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4.東京ドーン 5.6(シックス) 7.小説王 8.店長がバカすぎて 10.アルプス席の母 |
問題。 |
1. | |
●「ひゃくはち」● ★☆ |
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2011年06月
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題名の「ひゃくはち」とは「108」。 高校野球、それも甲子園球児となると、どうして大人やマスコミはああまで彼らを美化して止まないのか。 仲間たちと真剣に甲子園を目指したこと、今もその仲間たちとその頃を糧に繋がっていられること、ただそれだけで充分ではないかと思うのです。 |
2. | |
●「スリーピング・ブッダ」● ★★ |
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2014年08月
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大学時代に知り合い、タイプは異なるながらも同じ一つの道を目指した2人の青年の物語。 片や、住職である父親の跡を継ぐべく真摯に仏教とは何ぞや、禅宗に救いはあるのかと問い続ける、小平広也。 この時代にあって「宗教とは何ぞや!?」と問いかけ続ける本ストーリィ、着眼点がまず良い。それに加えて、僧侶はもっと一般人に顔を見せるべきだ、という主張にもすんなり同感。 それでも迷い、手さぐりしながらのストーリィである故に、答えは見つからなくても、読み応え十分。 |
3. | |
●「砂上のファンファーレ」● ★★☆ |
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主婦の若菜玲子、最近物忘れがひどくなったようが気がして、痴呆症が心配。 女房、母親の苦労も知らず、見ようともせず、各々好き勝手、バラバラだった家族が、玲子の病気を機に家族としての繋がりを取り戻すという、家族再生物語。 カッコだけは付けたがるくせまるで役立たずの父親、能天気な次男、夫の実家を冷たく見る長男の嫁と、この家族どうしようもないのではないか、と思わせられるのが前半。 核家族化が今では普通の家族小説の中にあって、家族の一員、家族の繋がりを訴えた本作品、今の世間には逆行しているかもしれませんが、大事なものは“家”ではなく“家族”という言葉には、納得がいきます。 母の咆哮/兄の自覚/弟の希望/父の威厳/家族の欠片 |
4. | |
●「東京ドーン」● ★☆ |
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就職、仕事、恋愛、結婚等々、悩み多き現代の若い男女が味わう苦衷を描いた連作短篇集。 職場での過酷な労働状況、フリーターの就職問題、結婚したいのにプロポーズの気配もない恋人、野球部元エースの挫折、7年越しの恋人関係の破綻。 今がどんなに辛くても、今の状況が全てではない、これで終わりではない。頭を切り替えてみれば、まだまだ新しい出発をすることもできる。 6篇、主人公は各々異なりますが、本書を通じて読むといろいろ絡み合っていることが判り、各章で明らかにされなかった各人の名前がやっと最後の「碑文谷フラワーチャイルド」で明らかになるといった仕掛けが施されており、ちと小癪。 新橋ランナウェイ/北新宿ジュンジョウハ/成城ウィキペディエンヌ/十条セカンドライフ/二子玉ニューワールド/碑文谷フラワーチャイルド |
5. | |
●「6 シックス」● ★☆ |
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2015年11月
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夏、そして野球といえば、高校野球に他ならないでしょう。 大学野球そのものがスポーツ小説の題材になるのは珍しいのではないか。高校野球程純粋に野球に打ち込むという訳でなく、いっぱしの野球人でありながらまだ学生、という中途半端な立ち位置にある所為ではないかと思います。 6篇中私が一番魅せられたのは冒頭「赤門のおちこぼれ」。予想外の面白さを感じたのは次の「若き日の誇り」でした。 赤門のおちこぼれ/苦き日の誇り/もう俺、前へ!/セントポールズ・シンデレラ/陸の王者、私の王者/都の西北で見上げた空は |
7. | |
「イノセント・デイズ Innocent Days」 ★★ 日本推理作家協会賞 |
