失火の損害賠償請求裁判

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2015.5.10mf
弁護士河原崎弘

相談:隣家から失火し、私の家に延焼した

私は、母と一緒に東京近郊の家に住んでいました。失火(火事)の損害賠償請求裁判先月、隣の家から出火して私の家に燃え移り、私の家が焼失してしまいました。隣のご主人は、てんぷらを揚げているときに火を消さずにトイレに行ったので、火がてんぷら油に燃え移り火事になったそうです。隣のご主人は、母のところに来て、「法律上責任はないが、誠意です」言って、菓子折りと金5万円程のお金の入った封筒を持ってきましたが、母は納得できないので、受け取りませんでした。
隣の家は2階がアパートになっており、隣ではアパートの居住者には、60万円位の賠償金を支払ったそうです。私ども対しては法律上の責任はないのでしょうか。隣家の土地はこのご主人の所有で、今は焼け跡を片づけて更地にして土地を売りに出しています。
母の損害は、5年前に新築した家と、衣類、私の損害は衣類、書籍などです。火災保険に入っていますが、その関係はどうなりますか。どのような手続きを取ったら良いでしょうか。
相談者は、法律事務所を訪れました。

説明:失火元は重過失の場合のみ責任がある

現れた弁護士の回答は以下のようなものでした。
火元に責任があるか、相談者の損害はいくらかなどが問題となります。
延焼につき火元に責任を認めると、木造家屋が多い日本においては延焼の範囲が広く、責任が過大になるので、「失火の責任に関する法律」により、延焼については単なる過失の場合は火元の責任を免除し、重過失の場合だけ火元に責任を負わせています。
ただし、この法律は契約関係にある被害者に対しては適用がありません(不法行為責任は免除されるが、契約責任は免除されません)。火元のご主人は、アパートの居住者とは賃貸借契約関係にあるので、アパートの居住者の損害を賠償する責任があります。

火元のご主人は、重過失がある場合だけ相談者に対しても責任があるのです。
「重過失」とは何か。
判例を見てみますと、重過失が否定された事例としては、次のようなものがあります
  1. 工場の煙突から飛散した火の粉による火災。
  2. さんが古くなって倒れやすくなったふすまが石油ストーブの上に倒れて火災になった例。
  3. 屋根工事をしていた職人が煙草を火の付いたまま投げ捨てて起こった火災。
  4. 火を消すために消火用の砂を取りに行った際ガソリン缶を蹴倒して惹起した火事。
  5. 浴槽の排水口の栓が不完全であったため、水がなくなったが、それを確認せずガスを点火し、空焚き状態から発生した火災。
  6. ベットからずり落ちた布団にガスストーブの火が点火して発生した火災。
  7. 仏壇の蝋燭が倒れて失火した場合に蝋燭の点火者及びその家族に重過失がなかったとされた(東京地方裁判所平成7年5月17日判決)
  8. 電気器具の器具付きコードのプラグと室内の壁面に設置された電気配線のコンセントの接続部分(コネクター)にほこりや湿気がたまることによって生ずるトラッキング現象が出火原因とみられる火災につき、建物の使用者の重過失が否定された・・・トラッキング現象が、火災発生の原因として注目されるようになったのは比較的最近のことであり、本件火災が発生した平成4年8月当時は必ずしも一般に良く知られた事象であったとはいえないことを理由とする(東京高等裁判所平成11年4月14日判決)・・・平成26年現在では、重過失とされる可能性がある。

