物質量の定義の変更について


 <従来の定義>
 これまでの教科書は,1 mol は

   「12C 12g 中に存在する原子の数(アボガドロ数)に等しい数の粒子を含むもの」

と定義されていた。この定義が2018年11月の国際会議で改定された。

 <従来の問題点>
 質量の単位である kg は,1889年に「国際キログラム原器の質量に等しい」と定義されたままであった。

 ー国際キログラム原器(IPK : International Prototype of the Kilogram)ー
 白金にイリジウムを 10 % 混ぜた人工物であるをフランス厳重に保管し,全く同じ材料でいくつかの副原器が作られた。日本にも輸入され,現在は国の重要文化財になっている。

 副原器は人工物であるから,普遍というわけにはいかない。汚れや摩耗などによって,kg の基準が変わってしまった。国際キログラム原器と副原器の差を測定したところ,作成して 57 年後には副原器の質量が平均で 15 μg ほど増加し,ばらつきも現れた。100 年後の 1989 年には, 50 μg ほど変動した。

 <新しい定義>
 1 mol は
 
 「アボガドロ数(6.022 140 857×1023)に等しい数の粒子を含むもの」

と定義した。
 このように定義すると,できるだけ正確にアボガドロ数を求めなければならない。

 <アボガドロ定数の求め方>
 X線結晶回折から求める。

 ケイ素の単結晶は,右図のように一辺の長さが a の単位格子から構成されている。単位格子の体積は a であり,8 個の原子が含まれる。
試料の体積を V,質量を m とすると,試料に含まれる原子の数は 8V/a で与えられる。
 ケイ素の原子量を M とすれば, 1 mol あたりの原子数であるアボガドロ定数 N は,

  8V/(a) = m/M
  N = 8VM/(m a

 この実験を成功させるには,高純度な単結晶が必要である。立方体の場合,角やエッジの部分の欠落が体積に及ぼす影響を小さな不確かさで測定することは容 易 でないので,球体とした。キログラム原器との比較によってその質量を正確に測定することができるので,質量が 1 kg のシリコン単結晶球体が用いられた。

 <歴史的なその他の測定方法>
 様々な実験結果の解析から分子の実在が証明された。

 @気体分子運動論(ロシュミット)
  空気の粘度の測定から求められた空気の平均自由行程と空気の密度から,単位体積あたりの分子数 n が求まるので,n に22.4 L を掛ける。

 Aレイリー散乱(レイリー)
  太陽光の強さと空の輝きを比較した。

 Bブラウン運動(アインシュタイン)
  一定時間の花粉のゆらぎを測定することによって求める。

 C熱放射の法則(プランク)
  ボルツマン定数と気体定数から求める。

 D砂糖の浸透(アインシュタイン)
  砂糖分子の半径と粘性から求める。

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