日本各地には富士と名のつく山々が数多くある。開聞岳は日本最南端の富士山であろう。
私がこの山の名を知ったのは、中学校あたりの時、使用した地図帳にこの山が載っていたからである。
等高線から山の形がイメージしやすい山であるから、そのような例として取り上げてあったのではないか
と思う。
子供が描く山のように単峰で高く突き上がった、山としての理念形を示す開聞岳は、本家富士山と
同じく火山活動によってできあがった山である。実際には、2段階にわけて形成されたから、勾配の異なる2つ
の円錐が積み重なっているのだけれど、遠目にはみごとなまでの円錐形を見せる。
そして噴出した場所が海であったことが、1000mにも満たないこの山をより名峰にしている理由だ。
富士は独立峰でなければいけない。船上から見ると、この山は海面から天に向かう、絵に書いたような独立峰である。
ちょうど錦江湾の出口に位置していて、南の島々に向かう航路上である。以前、屋久島に向かった私は、
この山によって、いよいよ大洋に出ることを知り、帰路では鹿児島に帰ってきたことを一足早く感じた。
これらの大洋に散らばる島々に住む人々や、もっと長い旅をしている人たちにとって、その思いは、私などと違って
もっと深いものがあるのであろう。
なじみの深い山であるけれど、登るとなるとけっこう面倒だった。薩摩半島のほぼ先端にあるのであるから
鹿児島市からはけっこう遠く丸々一日を要する。鹿児島にきたついでに寄るには少し遠すぎたし、百名山にもあげ
られているほどの名峰とはいえ、そのためだけに航空運賃と宿泊費を出してまで遠征する気にもなれなかった。
機会があればと思いながらも、日だけが過ぎてきたのであるが、今年は奄美大島に行ったついでに
帰路、東京にもどるのを一日遅らせて、この山を目指すことにした。
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