村上しいこ
作品のページ No.2



11.あえてよかった 

12.海は忘れない 

【作家歴】、ダッシュ!、うたうとは小さないのちひろいあげ、空はいまぼくらふたりを中心に、青春は燃えるゴミではありません、こんとんじいちゃんの裏庭、夏に泳ぐ緑のクジラ、みつばちと少年

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職員室の日曜日、ねこ探!

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11.
「あえてよかった ★★☆


あえてよかった

2023年04月
小学館

(1600円+税)

2025年06月
小学館文庫



2023/05/06



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大事な妻の美月に先立たれた小野大地・58歳は、生きる気力を失い、仕事も辞め一軒家も売り払い、アパートへ引っ越し。
大地のただ一つの慰めは、夜、月を見上げながら亡き美月と会話すること。
私の代わりに子どもを育ててみてほしい、という美月の願いに応えるべく、大地は<放課後学童指導員>の仕事に応募します。
しかし、初めて大地が向き合った小さな子供たちの実像は、大地の想像を絶するものだった・・・。

子どもたちの相手をする学童指導員の仕事が決して楽なものではないとは思っていましたが、本当にこんなに大変なの?と、呆然とさせられました。
なにしろ、小学生たちひとりひとりが特有の問題(性格だったり家庭状況だったり)を抱えていて、そのくせその問題が簡単にわかるようなものではない。
子どもたちはそうした問題を口にする訳ではなく、普段とは異なる行動で示す、余程注意しなければ学童指導員たちも気づけるようなものではなく。
一方、指導員たちだって所詮一人の人間であり、それぞれに抱えている問題があると、次第に大地にも分かってきます。

大地以外の指導員たちは女性で、しかも大地より余程若い。
昭和年代に育った大地が抱く大人と子供の関係は、もはや現代では通じず、時々大地が漏らす言葉には、時々失笑せざるを得ません。

本作を読みながら、大人と子どもの関係は決して大人から子どもへの一方的なものではなく、本来対等なものなのだと気づかされます。
子どもと付き合うことで、自分もまた新たな発見、そして成長があると気づくことを通じて、いつしか大地に生きていこうという前向きな気持ちが生まれていきます。そこに胸熱くなると共に、この先への希望を見出す思いです。

全く気付かなかった子どもたちそれぞれの個性的な姿に出会える逸品、是非読んでいただきたい一冊です。


プロローグ/1.唐木朋子は笑わない/2.子どもはいつも全力/3.男はつらいよ/4.子どもは天使ではない/5.苦しいんだよね/6.行く人・くる人/7.ごめんなさいのあと/8.傷つけてしまったかもしれない/9.手に負えない子/10.女児が女子に変わるとき/11.ここには未來がある/エピローグ

                

12.
「海は忘れない ★★☆


海は忘れない

2025年07月
小学館

(1800円+税)



2025/08/09



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高校二年の諸岡遥瑠は、演劇部の部長。
舞台の演目をラブコメか戦争ものにするか、
百合香たちと対立。
その帰り道、遥瑠は自転車ごと転倒して意識を失う。
遥瑠が目を覚ますとそこは、
昭和33年
そして遥瑠は、
浜口晴子という高校二年になっていた。
晴子もやはり演劇部。折しも親友の
市川沙代田辺恵美子が、演目を戦争ものにするか恋愛ものにするかで争っていた。

現代に生きる主人公が戦争中の時代にタイムスリップする、という反戦小説は幾つもあると思いますが、戦後、しかし敗戦の記憶はそう遠くない時代へのスリップというのは珍しい。

令和生まれの遥瑠にとって昭和33年という社会は、驚くべきことばかり。
男がのさばり返ってて、女性はそれに従うばかり、職員室では煙草の煙がもうもう、等々。しかも、校長が晴子に向かって放った言葉は呆れるばかりで、絶句するしかありません。
そうした時代の違いを見る面白さもありますし、晴子の友情や恋愛という部分も充分読み応えがありますが、本作の主題はあくまで日本が起こした先の戦争への問題点喚起にあります。

晴子の担任で演劇部の顧問でもある教師=
深見幹一は、自由時間の授業で太平洋戦争における問題点を、生徒たちに語り続ける。
戦争はもう終わったのだから振り返るのは止めよう、という人間もいれば、軍国主義は良かったと未だに広言する人間もいる。そうした中、深見の行動は学校の中でも孤立するばかり。
しかし、徐々に遥瑠や沙代たちは、自分たち自身で先の戦争について考えるようになっていく。

実際、敗戦後、日本がおかしかった、悪かったという弁だけで済まされてしまっているような処があります。
しかし、戦争を起こしたのは軍部であり、それに全国民が引きずり込まれたというのが事実の筈。何故そうなったのかが問題であり、それを考え続けることは重要だと思います。

深見先生が生徒たちに語る内容は、とても分かりやすい。
著者の村上さん、中高生にどう伝えれば、どう書けば興味を持ち、手にしてくれるか悩みながら本作を書き上げたそうです。

大人が読んでも村上さんの思いが伝わって来る作品。お薦め!


1章 令和七7年
1.疑惑/2.倉田山高等学校・演劇部
2章 昭和三十三年
1.晴子/2.月給二万円/3.軍艦マーチはたからかに/4.戦後は終わったのか/5.時代のにおい/6.本物のデート/7.日本は勝ったかもしれない/8.歴史を変える/9.伊勢湾新聞/10.ぼくらも今に兵隊さんだ/11.戦争まみれ/12.最後の授業
3章 令和七年
1.五日間の冒険/2.ビビアンリー?

         

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