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番外編−交響曲第7番ハ長調 op.60 「レニングラード市に捧ぐ」
last updated: 2002.8.25

交響曲第7番概説

第四楽章

第3楽章の終わりにくるといつも期待でどきどきしてくる。開始からクライマックスへ向けての息の長いクレッシェンドは最高のストレス解消。

自伝の公式解説:第三楽章はひきつづき第四楽章に移っていく。第一楽章とならんで、第四楽章はこの作品の基本的な部分をなしている。 第一楽章は戦いであり、第四楽章は来るべき勝利である。 この楽章はみじかい序曲ではじまり、そのあとにきわめてに ぎやかな、興奮した第一のテーマの叙述がくる。そのあと、 厳粛な性格の第二のテーマが始まる。この第二のテーマは全曲のクライマックスである。このクライマックスは、静かに確信をもって発展し、大きな厳粛なひびきの終りへとすすむ。

●アレグロ・ノン・トロッポ−モデラート

仮に4つの部分にわける

  1. 序奏部: 静かに始まる
  2. 第一部:クライマックスまでの息の長いクレッシェンド。しだいに興奮していく。どうしても 反撃を思ってしまう。
  3. 第二部:テンポを落としたモデラートの部分。木管とホルンが加わるがあくまで弦楽器中心。フォルテにはじまって、最後はモレンド/ディミニュエンドでピアニッシモにいたる。音量的にはこの楽章で一番静かな室内楽的部分。(ショスタコーヴィチはここを全曲のクライマックスだといっているのだと思うのですが... )
  4. 第三部(再現部&コーダ):元のテーマに戻る。静かにはじまり、テンポをあげることなく音量を上げていく。ほとんど同音型反復。
序奏部 0:00

ティンパニのトレモロが無気味に響く中、ppでヴァイオリンがゆっくり(すでにアレグロ・ノン・トロッポだが、2分音符中心のため)としたメロディを奏でる。(このメロディはクライマックス直後に再現。)ハイティンク盤が、もやのかかった夜明けのような雰囲気なのに対し、チェリビダッケ盤は、ドロドロドロォ〜草木 も眠るゥ〜丑三つ時ィ〜という感じ。

0:20
(17小節目)
低音弦にでてくる動機(ミファ・ミソ・ミド)はこの楽章の中心動機。この一つの音から音程を広げつつ反復する形はショスタコーヴィチの印。最初のメロディが再現して上昇発展するが、木管の下降音に促されるようにまた下がっていく。ハープが雰囲気を盛り上げる。
1:20
(67小節目)
低音弦に再度中心動機が現れ、5度上に繰り返されると、だんだん弦が上昇していき、79小節目「V」のリズム(タタタ・ターン)がppでオーボエに、ついでホルンにpで現れ、すぐ交互に3回繰り替えされる。 このリズムはベートーヴェンの第五番(が有名だが、他にも多用)の動機であり、その最初の楽章では運命、フィナーレでは勝利を表すと看做されているリズム。 同時に、このリズムはモールス信号の「V」であり、それも勝利を意味する。(で、アリナミン V か?)オーボエの音はいかにもモールス信号に聞こえるし、ホルンがこだまのようにそれを反復すると、いっそう通信のように聞こえる。ホルンの反復音がはっきり聞こえる演奏が好き。(はっきりしない演奏も多い)続けてティンパニが「V」のリズムを3回繰り返し、主部へ
第一部 1:45

中心動機で始まる息の長い第一主題が弦で奏される。まだpだが、上昇する音型、反復しながら上昇する音型、スタッカート符点のついたはずむ音型、が多用されているため力強く響く。

2:10
(117小節目)
木管楽器(ピッコロ、フルート、クラリネット)に信号音(スタッカートのついた8分音符で同音の繰り返し)が現れ、125小節目からは、トランペットが発する同じ信号に乗って弦楽器が少し変化発展した主題を演奏する。mp, mf, f としだいに興奮していく。
2:40
(149小節目)
木管が叫び、弦楽器の上昇音の繰り返しでそれを煽る。156小節目からは、金管楽器も上昇音を繰り返す。ここの金管は、やりすぎのロストロポーヴィチ盤が面白い。
2:50
(162小節目)
(もはや言葉による解説は不能だが) ついにffに達し、例によってタンタタ・タンタタの軍楽調リズム。木管、弦、金管と次々と旋律が移って大きなうねりとなり、その中から弦と金管の大きな上昇の動きのあと、木管の悲鳴を挟んで、金管がさらに煽る。
3:30
(220小節目)
木琴が加わり、はっきりした3拍子のリズムを刻む(これまでは主に二拍子)。二拍子に戻って240小節目からは金管の別働隊も加わる。 包囲されたレニングラードを思うと、金管の別働隊(あるときは外敵、あるときは援軍としての)というのは、戦時下で大変な演奏効果だったろうと想像される。
3:40 125小節目の動機が金管できっぱりと演奏される。木管楽器の急降下に続いて、もう一度やや低く同じ動機を金管が演奏すると、クライマックスを予感させる3連音符の浮き上がるような動きが弦と木管に現れる。続いて、ティンパニと金管楽器の軍隊調リズム。全オーケストラでリズムを刻みはじめると、別働隊のトランペットとトロンボーンが、「V」のリズムを交互にffで繰り返す。
4:20
(276小節目)

