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11.風花 12.どこから行っても遠い町 13.これでよろしくて? 15.天頂より少し下って 16.七夜物語 18.猫を拾いに 19.水声 |
【作家歴】、物語が始まる、椰子・椰子、おめでとう、センセイの鞄、ゆっくりさよならをとなえる、光ってみえるものあれは、ニシノユキヒコの恋と冒険、古道具中野商店、東京日記、東京日記2 |
ぼくの死体をよろしくたのむ、森へ行きましょう、某、三度目の恋、明日晴れますように |
●「風 花(かざはな)」● ★★ |
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2011年04月
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川上弘美さんというと、のっけから風変わりな雰囲気を漂わせている作品が多いと思うのですが、その点では珍しく、本書はごく普通の現実的な小説。 少し目立つのは、主人公が特筆したいくらい受身で、自分で何も決められない女性である、といった処でしょうか。 日下のゆりは33歳。システムエンジニアである夫の卓哉と結婚して7年という専業主婦。 静かな余韻に味わいが残る、そんな長篇小説です。 |
●「どこから行っても遠い町」● ★★☆ |
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2011年09月
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東京の東の方にある小さな商店街が舞台。 アンダスン「ワインズバーグオハイオ」に連なる、町を舞台にした連作短篇集。 すっかり「ワインズバーグ」スタイルも定着したようで、いろいろな作家が書いています。趣向が同じといってもそこは作家毎に異なる味わいがあって、この川上作品の場合は緩やかな時の流れを感じさせてくれるところが、快い味わい。 冒頭の「小屋のある屋上」では、魚屋の平蔵さんと源さんの関係がまこと不思議。これまでにどんな経緯があったのか、本篇でそれが明らかにされません。 なお、最後の「どこから行っても遠い町」と「ゆるく巻くかたつむりの殻」は、冒頭の「小屋」に至る経緯を明らかにする2篇。 小屋のある屋上/午前六時のバケツ/夕つかたの水/蛇は穴に入る/長い夜の紅茶/四度めの浪花節/急降下するエレベーター/濡れたおんなの慕情/貝殻のある飾り窓/どこから行っても遠い町/ゆるく巻くかたつむりの殻 |
●「これでよろしくて?」● ★★ |
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2012年10月
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31歳の時に結婚して8年目、子供なし、専業主婦という菜月。 昔付き合っていた彼氏の母親=土井母に偶然再会し、誘われるまま「これでよろしくて?同好会」に入会。 老若女性たち4人に加わり、小さな洋食屋に集まっては、その月の議題について好き勝手にあれこれと、フリートークを繰り広げるという趣向。 くえない女たちと思う一方、年代を越えてあれこれ語る中に家族のような団欒を見い出して居心地良いと感じる菜月。 その一方、義弟夫婦と同居していた義母が弟嫁と諍いして菜月夫婦のマンションに転がり込み、毎日の暮らしでは窮屈な思いが続くという日々。 夫婦とは何? 家族とは? 疎外感を抱え込んでしまった菜月を支えてくれるのが「これでよろしくて?同好会」という次第。 特にこれといったドラマが展開する訳ではありません。むしろ、主婦ともなれば当然にして一度は抱える迷い、悟りかもしれませんが、そこに至る過程を「これでよろしくて?同好会」を以って描いているところが面白い。 何はともあれ、「これでよろしくて?同好会」の繰り広げるフリートークがユニーク、耳を傾けているだけで充分楽しい。 |
●「東京日記3 ナマズの幸運。」● ★★ |
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2011/02/20 |
雑誌「東京人(都市出版)」2007.05〜08.08&WEB「平凡」08.09〜10.04に連載されている「東京日記」No.3。 何ということもない日記なのですが、読んでいると次第に(本書題名の由来である)内田百閧思わせる雰囲気が醸し出されてくるところが楽しい。 もっとも、百鬼園先生に比べると、現代的で柔らかい印象は、川上さんの味なのでしょう。 でも?? 過去の2冊に比べると、現実のことばかりで、あまり妄想が入り込んでいないような・・・。 「あとがき」にて川上さん曰く、以前は5分の4くらいが本当のことだったけれど、今回は10分の9くらいのことが本当だとのこと。やっぱりなぁ。 本書では、執筆に対する意気込みとパンツの色の関係にこだわってみた部分が、一番印象に残りました。(苦笑) |
●「天頂より少し下って」● ★★ |
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2014年07月
