先週 13年ぶりに登った 蓼科山 はガスと強風と霧氷で散々な状況であり、 本来の再登山目的であった 登山途中ならびに頂上から展望を得る ということが果たせないままで終わったのであった。
これで 蓼科山登山は 2回とも天候に恵まれなかったことになってしまったのだが、 こうなるとどうしても晴天時の蓼科山に登りたくなるのは 凝り性の私としては自然の成り行きで、 翌週の 11月2日 もう一度トライすることにしたのであった。
無論、これは車で行くからできる訳で、 第一回目の時のように電車・タクシーを使うのであったら とてもその気にはなれないところである。朝、やや寝坊して、前回とは少し遅めに家を出ることになってしまった。
夜空を見上げれば満天の星 という訳ではないがまあ何とか晴れており、 前回、快晴という天気予報にも拘わらず空は曇りがちだったのに比べれば、 今日は期待できそうである。
ところがである、 中央高速道を進んでやがて見えてきた 八ヶ岳 には完全に雲がかかっており、 前回よりも状況が悪い。 そして、八ヶ岳 の横を過ぎて諏訪ICで下りた時には、 またしても 蓼科山 方面は雲に覆われていたのであった。これでは前週と同じではないか と思いつつビーナスラインを進むと、前日までの雨はこの山岳地帯では雪だったようで、高度が上がるに連れて周辺にはうっすらと積もった雪が現れ始め、 ピラタス横岳ロープウェイへの道を右に分けた頃には、 道路にも雪が積もった状態になったのであった。
そして、 駐車場のある女神茶屋付近は完全に真っ白な世界で、 右折して駐車場に入るべく一旦車を止めたところ、 何と再び車を動かそうとした時には 雪の坂道でタイヤはスリップしてしまうような状態だったのであった。少しタイヤを空回りさせながらどうにか駐車場に車を突っ込んだものの、山の方は完全に雲がかかっており、前回よりもコンディションが悪いのは目に見えている。 天候も完全に曇り状態で、 日差しもなく薄暗い。
こうなるとこの先の結果は見えているだけに、 先週と同じコースを辿ることに虚しさを感じてしまう。 そして、どうしようか散々迷ったあげく、 結局この日の 蓼科山 登山は止めることにしてしまったのであった。慎重に雪道を戻り、プール平まで下りてきてからこの後どうするかを考えた。すぐに思い浮かんだのは、高速道路を使わずチンタラと甲州街道を走って このまま家路につくことであったが、 それではせっかく高い高速料金を払って諏訪まで来たことが無駄になってしまう。
近くに手軽に登れる山はないかと、 八ヶ岳・蓼科の地図裏面に書かれている広域地図を見て暫し考えた結果、 浮かび上がったのが 霧ヶ峰 であった (本当は入笠山 も思いついたのだが、 ついブランドに負けて百名山の方を選んでしまった次第である)。それではと道路地図を見ると、意外にここから霧ヶ峰は近い。まずは諏訪IC方面へと戻り、ICを通り過ぎてからは甲州街道へと入って、途中、右 霧ヶ峰の標識を見て 道を右折してからはほぼ一本道であった。
山道を快調に飛ばし、 霧ヶ峰の登山基地である強清水に着いたのは 9時15分。 遅い出発となるが事情が事情だけに致し方ない。スキー場前の駐車場に車を止めて出発したのが 9時20分。11年半前にここへ来た時は 3月で、スキー場には雪が沢山残っていたが、今回は枯葉色の草原状態で 所々にうっすらと白いものが見える程度である。
まずは車道を進む。 前回来た時もシーズンはずれで、 強清水付近のホテルは皆閉まっていたが、 今回も季節が中途半端なのであろう、 ホテルは皆その扉を閉じていて、閑散とした雰囲気は前回と全く同じである。
車道を暫く進むと、 確か前回はガソリンスタンドと料金所があったと思われるところに道の駅ができており、 ここに車を止められることが分かったのであったが、 ここまで進んできてしまってはもう後の祭りである。道の駅の向かい側、八島ヶ原湿原へと向かう道を分けるT字路のところからようやく舗装道路と離れ山道に入ることとなった。とはいっても、遊歩道のような感じの道である。 前を向けば、枯葉色をした丘の重なりの向こうに車山の高みが見える。 車山の頂上付近に白いドームのような物が見えるのが気にかかる。