ついに別働隊のトランペットとトロンボーンがいっしょになって「V」のリズムを刻みはじめ、木管と弦は大きな下降・上昇を繰り返す。浮き上がるような動きが2回あって、296小節目、木管と弦のトレモロの中、「V」のリズムによる金管 のファンファーレが響くと、それに呼応するように、別働隊が 「V」のリズムを繰り返し、大きくクレッシェンドしてついにクライマックスに達する。(快感!!!)

(CDで聴く場合)バーンスタインのように、クライマックスの直前の矯めがあまりに大きいと少し興醒め。会場ではこのくらいの演出があった方が面白いかも知れないけど。 同じライブでもバルシャイ盤の方が僕は好き。

5:05
315小節目
ティンパニが中心動機(ミファ・ミソ・ミド)を繰り返し、管楽器が序奏部のメロディをffで再現。次第に下降沈静化していく。
5:40
(341小節目)
と思いきや、弦楽器だけになっても執拗に激しく鞭打つ。「弦がネックを叩くほど強く演奏するピチカート」が、本当に鞭の音のように響くのは、コンドラシン盤。楽器が心配になる。ピクリともしなくなるまで鞭打って、息絶えたところで、第二部へ。
第二部  

テンポが落ち(モデラート)、3拍子(第一部の 最後は2+2+3の7拍子)に変わる。二拍目が強いサラバンドのリズムだが、 同じ音を繰り返して一拍休む「ぶいぶい」のリズムがついて いるので、第一楽章の破壊された展開部のテーマを連想する。幻想交響曲のフィナーレでは、恋人の優雅なテーマがコケティッシュに変わるが、もともと変なこのテーマは、ここで息も絶え絶えにのたうつようにも聞こえるし、逆に厳粛なようにも聞 こえる。 しかし、一つの戦いの後(あるいは別の角度から見たもの)を描いているのだとは思う。

フルオーケストラの第一部の後なので、弦楽器が中心のこの 部分は室内楽的に響くため、全体におとなしく感じられるが、ppからffまで何度も表情が変わる。 厳しく強い調子の前半に対し、印象的なホルンのトリルを挟ん で、後半は悲痛な部分と慰めるような部分が交錯する。最後は、 木管のリズム伴奏つきのフルートソロから低音のクラリネットになり、第一楽章終結部のファゴットのモノローグを思い出す。

第八番では、第三楽章の戦い(トッカータ)と第四楽章の葬送 (パッサカリア)が、非常に分かり易く対比されていて、ショ スタコ流五楽章形式の完成した姿をしている。もし、ショスタコ自身の言う全曲のクライマックスが、このサラバンドの部分だとするなら、第七番は、第五番の古典的形式から抜け出せず、しかしその形におさまりきれてない感じがして、もどかしさを感じる。三楽章制の第六番ともども過渡期だったのかとも思う。

第三部  

ppのまま第三部が始まる。序奏部と違い、ゆっくり演奏されるのはこの楽章の第一主題そのものである。「v」の 信号もイングリッシュ・ホルンとファゴットに暗く交わされる。 二回目はオーボエとフルートだが、第一部に出たときより五度下がっている上に、反復するフルートが低い音なのでやはり暗い。 だんだん楽器の数が増えていき音量が上がって風雲急を告げる 感じになるが、最後までけっしてテンポはあがらない。

別働隊のホルンによる第一主題をきっかけにして、(ミファ・ ミソ・ミドの)中心動機によるファンファーレとなり、その頂点で第一楽章の第一主題が全力で再現される。そのあとは、中心動機と「v」のリズムが延々と繰り替えされる ばかりである。(第11番は決して終わらないものを打ち切った ような終わり方だが、第七番にもそれに近いものを感じる。)

このあたり、第五番のコーダとよく似ている。重々しいが 明るさが感じられないのである。(ショスタコーヴィチの明るいフィナーレは、逆に軽い調子になることが多い。) 第八番や第十番のフィナーレは、明らかに勝利によって正義が決まるような一方的なフィナーレでない。第六番や第九番でも 形は違うがそのようなフィナーレでないことは同じだと思う。 しかし、第五番や第七番のフィナーレは、曖昧な(両犠牲をもつように意図して書かれた?)だと思う。第12番は確信犯としか思えないが。


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