(2009.7.26修正)
1.接地式の空虚
2.エミッタフォロワの出力インピーダンスの解析
2.1 エミッタ〜電源間から信号が流れ込むものとして、出力インピーダンスを考える
2.2 エミッタ接地と同様な等価回路から考えてみる
2.3 他の解析について・・・・
3.エミッタフォロワのその他の解析・・・・
3.1 電流増幅度Ai
3.2 電圧増幅度Av
3.3 入力インピーダンスZi
4.おまけの解析
5.まとめ
↓追加↓
6.エミッタフォロワのオープンゲイン
エミッタフォロワ(コレクタ接地)ほど、奥が深い接地式はありません(^_^;)。このエミッタフォロワについてきちんと記述した教科書が少ないことにも見て取れます。エミッタ接地回路は、一番よく使うTrの使い方ですし、解析も簡単。ところが、エミッタフォロワの解析はT字等価回路を用いないとうまく解析できず、エミッタ接地に比較して動作がわかりにくくなっています。ただ、出力インピーダンスは低いですよ、とか、入力インピーダンスは高いですよ、とか書いてあります。エミッタフォロワをインピーダンス変換に、何の気なしに用いている方も多いと思いますが、エミッタフォロワには、出力インピーダンスを低くする「魔法のしくみ(はっきり言えば、単なるNFB)」があります。そこで、私の思うところをいろいろ書いてみました。
図1
図1の回路、何接地?(^^;?Trの三本足のどの足も電圧源につながっていないですよね。これ、何接地なんでしょう。エミッタ接地にも見え、コレクタ接地にも見えます。ですが、この回路、接地式がきちんと判定できないにもかかわらず、ちゃんと動作しています。エミッタから信号を取り出せばエミッタフォロワとして動作し、コレクタから信号を取り出せば、エミッタ接地として動作します。一般に、接地式は何かということを設定してみて動作を考える様ですが、実は、どこから出力を取り出すかでTrの動作は全く同じにもかかわらず、エミッタフォロワになったりエミッタ接地になったりします。
これから、私の結論は「接地式を決めることにこだわらない」ことが大切です。したがって、「これは何接地か」という議論自体、それほど意味を成さない。逆に、「これは**接地と見なせるようなので、動作はこうだ」と決め付けてかかるのは、危ない。以前、某BBSで「金田式完全対称アンプはエミッタフォロワかどうか」という議論をしたとき、いろいろ意見が出たが、結局は「完全対称アンプのゲインや出力インピーダンスは、エミッタフォロワとは全く違う式になる」という結論でした。式からすると、金田氏の言うとおり、エミッタ接地と同様になりますね。(完全対称アンプは、上下段とも、出力インピーダンスは高いですよ!。)
回路解析は、接地式にとらわれず、あくまで、等価回路を書いて、そこから解析すべきですし、一つの回路を三つの接地式のどれかに押し込むことは、間違えを生じます。
ということで、接地式は気にせずに、一般にエミッタフォロワと呼ばれている回路(図2)の解析をしてみましょう。
図2
Vinが入力電圧、VbはバイアスDC電圧、Rgは信号源インピーダンス、RLは負荷抵抗、Vdcが電源です。
2.1 エミッタ〜電源間から信号が流れ込むものとして、出力インピーダンスを考える
図3
ここで、Rbはベース内部抵抗、hfeはTrの電流増幅率、ioが出力電流、voが出力電圧です。
すると、図3の様に等価回路を記述することが出来ます。(無視できるパラメータは無視して簡略化してあります。)
Rgはベース側信号源インピーダンスです。ベース側信号源は、エミッタから信号が流れ込んでも変動しないので、ショートと考えても良い。するとRgのみになります。RLには電圧が発生するとして、RLはvo、つまり電圧源として考えます。
ここで、
io=−ib−hfe・ib=−(1+hfe)・ib ・・・・・・(2-1)
vo=−(Rg+Rb)ib ・・・・・・(2-2)