前回、この辺は一面の雪の原であったが、 今回はススキ原の中である。 周囲を見渡すとスキー場を中心としたなだらかな丘のうねりが続いており、 その広々とした光景に深田久弥氏が述べていた 「遊ぶ山」 という言葉を思い出す。
また、前回は冷たい空気に遠くまで見渡すことができ、 北アルプスの山々や 御嶽、そして南アルプスの山々を見ることができたのだが、 今回は雲が低く下りてきており、遠くの山々は霞んでいる。広い砂利道が暫く続いた後、ようやく道が細くなって登山道らしくなってきたものの、正面には車山肩にあるガソリンスタンドやドライブインなどが見えて興ざめである。
しかし、前回の見渡す限り雪の原に比べて、 今回は広い草原の中を歩くことになり、 全く違った趣で楽しい。
登山道下の車道を走る車の音に興を削がれつつ車山の肩に着くと、 ドライブインの駐車場では登山の支度をしている人たちが数人いた。 ここから車山だけに登るのであろうか、 何かもったいない気がする。さて、車山の肩からはいよいよなだらかな姿を見せる車山への登りである。
高い木がなく、草原と言っても良い中を緩やかに登っていく。 道は頂上のある方向とは一旦反対の右方向へと逸れていく。 前回は、雪の上で道が分からず、 頂上まで直登したのだったが、 雪のない今、そこは柵に囲まれた立ち入り禁止区域となっている。風は冷たく強いものの、雪は道をうっすらと覆う程度で何の問題もない。しかし、あのまま 蓼科山 に登っていたら、恐らく大変苦労したことになったであろう。
太陽は時々雲間から顔を出して暖かい日差しを投げかけてくれるが、 総じて曇りがちである。
ただ、風が雲をものすごいスピードで運ぶので、 日が差したり曇ったりと忙しい。右側から大きく回り込んだ道もようやく頂上方向へと進むようになると、左手の展望が大きく開けるようになってきた。広いグラウンドのように見えるのは八島ヶ原湿原で、 その向こうには鷲ヶ峰、 形の良い三峰山が見え、 そしてその後ろには 美ヶ原 の見覚えのある形が見えるようになってきたのであった。
この霧ヶ峰から 美ヶ原 まで続く広々とした光景は、 低い山の連なりではあるものの、 これはこれでなかなか開放感があり魅力的である。道は緩やかに登っていき、やがてほぼ平になったかと思うと、すぐに 富士山 レーダを彷彿させる建物がある車山頂上であった (10時21分)。以前登った時は、頂上に展望台となる建物があり、 その屋上から周囲に見える白銀の山々の姿を大いに楽しんだのであったが、 今回、そこはまさにレーダー基地となっており、 11年の時の隔たりを大いに実感したのであった。
建物の周りを回りながら 蓼科山、八ヶ岳 方面を見ると頂上には雲がかかっている。 あのまま蓼科山を登っても頂上の展望が全く得られなかったことが分かり、 ややホッとした気分になったのであった。建物の裏手にある祠に手を合わせた後は、前回道が分からずに登れなかった蝶々深山へと向かう (10時25分発)。
車山頂上にいた人たちがリフト車山高原スキー場のリフトへ乗り場へと戻るのを尻目に、 途中から左に道をとって一旦大きく下る。 こちら側にはうっすらではあるが斜面に雪が積もっていて、 急な坂だけに少し慎重を要する。
下りついてからは標識に従って道を左にとり蝶々深山へと進む。 周囲には誰もおらず、風吹きすさぶ草原を行くといった風情である。 道の両脇には柵が作られているため、 道自体は分かりやすくなっているものの、 昨日の雨か雪のためであろう 完全な泥んこ道で少し歩くのが躊躇われる。
目の前には蝶々深山の形のよい高みがあり、 そこを 2つに割るように道がつけられている。泥に足をとられないようにゆっくり登っていくと、すぐに蝶々深山の頂上で、そこには標識 1つと、ケルンが迎えてくれただけであった (10時53分)。振り返れば車山が大きく、 そのなだらかな山腹に流れる雲が影を作っている。
行く先を見れば、 道はササ原の中に黒いスジを作っており、なだらかな丘の上をうねっている。蝶々深山を離れて暫く下ると、突然道は大きく広がりを見せて少し驚かされる。道は田んぼ状態で靴とズボンの汚れが気になるところである。やがて、道は再び登山道らしくなり、 ササ原の中、先の方の高みに面白い形の岩が見えてきた。 これは物見岩で、これまでのなだらかな何もない草原の中では少し異例といった感じである。
