲは大型クラゲ/泣くのにいちばんいい時間/ミジンコそのほか/中生代三畳紀/たましいの名前/海でおぼれそうになった/犬はまだうちにいる/ピーツピ ジジジジ/犬が去っていった/前門のとら、後門のおおかみ/二人の夜/明日、晴れますように |
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