よって、出力インピーダンスZoは
Zo=vo/io=(Rg+Rb)/(1+hfe) ・・・・・・(2-3) //
となる。
図4
ここで、Rbはベース内部抵抗、hfeはTrの電流増幅率、ioが出力電流、RLが負荷抵抗です。
2.1を、別の等価回路から考えてみましょう。よく読むと、voをRLで説明しているだけで、2.1と全く同じ事を言っています。voの極性が図4に示すような等価回路を用いますと、さてさて、解析は出来るでしょうか?実はできます(^^;。この回路で解析した記述のある教科書が、すこし大きな書店で探す限りありません?ちょっとした工夫(変化量Δの式で考える)で、簡単になります。
vo=RL・(1+hfe)・ib ・・・・・・(2-4)
この式の両端を、負荷が変動したときの状況をΔを付加して考えると、hfeは不変なので
Δvo=ΔRL・(1+hfe)・Δib ・・・・・・(2-5)
io=(1+hfe)・ib ・・・・・・(2-6)
この式の両端を、負荷が変動したときの状況をΔを付加して考えると、
Δio=(1+hfe)・Δib ・・・・・・(2-7)
また、帰還式
vi=(Rg+Rb)・ib+vo=(Rg+Rb)・ib+RL・(1+hfe)・ib ・・・・・・(2-8)
この式の両端を、負荷が変動したときの状況をΔを付加して考えると、
Δvi=Δib{(Rg+Rb)+ΔRL・(1+hfe)}=0 ・・・・・・(2-9)
(なぜなら、viは負荷の変動によらず一定)
したがって
ΔRL=−(Rg+Rb)/(1+hfe) ・・・・・・(2-10)
これより
出力インピーダンスZoは
Zo=|Δvo/Δio|=|ΔRL|=|−(Rg+Rb)/(1+hfe)|
=(Rg+Rb)/(1+hfe) ・・・・・・(2-11)
2.1で、負記号がZoに出ないのは、等価回路で出力電流の向きを逆に設定しているためです。
ここで、信号源インピーダンスRgが十分に小さく、hfe>>1とすると
Zo≒Rb/(1+hfe)≒Rb/hfe ・・・・・・(2-12) //
ある本には、
Zo=(Rg+re/hfe)//RL ・・・・・・(2-13)
(re;エミッタ内部抵抗)
と書いてあるものもあります。これは、ベース抵抗Rbの変わりにreを用い、かつRLに並列に負荷がぶら下がることを想定して得た式です。
ですから、2.1あるいは2.2の解析にRLをあえて入れるとするなら、
Zo={(Rg+Rb)/(1+hfe)}//RL ・・・・・・(2-14)
です。
以上の様に、2.1〜2.3によって、エミッタフォロワの出力インピーダンスの解析が出来ました。
エミッタフォロワは、それ単体で100%の帰還がかかることによって、出力インピーダンスが低くなっています。もし、100%帰還をキャンセルする働きがあるのなら、それはエミッタ接地回路となります。
図5を元に、エミッタフォロワの出力インピーダンス以外のパラメータ解析をします。
図5
io=ib+hfe・ib=(1+hfe)ib ・・・・・・(3-1)
より、
Ai=io/ib=1+hfe ・・・・・・(3-2) //
vo=io・RL=(1+hfe)ib・RL ・・・・・・(3-3)
vbc=rb・ib+vo=rb・ib+(1+hfe)ib・RL ・・・・・・(3-4)
Av=vo/vbc=(1+hfe)ib・RL/{rb・ib+(1+hfe)ib・RL}
=(1+hfe)RL/{rb+(1+hfe)RL} ・・・・・・(3-5) //
(≒1)
Zi=vbc/ib
={rb・ib+(1+hfe)ib・RL}/ib
=rb+(1+hfe)RL ・・・・・・(3-6) //
4.おまけの解析・・・・ソースフォロワの出力インピーダンスとゲインの解析
図6
図6の様な等価回路を考えます。FETの相互コンダクタンスgm、入力電圧vi、出力電圧vo、ゲート〜ソース間電圧Vgsとします。