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川上弘美さんらしく、ちょっと奇妙。でもやんわりと可笑しい。そしてささやかに恋愛小説風、という7篇からなる短篇集。 どれもあっさりとした短い作品。 ですから、各ストーリィをわざわざ語ってどうこうということはなく、奇妙さと可笑しさを含んだちと恋愛風味のストーリィ、という楽しさを味わっていればそれでいい、という感じ。 恋愛小説風といっても、一般的恋愛小説の片隅をかすった、という程度のものです。 「どうせ私なんてクローンだしね」という一実ちゃんにはびっくりしますが、同時に何となく可笑し味あり。 「エイコちゃんのしっぽ」は私好み。派遣先の社員から迫られて逃げ出した主人公を助ける、エイコちゃんのやり方が思いがけなく、そして愉快。好きだなぁ。 「壁を登る」で、得体のしれない人間を一時的とはいえ平然と受け入れる綾子さん(主人公の母親)にも唖然とするのですが、五朗さんという同居人の存在感が何ともはや。 表題作「天頂より少し下って」の主人公は、女手一つで育てた息子がもう一人前の会社員、という45歳の女性=真琴さん。 年下の恋人とバーでデート中、息子とその恋人カップルとたまたま同席したり、親子でお互いの恋愛について会話するというシチュエーションが、殊の外に楽しい。 一実ちゃんのこと/ユモレスク/金と銀/エイコちゃんのしっぽ/壁を登る/夜のドライブ/天頂より少し下って |
●「七夜物語」●(装画:酒井駒子) ★★☆ |
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2015年05月
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なにやら「千夜一夜物語」に似た題名ですが、本作品は物語れる話を聞くものではなく、自ら冒険を重ねる物語。 主人公は小学4年生の鳴海さよ。3年前に両親が離婚し、現在は母親と2人暮らし。 そのさよ、ある日図書館の奥の棚で「七夜物語」という本を見つけます。それは不思議な本で、何度読み返しても、図書館を一旦出てしまうとその内容をすべて忘れてしまうという本。 その「七夜物語」を読んでから、さよは同級生の仄田(ほのだ)くんと一緒にその物語世界、七つの夜をめぐる不思議な冒険を重ねることになります。 台所仕事の特訓を受けたり、深い眠りに誘う館に入り込んだり、人間が粗末にしたモノたちが生きている世界だったり、そして最後には光と影と戦うことになったりと。 ファンタジーな冒険物語と一口で言ってしまうのは簡単ですが、本作品にはそれを超える内容を感じます。 まず2人が出会うのは大ネズミのグリクレル。そのグリクレルはその後何度も2人の貴重な導き役として登場します。 2人の冒険は決して一筋縄で語れるようなものではありません。要は、子どもが大人へと成長する過程で学ぶべきことを、七夜の冒険を通じて学んだ物語と言って良いのではないかと思います。 その七夜物語を読者と一緒に進んでくれるのが、酒井駒子さんの手による数多くの挿絵。上下巻の表紙絵だけでなく、本文中頁を繰る毎に左下隅に描かれている挿絵が、何とも楽しいのです。 本作品では不思議なことに、いつもの川上弘美さんらしさをまるで感じません。あくまで本書は「七夜物語」の世界なのです。 川上さんと酒井駒子さんが創り出す本書物語世界、とても楽しいという一言に尽きます。お薦め! 1.図書館/2.最初の夜/3.次の夜/4.二つの夜/5.五つ目の夜/6.最後から二番目の夜/7.最後の夜/8.夜明け |
17. | |
「なめらかで熱くて甘苦しくて」 ★★ |
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2015年08月
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“性”をひとつの要素として書かれた短編集、5篇。 川上さん、最初は「性欲」について書こうと思ったのだそうですが、でもすぐにそれだけを取り出すことはできないとわかった、とのこと。 直截的にセックスを描くのではなく、セックスもまた人生において切り離す、あるいは無視できない要素の一つ、と設定したところから生まれたストーリィ、と言って良いのではないかと思います。 主人公は女性であるからこそこうした広がりのある短編集になるのでしょう。初潮、セックス、出産と広い枝葉のある女性と比べて、男性だとただ「やりたい」だけの単純ストーリィに終わってしまう気がしますから。 ・「aqua(水)」は、小3で同級生となった少女2人の、高校生になるまでの時期を描いた篇。主人公がセックスを想像してみて「想像力の限界だな」と呟くところは、かなり可笑しい。 ・「terra(土)」は、ストーリィの仕掛けを掴むのにかなり苦労する篇。それでも最後は、ちょっと爽快な気分です。 ・「aer(空気)」は、出産、授乳、その後という初めての母親体験を描いた篇。生命の営みという点でかなりリアル。 ・「ignis(火)」は、男女の30年に亘る関係を描いた篇。 ・「mundus(世界)」は、かなり捉え難し。 あっさり読み終えてしまうと従来の川上弘美作品とは趣きを異にするなぁと思うのですが、再度噛みしめるように読み直すとそこはやはり川上さん、意味深な味わいを秘めています。 曲者ですよねぇ・・・・川上さんは、やっぱり。 「なめらかで熱くて甘苦しくて」という本書題名は、世代を超えての女性から見たセックスへの想いを表しているようで、これ以上ない題名だと思います。 aqua/terra/aer/ignis/mundus |
