お礼奉公契約は有効ですか

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Last updated 2015.6.7mf


相談
私は、昨年、2年制の看護専門学校を卒業しました。2年間病院に勤めながら、准看護婦の資格を取りました。卒業後同じ病院に勤めながら正看護婦の資格を取るため専門学校に行くことになりました。
しかし、正看の学校へ行きながら、病院勤務を続けることが勤務時間の制約があるため、不可能だとして、昨年12月病院を解雇されました。
その後、私は前から希望していた、小児科の病院に就職し働き始めました。そしたら突然前の病院から「お礼奉公をしていないから、2年分の学費など60万円を支払え」との通知が来ました。私は、すぐ、支払わねばならないのでしょうか。
相談者は、友人に紹介してもらった弁護士に相談するため、法律事務所を訪ねました。

弁護士の回答
60万円が、授業料の貸与なのか、奨学金か、賃金かわかりません。とりあえず、典型的な例を説明します。
労働契約は3年を超える期間を定めてはいけません(労働基準法14条)。また、使用者(病院)から(貸与ではなく)一定の金銭が給付され、一定期間お礼奉公しなかった場合は、その返還義務があるとする契約は損害賠償の予定を決めるもので、労働基準法16条に反し、無効です。
金銭を貸与するが、一定期間労働したときは返済義務を免除するとの契約は有効です。
あなたの場合、上記の通りの労働基準法に合致した契約が締結されていることを前提に検討してみます。
まず、病院があなたを解雇したのですから、ことさら、貸与金の免除条件の成就を妨げたので(民法130条)、病院に返済請求の権利が発生するか疑問です。
次に、あなたは昨年12月までは勤務していたのですから、仮に病院に権利があっても、病院に対し全額を返済する義務はないでしょう。
これについては判例があり、いずれも、返還義務を認めないか、一部の返還義務しか認めません。

企業における従業員の海外留学、研修についても同様の問題があり、下記の通り判例は別れます。簡単には返還義務は認められません。最近は、実質的に判断し、労働者を拘束する目的があると、労働基準法16条違反とする判決があります。

判例 レッスン
「卒業後2年間勤務しなかった場合は、支給した金員は返還しなければならない」との規定の仕方は、労基法16条に反し無効です。
「借り入れた金〇〇万円の返済義務がある。ただし、卒業後2年間勤務した場合は返済を免除する」との規定に直せば金銭の貸与は有効となります。その場合でも 金銭消費貸借契約書 と労働契約を合体させると、問題が発生します。金銭消費貸借契約書と労働契約は別にするとよいでしょう。
企業の場合、研修とは言っても、事業の遂行をさせる場合は、一定期間前の退職に返還義務を課すと、違約金と認定され、返還義務は認められないでしょう。

質問/客員研究員として派遣
はじめてお手紙申し上げます。「お礼奉公」のページ、 たいへん興味深く読ませていただきました。
実は、私、大手のメーカーに勤めておりますが、非常に似た状況にあります。数年前に国際企業人研修と称して、米国の大学へ客員研究員として派遣されました。このときに, 会社と下記のような文書を交わしています。
今日までおびえて暮らしていましたが、 やはりこの文書は無効でしょうね。
それにしても、大手会社が, そこまで明らかに違法であるような文書を強制するとは、考え難い話です。私が想像するに、このような文書を交わしても、会社は処罰されるような法律にはなっていないので、無知な社員を縛るために, 違法であることを承知でこの文書を書かせたように思えます。ことを荒立てる気はありませんが、どうも騙されたようで、気分の悪い話です。
よろしければ、御意見をお聞かせ下さい。

株式会社〇〇〇
人事部長〇〇殿

平成〇〇年〇〇月〇〇日
氏名 〇〇 〇〇〇〇

誓約書

私儀、今般社命により 米国〇〇〇〇大学へ研修を命ぜられましたが、研修期間中、または研修終了後6年以内に貴社を退社した場合は研修に要した費用の全額を会社に返還致します。


回答
会社があなたを騙したわけではありません。裁判では、返還義務は否定されるでしょう。

質問2/看護婦のお礼奉公について
実は、看護学校2年間在学中に現在の勤務先より奨学金をもらっていました。 内容は、 ということでした。 今回、主人の勤務先の関係で転居することになり、通勤が困難なため退職せざるを得ない状況に なりました。現在の勤務先には1年5か月間勤務していますが、やはり全額返済しないとならないのでしょうか。

回答
判断に迷います。あなたに奨学金の返還義務はあるようにみえます。
しかし、上記判決に照らすと、あなたに有利な事情もあります。裁判にでもなった場合は、「1年5か月( 17 か月)勤務したから、受取った奨学金の 17/24 については返還義務はない」と主張してみるとよいでしょう。17/24 ではないかもしれませんが、一部の免除が認められる蓋然性は相当高いです。
さらに、1年5か月間勤務したことは、少なくとも、和解の際には、あなたにとって有利な事情となるでしょう。
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