また、左手下方には枯れ草色のグラウンドのようなものが見える。 八島ヶ原湿原の広がりであるが、 周囲が丘に囲まれた感じなのであたかも野球場のようである。 しかも、雲のいたずらであろう、 その一部だけに日が当たっているので そこの黄色がやけに輝いている。物見岩から道は左に折れ、八島ヶ原湿原へと緩やかに下るようになる (11時10分)。
ここも道はどろんこ状態で、 下りだけに滑りやすくやや苦労する。 ササ原の中につけられたジグザグな道を快調に下り、 やがて道が平坦になると、 目の前に公衆トイレと倉庫のような建物が現れた。 しかしここは奥霧小屋ではなく、 小屋はもう少し先であった (11時31分)。 奥霧小屋からは木道歩きとなって八島ヶ原湿原の周りを回るようになる。 湿原と言っても見渡す限りの枯れ草色の草原にしか見ないが、 この木道周辺だけには池塘のような水場もあってなかなか美しい (鎌ヶ池)。
少し木道を進むと、 湿原の広がりの向こうに車山が見え、 その伸びやかな光景に心が和む感じがする。 今回も人があまりいない。 季節はずれの時期に この地に来た幸運を喜んだのであった。木道を暫く進んだところで、右に鷲ヶ峰への道が現れた。ここから木道を離れ、右の登りに取り付くことになる。少し崩れかけた道を登ると、前回登った鷲ヶ峰への尾根道に合流することになり、 ここから急な登りが始まったのであった。
見上げればかなり急で、 しかも岩と岩屑が多い道で登りにくそうである。 前回はここも雪で覆われており、 雪の上につけられた山スキーの跡に羨ましさを感じながら登ったことが思い出される。本日、初めてと言った感じで息を切らせながら登りつくと、そこはまだ頂上ではなく、尾根道はまだまだ先に続いていたのであった。結構前回の記憶が残っているところが多くある一方で、 こういったところはすっかり忘れており、 全くいい加減なものである。
尾根道はやがて右に大きく曲がり、 一旦高みに登った後、 まっすぐ進んだところが鷲ヶ峰であった (12時11分着、25分発)。 ここには前回の記憶通りの方位盤とともに、 新しく立派な標識が立てられていた。 前回は小さな朽ちかけた板きれしかなかったことを思い出す。
ここは風の通り道のようで寒いことこの上ない。 そう言えば前回登った時も雪の吹きだまりがあった気がする。展望の方は抜群で、特に美ヶ原は、その軍艦を思わせるような舟形とともにその司令塔ともいうべき多くの鉄塔も見ることができたのが嬉しい。また、その反対方向には 蓼科山 がようやく雲の取れた頂を見せるようになっており、 白くなったその姿は、 その右手の方にうっすらと見えた 富士山 とまさに相似形であった。
また、諏訪湖も鈍い光を放っており、 もっと天候が良ければ南、北アルプスのほとんどを見ることができたことであろう。帰りは八島ヶ原湿原まで戻り、残りの木道をグルッと回って、前回と同じように旧御射山経由にて強清水まで戻ることにした。前回は雪原のため途中から道が分からなくなって 車道歩きを強いられたのであったが、 今回はビーナスラインの下に作られたトンネルをくぐって、 人の気配の全くしない、やや寂しい道を辿り、 霧ヶ峰ホテルの前を通って強清水まで戻ったのであった (13時38分)。
今回、蓼科山登山は断念せざるを得なかったが、 ピンチヒッターに登場した霧ヶ峰は、 突然の代役にも拘わらず十分に期待に応えてくれたのであった。
霧ヶ峰というと俗化したイメージが強いが、 前回の雪の原、そして今回の冬枯れの草原、 どちらも霧ヶ峰の良いところを十分に見せてくれて 何か得をした気分になった一日であった。
上記登山のデータ | 登山日:2002.11.02 | 天候:曇り時々晴れ | 単独行 | 日帰り |
登山路:強清水−道の駅−車山肩−車山−蝶々深山−物見岩−奥霧小屋−鷲ヶ峰−八島ヶ原湿原−旧御射山−霧ヶ峰ホテル−強清水 | ||||
交通往路:瀬谷−八王子IC−(中央高速道路)−諏訪IC−(ビーナスライン)−女神茶屋駐車場−(ビーナスライン)−諏訪IC−強清水 (車にて) | ||||
交通復路強清水−諏訪IC−(中央自動車道)−八王子IC−瀬谷 (車にて) |