18. | |
「猫を拾いに」 ★★ |
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2018年06月 2013/12/03 |
様々な趣向を織り交ぜた短篇集、21篇。 さりげない掌編小説の数々をすぅーっと読んでいく途中、時々川上さんの仕掛けが煌めいているのに気づく、という印象です。 そもそも、いずれも時代設定も状況も定かではないストーリィ(掌編小説ですから当然かもしれませんが)。ふと気づくと宇宙人の登場が示唆されていたり、想像の産物とばかりいっていられない近未来のSFストーリィだったり、コミカルな展開があったり。 これだけさらりとした読み心地ながら、趣向に富み、仕掛けも盛り沢山という短篇集ですから、その中で自分の好みに合う篇は見つけてみよう、という読み方も楽しいのではないかと思う次第。 ちなみに私の好みに合った篇は、「誕生日の夜」「新年の客」「真面目な二人」「猫を拾いに」「クリスマス・コンサート」「旅は、無料」「うみのしーる」「ホットココアにチョコレート」「信長、よーじや、阿闍梨餅」の9篇。 朝顔のピアス/ハイム鯖/ぞうげ色で、つめたくて/誕生日の夜/はにわ/新年の客/トンボ玉/ひでちゃんの話/真面目な二人/猫を拾いに/まっさおな部屋/ミンミン/クリスマス・コンサート/旅は、無料/ピーカン/うみのしーる/金色の道/九月の精霊/ラッキーカラーは黄/ホットココアにチョコレート/信長、よーじや、阿闍梨餅 |
19. | |
「水 声(すいせい)」 ★★ |
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2017年07月
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ストーリィは、ママが50歳過ぎで亡くなった後の10年間、パパが家を出て無人のままにしていた実家に都と陵の姉弟が戻ってきたという記述から始まります。 そこから2人が子供の頃、ママが死んだ後、そして現在と、時間を行き来してこの家族の様子が語られていきます。 何より印象的なのは、この家族においてはママの存在が大きいこと、ママの存在が全ての中心であったこと。それはママが死んだ後も姉弟が繰り返しママについて語ることから明瞭です。 それだけなら、極めて絆の強い、ある家族の姿を描いたストーリィと言えるのですが、徐々にこの家族が抱えていた秘密が姉弟にも明らかにされるに連れ、この家族が極めて異形なものであったことが感じられるようになります。 しかし、異形と言ってもグロテスクといった印象はまるでなく、水の流れるようなすべらかな文章による語りがとても心地良い。 家庭とは・・・、この家族の有り様は・・・、という読み方も勿論ありますけれど、それらをさておき、本書の流れるような文章にただ心を委ねて楽しむのも、ひとつの読み方と思います。 1969年/1996年/ねえやたち/ママの死/パパとママ/奈穂子/家-現在/夢/女たち/父たち/1986年前後/1986年/2013年/2014年 |
「大きな鳥にさらわれないよう」 ★☆ | |
2019年10月
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遥かな未来、人類は滅亡しつつあり、少しでもその絶滅を延ばそうと対策が取られていたのですが・・・というストーリィ。 舞台となっている世界が未来だとは判るのですが、それがどのような未来なのかは全く不明。 というのは、人類らしきものが存続しているのかは書かれていますが、未来社会像というものは殆どと言っていいくらい書かれていません。そのため何やら未来ファンタジー世界の話を読んでいるような気がします。 ※長野まゆみ「テレビジョン・シティ」と趣向は全く異なりますが、実像を捉えがたいという点では共通する処あり。 さてストーリィの中味はというと、人間と思いきや本来の人類とはちと違う人物の登場あり、でもその一方で人類の末裔らしき人物の登場もありといった具合で、真に捉え難い。 もしかするとストーリィの時間軸は、時間の進行どおりに描かれているのではなく、逆行する形で描かれているのではないかと感じた次第。 それが正解かどうかは別として、最後にどのような変遷があったのかが謎を明かすように説明されますが、それは人類にとって救いであったのかどうか。 人間は絶滅危惧種の心配をしますが、自分たちが絶滅危惧種になった時の心配はまだしていません。 本書はそうした時期が到来した未来において、もし神様が存在するとしたら人類のためにこうした操作をするのではないだろうかと思うようなストーリィ。 しかし、それを人類が喜ぶかどうかは、絶滅危惧種となった動物自身が人間の作為をどう感じているのかと、ちょうど似ているように思います。 いっそ新しい人類が誕生してくれた方が清々しいのではないかしらん。 形見/水仙/緑の庭/踊る子供/大きな鳥にさらわれないよう/Remember/みずうみ/漂泊/Interview/奇跡/愛/変化/運命/なぜなの、あたしのかみさま |
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