vi=Vgs+Vo ・・・・・・(4-1)
で、出力の変動によってviは変化しないので、viはゼロと見なせ、
Vgs=−Vo ・・・・・・(4-2)
また、
ーio=gm・Vgs ・・・・・・(4-3)
(4-2)を(4-3)に代入し、
−io=ーgm・Vo
よってソースフォロワの出力インピーダンスZos
Zos=vo/io=1/gm ・・・・・・(4-4)
となります。トランジスタのgm、gmtは
gmt=hfe/Rb ・・・・・・(4-5)
ですので、エミッタフォロワの出力インピーダンスZoも
Zo=1/gmt ・・・・・・(4-6)
これは、Zos=1/gmと同じ式になります。
つまり、エミッタフォロワもソースフォロワも、出力インピーダンスは似たようなものです。
ただし、エミッタフォロワの方が出力インピーダンスを低く出来るのが一般的な様で、よく、ソースフォロワでハイインピーダンスを受けた後、もう一段エミッタフォロワを入れて更に出力インピーダンスを下げる様な回路を見ます。
って具合で、エミッタフォロワ(ソースフォロワ)の出力インピーダンスは、出力端子の電圧変動を考えて解析しなければならないのですが、帰還がかかることによってこの出力インピーダンスは低くなります。帰還がかかってこその低インピーダンスで、100%帰還がかからない事があったとすると、それはもはやエミッタ接地と考えられます。逆に、エミッタ接地回路の帰還抵抗を0Ωにして、100%帰還をかけると、コレクタ接地(=エミッタフォロワ)とも考えられます。
ここら辺の、エミッタフォロワが単体で帰還がかかっている様子をうまく説明して書いてある本:伊東規之著『電子回路設計法』日本理工出版会 p153〜
この本の中では、エミッタフォロワは、帰還アンプの中に位置づけされています。(Trの解説のページには書いていない。)
1999/3/20 追加
ひょんな事から、こんなことを考えました。「なんだそりゃ」と思う人もいるかも知れませんが、エミッタフォロワが100%帰還がかかっているのであれば、帰還がかからない状態をもし作り出したとしたなら、それはどうなるのだろう??
入力側の式は
Vi=ib×Rb ・・・・・・(6-1)
出力ループの式は、
Vo=hfe×ib×RL ・・・・・・(6ー2)
この二つの式のみで、帰還式を入れずに考えれば、オープンゲインAoは
Ao=Vo/Vi=hfe×RL/Rb ・・・・・・(6-3)
となる。これは、エミッタ接地のゲインと同じ。つまり、エミッタフォロワはエミッタ接地に100%帰還を掛けた物と考えられる。
そうなると、ここでひとつわかるのは、オープンゲインは負荷抵抗に比例するということ。さらにそこからわかることは、
「負荷抵抗が小さい(負荷が重い)場合には帰還量が減る」
ということ。つまり、歪を圧縮する力が落ちますね。一般のアンプでは、負荷抵抗が小さくなると歪み率が増加する。出力がエミッタフォロワでは、負荷抵抗が小さいと、出力段のオープンゲインが落ちて歪が大きくなるからです。
出力段がエミッタフォロワでない完全対称アンプでも、実はこの傾向は全く同じです。負荷抵抗が小さくなると、アンプ全体のオープンゲインが減少する。したがって、歪も増えるし、プリの場合は、何台出力にアンプをつなげるか(ファンアウト??)が重要になってきます。出力にいろいろつなぐと、オープンゲインが減り、歪みが増えるのです。
パワーアンプは、その小さい負荷を駆動する様に設計していますが、出力段がエミッタフォロワなら、出力段のhfeが大きな方が歪が減るはずですね・・・・本当にそうなるか、確認していませんが・・・・・(^_^;)。完全対称アンプでも、適量のオープンゲインが必要になるでしょう。
と、まぁ、こんなことを考えました・・・・・・
(画面上でPICT画像へ変換し、JPEGに変換しています)