重過失が肯定された事例としては、次のようなものがあります。

  1. セルロイドの玩具の販売店員がセルロイド製品が存在する火気厳禁の場所で、吸いかけの煙草を草盆上に放置し、そこへセルロイド製品が落下し、火災になった例(名古屋高裁金沢支部昭和31年10月26日判決)。
  2. 火鉢で炭火をおこすため、電話機消毒用のメチルアルコールを使用し、火鉢の火気を確認せず、アルコールを火鉢に注ぎ、火災になった例(東京地裁昭和30年2月5日判決) 。
  3. 電熱器(ニクロム線の露出しているもの) を布団に入れ、こたつとして使用し火災が発生した例(東京地裁昭和37年12月18日判決)。
  4. 藁が散乱している倉庫内で煙草を吸い、吸い殻を捨てたため、後になって火災が発生した例。
  5. 強風、異常乾燥で火災警報発令中に建築中の建物の屋根に張ってある杉皮の上で煙草を吸い、そこに吸い殻を捨てたために火災が発生した例(名古屋地裁昭42・8・9判決) 。
  6. 電力会社が引下配線が垂れ下がっているのを現認したにもかかわらず、これを放置したため、強風のため電線が切れ、家屋の火災が発生した例(大阪高裁昭44・11・27判決) 。
  7. 石炭ストーブの残火のある灰をダンボール箱に投棄したため発生した火災につき、灰を投棄した者に重過失がある(札幌地裁昭和51年9月30日判決)。
  8. 電気こんろを点火したまま就寝したところ、ベットからずり落ちた毛布が電気こんろにたれさがり、毛布に引火し火災になった例(札幌地裁昭和53年8月22日判決) 。
  9. 主婦が台所のガスこんろにてんぷら油の入った鍋をかけ、中火程度にして、台所を離れたため、過熱されたてんぷら油に引火し、火災が発生した例(東京地裁昭和57年3月29日判決)。
  10. 周囲に建物が建ち、多量のかんな屑が集積放置されている庭において、火災注意報等が発令されているような状況下で焚火をした者に重過失がある(京都地裁昭和58年1月28日判決)。
  11. 寝たばこの火災の危険性を十分認識しながらほとんど頓着せず、何ら対応策を講じないまま漫然と喫煙を続けて火災を起こした者には重過失がある(東京地方裁判所平成2年10月29日判決) 。
  12. 点火中の石油ストーブから75cm離れた場所に蓋がしていないガソリンの入ったビンを置き、ビンが倒れて火災が発生した例(東京地方裁判所平成4年2月17日判決)。
  13. マンション解体工事でアセチレンガス切断機で鉄骨切断中、飛散した溶融塊により発生した火災の例(宇都宮地裁平成5年7月30日判決)。
  14. 石油ストーブに給油する際、石油ストーブの火を消さずに給油したため、石油ストーブの火がこぼれた石油に着火して火災が発生し、隣接の建物等を焼損したことにつき、重過失があったとして不法行為責任が認められた例(東京高裁平成15年8月27日判決)。
  15. クリーニング店舗内の作業所の床面・配線等に問題があったにもかかわらず,いずれもその修理を怠り,しかもドライ液の漏出の回収を怠っているから,本件火災の発生につき,被告らに は失火責任法所定の重過失があった(東京地方裁判所平成19年9月14日判決)。
重過失とは、注意義務の懈怠が重大である場合、わずかな注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見できた場合です。俗な言葉で言えば、「火災の発生に注意すべきとき、すなわち容易に火災が予見、防止できるのに、非常識な行為をした場合」でしょう。
てんぷら料理をしているときには、ガスの火がてんぷら油に引火するおそれがあるので、現場を離れるべきではありません。現場を離れて天ぷら油が燃え火災が発生すれば重過失であり、いくつか判例があります。多くはお年寄りの場合です。
相談者が被害にあった火災の火元のご主人には重過失があり、相談者に対しても責任があります。本件の火元のご主人もお年寄りでした。
相談者の損害ですが、家については、(税法のように)5年前の建築時の費用ではなく、現在の建築費用(再調達価額)から、年1%〜2%(経年減価率)の減価償却した金額、衣類などの動産類についても同様な計算をします。
判例の中には、動産などは一律に取得価額の8割が損害であると認定したものもあります。
相談者が火災保険から支払いを受けた場合には、その金額だけ損害賠償請求権は、保険会社に移転します。保険会社が火元の責任者に請求できることとなります。

仮差押

相談者は、弁護士に依頼しました。
隣家の土地は売りに出されていますので、火元のご主人は土地を売却し、逃げるおそれがあり、そうすると相談者は裁判で勝っても、差押えが難しくなります。差押えの対象物がないと、差押ができません。
弁護士は、まず、相手のこの土地を仮差押することに決めました。普通、 内容証明郵便で損害賠償を請求し、次に仮差押えをしますが、この場合は仮差押えを急ぐ必要がありました。
仮差押えは請求金額の約2割の保証金を供託し、1週間くらいで手続きが完了します。裁判所は、相手に請求する金額の2割の金額を保証として供託するよう要求します。この保証金は後で返ってきます。
弁護士は1577万円を請求し、仮差押の申立をしました。裁判所は保証金を320万円として仮差押えを認めました。この仮差押えは登記されます。相手は土地を売れなくなりました。

請求

次に、弁護士は、内容証明郵便にて1577万円を請求しました。相手からは返事がありませんでした。

裁判

そのすぐ後、弁護士は訴えを提起しました。相手は裁判では、「てんぷら料理中に、その場所を離れていない」と抗弁し、過失を争いました。
相談者側は証拠として当日の新聞記事を提出し、市の消防本部に「火災調書」を取寄せるよう裁判所に申立てました。

和解

この段階で、裁判所から和解勧告がありました。相手は相談者に対し600万円を支払うことで和解が成立しました。
相手は仮差押えをされたので、土地を売ることができず、参ったようでした。
裁判の費用は、印紙代、切手代、弁護士費用を含めて200万円位でした。
仮差押えの申立が7月28日、内容証明郵便を出したのが 8月13日、訴えの提起が8月14日、和解成立が翌年の6月18日でしたので、早い解決でした。

自己防衛策

重過失がある場合、火元の責任は重いです。それに備えるには、個人賠償責任保険に加入すると良いでしょう。
通常の保険では、約款で、故意または重過失の場合は、免責(保険金が払われない)ですが、個人賠償責任保険では、重過失の場合は、免責となっていません。従って、重過失で、延焼につき責任を負う場合でも、保険金が払われるのです。

失火ノ責任ニ関スル法律

明治32・3・8
法40
施行 明治32・3・28
民法709条ノ規定ハ失火ノ場合ニ適用セス但シ失火者ニ重大ナ過失アリタルトキハ此ノ限リニアラス。

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