無機化学のツボ<Fe(OH)3の化学式について> 高校教科書の改定で,教科書からFe(OH)3の記載がなくなった。 Fe(OH)2+は存在するが,Fe(OH)3は存在しない。 X線による研究から,水溶液中でFe3+のまわりに取り巻く水分子は,6配位である。 固体の結晶構造から類推すると,6配位の稜線ごとに接続してコロイドになり,沈殿していくようである。 従って,2つ同時にOH−がつくが,3つ同時にOH−はつかないものと推測される。 一方で,Al(OH)3は存在する。Alは両性元素であり,OH−との親和性が高いようである。 <不動態> 表面にち密な酸化被膜をつくるためには,陽イオンが小さくなければならない。したがって,第3,第4周期の3価の陽イオンが不動態になり やすい。 以下にイオン半径を挙げるが,イオン半径は,結晶構造から算出されるもので,配位数によって異なるものである。 イオン半径 Al3+(6配位) 0.053 nm Fe3+(6配位) 0.055 nm Co3+(6配位) 0.053 nm Ni3+(6配位) 0.056 nm Cr3+(6配位) 0.062 nm PbSO4,PbCl2も不動態の被膜になりうる。 Pb2+は大きく,共有結合性が大きいので,酸化物イオンよりも大きな陰イオンと被膜を作りやすい。 <ヘキサフルオロケイ酸> ガラスは,強塩基とHFに溶ける。Si−O結合のかわりにSiーF結合が生成されるのを考えると,ガラスがHFに溶けるのは,Fの電気陰性度が大きいか らだと考えられる。 FはSiに対して6配位である。このことから,d軌道にFの電子対が配位結合しているものと考えられる。さらに,6配位なので正八面体構造であると考え られる。 この構造に関して, @ 3s軌道,3p軌道,3d軌道が混成 A 混成しない 3p軌道と3d軌道のエネルギー差が大き過ぎるので,@は考え難い。Aであろうが,F−イオンどうしの反発で,正八面体方向に配 位するのであろう。 この考え方は,Alでも同様である。 |