相談
私は、会社を経営しています。会社の事務所は、不動産管理会社とのサブリース契約で借りています。
最近、不動産管理会社から、オーナーとの契約が解除されたとの通知があり、その後、オーナーから、明渡を求める通知が来ました。
当社は、サブリース契約であることはわかっていましたが、このような場合、明渡の義務がありますか。裁判をすると負けますか。回答
顧問の弁護士の説明は次の通りでした。
(保護すべきは転借人)
サブリース契約は、賃貸人(オーナー)が不動産を賃貸し、条件として、賃借人が一括して他に転貸借することを承諾するものである。
サブリースでは、賃借人自身による使用収益を目的とする通常の賃貸借とは異なり、いわゆるデベロッパーなどの事業者(賃借人)が、第三者に転貸して収益を上げる目的の下に、不動産の所有者からその全部又は一部を一括して借り上げ、所有者に対して収益の中から一定の賃料を支払うことを保証することをおおむね共通の内容としています。
学説においては、「サブリースの場合に借地借家法により保護されるべきは、賃借人ではなく、むしろ転借人についてである」とする。例えば、「転貸借を、賃貸人と賃借人から成る共同事業体との間の賃貸借」と見たり、あるいは「賃貸人から賃貸権限を委譲された賃借人との間の賃貸借と見る」などの法律構成によって、基礎となる賃貸借が期間満了や債務不履行解除によって終了しても、転借人の使用収益権を保護すべきであるとする見解が多く見られます。
(通常の転貸借の場合)
転貸借契約は、賃貸借契約の上に乗っています。基礎である賃貸借契約が消滅すると、転貸借契約も終了します。
しかし、賃貸借と転貸借は別個の契約であり、賃貸借が消滅すれば転貸借も当然に消滅するというわけではなく、賃貸人の承諾を得て適法な転貸借が成立した以上は、転借人の利益も保護する必要性はあります。
そこで、判例は、賃貸借の合意解除の場合は、信義則上、原則として転借人に対抗できないとしています(最高裁昭62・3・24判決、判例タイムズ653−85)。また、抵当権の目的である地上権を放棄しても抵当権者に対抗することができないので(民法398条)、判例は、同条の趣旨の類推や信義則を根拠として、地上権の放棄や借地契約の合意解除をもって地上建物の抵当権者や賃借人に対抗することができないとしています。
(基礎である賃貸借の解除理由)
あなたの場合、基礎である賃貸借が解除された理由がわかりません。通常、次の解除理由が考えられます。解除理由が、賃借人の債務不履行の場合は、あなたの会社に明渡義務がある可能性が高く、合意解除の場合は、あなたの会社に明渡義務はありません(民法398条)。
- 賃借人の債務不履行、
- 賃借人の更新拒絶、
- 賃貸人と賃借人の合意解除
賃借人の更新拒絶の場合には、微妙な問題でした。しかし、更新拒絶の場合、転借人に明渡義務がないとの最高裁の判例がありますので、あなたの会社が勝つでしょう(明渡義務はない)。判決
- 最高裁判所平成14年3月28日判決(出典:判例時報1787号119頁)
しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、被上告人(オーナー=賃貸人)は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する訴外会社(賃借人)と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって、本件賃貸借は、訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、被上告人による転貸の承諾は、 賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、被上告人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。
他方、京樽(再転借人)も、訴外会社の業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的の下に本件賃貸借が締結され、被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして、京樽は現に本件転貸部分二を占有している。
このような事実関係の下においては、本件再転貸借は 、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。
このことは、本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。
これと異なり、被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、この趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の請求を棄却した第一審判決の結論は正当であるから、上記部分についての被上告人の控訴を棄却ずべきである。
この事件は、下記の通りの契約関係で、訴外会社(賃借人、転貸人)の更新拒絶を理由に、オーナー(原告、控訴人、被上告人、賃貸人)が、京樽(再転借人)に明渡を求めた事件です。
1審では、京樽(被告、上告人、再転借人)勝訴、 、2審では、オーナー勝訴でした。
最高裁は、事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても、賃貸人が信義則上その終了を再転借人に対抗することができないと判示し、再転借人勝訴でした。
被上告人(オーナー=賃貸人) → 訴外会社(賃借人=転貸人) → 本多(転借人) → 京樽(再転借人)
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