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2017年03月
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東京拘置所の単独房での朝、「主文、被告人を死刑に処する!」という判決、冒頭から衝撃的な場面で始まる長編ストーリィ。 被告人=田中幸乃24歳、捨てられたことを恨んで元恋人の一家をストーカー、その果てに放火して妊娠中の妻と双子の女児3人を殺害。元恋人は介護施設で夜間勤務のため在宅しておらず助かったという。 母親は17歳のホステスで覚悟もないままに彼女を出産、少女時は義父から暴力を振るわれ、中学生時には強盗致傷事件を起こして児童自立支援施設入り、という経歴が裁判長によって並び立てられます。事件直前に彼女が整形手術を受けていたことから、事件は<整形シンデレラ放火殺人事件>と巷で呼ばれる。 それだけ聞けば死刑になっても当然という犯人像に落ち着きますが、本当にそうなのか。裁判長が並び立てたことはまるで正反対の事実が、かつて幸乃と関わりをもった複数の証言者(産科医、義姉、同級生、元恋人の友人、幼馴染等)による回想として語られていきます。 この子を幸せにしたいという強い思いから「幸乃」と名付けた母親、それなのにどうして法廷での「生れてきてすみません」という謝罪文言に至ってしまったのか。そこに他者の責任は無かったのだろうか。 たとえ極悪人であろうと、生れてきたことを詫びなければならないような人などいるのだろうか。それがそうなってしまったには何らかの要因があり、何人かの責任があることを改めて問うべきではないのか。 何が問題だったのか、誰が悪かったのか、などと簡単には言えないストーリィ。今まで犯罪者についてそうしたことを考えもしなかっただけに、胸を揺さぶられずにはいられません。 最後は衝撃的な結末・・・・もう、言葉もありません。 プロローグ.「主文、被告人を・・・・」/第1部.事件前夜/第2部.判決以後/エピローグ.「死刑に処する・・・・」 |
7. | |
「小説王」 ★★ |
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文芸冬の時代と言われる現在、かつて小学校の同級生であった2人は今や、大手出版社の文芸編集者=小柳俊太郎と売れない作家=吉田豊隆。 そんな2人が、お互いに編集者・作家としての覚悟を賭け、傑作小説を世に生み出そうと疾走を始めます。 どうしたら人を引きずり込むような小説作品を生み出せるのか、そのために編集者と作家は何をしなければならないのか。 本書は、“お仕事小説”の域を超えて、文芸編集者と作家の、全力投球の奮闘ぶりをリアルに描いた業界小説。 まるで幼馴染2人がタッグを組んで業界に殴り込みをかけるような意気込み、勢いを感じさせられるストーリィになっています。 ただし、冷静に眺めてみれば、如何にリアルに描こうとも、2人の奮闘ぶりを主とした単純なストーリィとも言えます。 それを多少なりとも膨らませたストーリィに仕上がっているのは、2人を囲む様々な周辺人物たちのおかげ。何とか2人を盛り立ててやろうという温かい視線がそこにあります。 とは言ってもそれだけでは★☆評価に留まるところを★★評価にアップさせたのは、知り合った時は銀座の文壇バーでホステス、後に豊隆にとって大切な女性となる晴子の人物造形。 この晴子の存在があるからこそ作家<吉田豊隆>が光って見える、と言って良いでしょう。 私にとっては、この晴子の言動がすこぶる魅力的、そのまま本作品の魅力になっていると言って過言ではありません。 |
8. | |
「店長がバカすぎて」 ★☆ |
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2021年08月
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書店を舞台にした、書店仕事を巡るコミカルな群像劇。 その筆頭が、表題からしてすぐ分かるように、能天気で鈍感な店長であることは、言うまでもありません。 舞台となる書店は、東京・武蔵野地区を中心に六店舗を展開する中規模書店の<武蔵野書店>吉祥寺本店。 そして主人公は、契約社員で文芸誌担当の谷原京子、28歳。 連作風長編ストーリィ。各章ごと「バカ」と京子から非難される人物が登場しますが、「非」敏腕店長である山本猛は、全章一貫してバカぶりを発揮しています。 でも後半、本当にそうなのか・・・、と。 どんな仕事でも、ボケ!と言いたくなるような上司がいたり、余計な苦労があったりするものですが、書店業界の厳しさ、重労働の割りに薄給という状況がさらに、主人公である京子の気持ちを苛立たせているのかもしれません。 ・「店長がバカすぎて」:非難の的は、当然ながら山本店長。 ・「小説家がバカすぎて」:デビュー作は傑作。でもそれ以来、書店員、読者を舐めている風。 ・「弊社の社長がバカすぎて」:実情を何も見ずに文句ばかりの社長が、とんでもない失態を・・・。 ・「営業がバカすぎて」:攻撃の的は、出版社の営業担当。 ・「神様がバカすぎて」:「神様」とは顧客、怒りの的はクレーマー客、という次第。 ・「結局、私がバカすぎて」:最後に、いろいろなことがバタバタと展開していき、あれあれ、といった印象。 大崎梢さん辺りの書店お仕事小説と比べると、結構シュールな内容です。 1.店長がバカすぎて/2.小説家がバカすぎて/3.弊社の社長がバカすぎて/4.営業がバカすぎて/5.神様がバカすぎて/6.結局、私がバカすぎて |
9. | |
「新! 店長がバカすぎて」 ★☆ |
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前作から3年後。 宮崎の山奥の店に左遷されていた筈の山本猛が、何と<武蔵野書店>吉祥寺本店の店長に復活。 おかげで、今や正社員となった主人公=谷原京子をはじめ、同店スタッフたちがまた嘆き、頭を痛める日々が始まります。 ・・・という訳で、前作の続編。 本を愛する気持ちから書店員の仕事を選んだのに、給料は安いうえに肉体労働等々、日々報われない思いを抱えながら仕事に邁進している書店員たち苦闘をコミカルに描いた群像劇、という点は前作と変わらず。 3年経って京子は成長したのか?というと、本人にその自覚、認識が足りないという処が課題、と言って良いかと思います。 一方、山本店長のボケぶりは相変わらず。こんな上司がいたら部下はやってられないという思いをするばかりですよ、ホント。 ・「帰って来た店長がバカすぎて」:山本店長、以前どおり迷惑な存在。そのうえ京子を育てるのが責任と言い出し・・・。 ・「アルバイトがバカすぎて」:新しいバイトの山本多佳恵の扱いに戸惑う。契約社員の磯田真紀子も苦手と言い・・・。 ・「親父がバカすぎて」:父親、SNSに嵌り、自称「神楽坂のインフルエンサー」。挙げ句SNSで暴走。 ・「社長のジュニアがバカすぎて」:社長のジュニア=柏木雄太郎が専務として入社。先日本人に猛烈抗議したというのに何故か雄太郎専務、京子に関心がある様子で・・・。 ・「新店長がバカすぎて」:本章だけ山本猛店長が主人公?と思いきや、えっこれって一体? ・「やっぱり私がバカすぎて」:新社長の意向で吉祥寺本店がリニューアルオープン。その記念イベントとして「店長がバカすぎて」を刊行した作家・大西賢也先生こと石野恵奈子のトークショーが企画されますが、新人覆面作家のマーク江本を呼びたいと言い出し・・・ 最後にあッと言わされ、笑わされる処は前作どおり。 基本的には、ドタバタ群像劇ですね。 1.帰って来た店長がバカすぎて/2.アルバイトがバカすぎて/3.親父がバカすぎて/4.社長のジュニアがバカすぎて/5.新店長がバカすぎて/最終話.やっぱり私がバカすぎて |
10. | |
「アルプス席の母」 ★★ |
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本作に関しては、刊行時から意識にはあったのですが、高校球児ストーリーはもういいかなと思って見送っていたもの。 2025年度本屋大賞ノミネートと知り、それなら読んでおこうと思った次第です。 高校野球ものは随分と読んできましたが、殆どは選手たちを描いたもの。 本作は選手の母親に視点を当てた処が珍しい。 母親から見た高校野球部、高校球児の母親、という2つの視点が興味深く、面白い。 主人公は、秋山菜々子。夫と死別し、神奈川県で看護師をしながら一人息子の航太郎を育ててきた。 湘南のシニアリーグで投手として活躍していた航太郎ですが、進学先として選んだのは、甲子園を目指す大阪の新興高校で、航太郎の特待生の扱いを提示してくれた<希望学園>。 寮生活となる航太郎の近くにいたいと、菜々子もまた大阪の羽曳野に引っ越し、近くのクリニックに勤務することになります。 さて、高校に舞台を移しての母子の戦い(目標は甲子園)はどうなるのか。 以前からよく聞く問題ですが、リトル・リーグ、高校野球部と、親がここまで狩り出され、奉仕しなくてはならないのかと、疑問に思わざるを得ません。 一方、息子が手元から離れ、寮生活を送る中で知らぬ間に大きく成長していく姿に驚く、というのは気持ち良いものがあります。 さて、甲子園出場はなるのか。そして甲子園で活躍することはできるのか。 息子だけでなく、菜々子自身の新たな人との交流も合わせ、気持ち良いストーリーになっています。 |