メイプル戦記(白泉社文庫/全二巻)

作/川原泉

 ストーリー紹介 

北海道の大手菓子メーカーのオーナーが考えた突拍子もないアイディア、
それは、趣味の宝塚と野球を一緒にしてしまおうというものだった。
と、いうわけで、急遽野球界に女性だけの球団が設立された。
その名も「スイート・メイプルス」。

高校野球では「守りの広岡」として有名な広岡監督は、
監督の知り合いで高校野球界では名門である北斗高校の高柳コーチを呼び寄せる。
街頭チラシを読んで集まってきた個性的すぎる選手達、
球団社長自ら就任した寮長、オカマと宝塚ばりの応援団に支えられ、
メイプルスの快進撃が始まる・・


 感想 


「ブレーメンΙΙ」でいろいろな賞を受賞した方の作品ですが、
私としては「メイプル戦記」の方が良い作品だと思っています。

なぜなら「メイプル戦記」では、夫の圧政に苦しむ妻とその夫の和解とか、
性同一性障害に苦しむ選手の恋の成就とか、
脚に障害のある男性と選手の恋愛とか、
社会的に弱い立場に立たされる人の立場にたった視点で物語が展開されている。

また、女性だけでなく男性の立場や、選手だけでなく主婦の立場も描かれる。
そのため、善悪の概念が入りこまない。

それにメイプル戦記に登場するキャラクター達は、
相手がどんな立場にいる人だろうと差別しない。

メイプルスの選手達は、強い立場の男性に敵対心を燃やす事がない。
彼らも同じ選手として自分と対等の人間として扱っている。
だから、女性差別反対の陥り易い男性差別も行っていない。

それは、黒柳徹子さんの著作に出てくる「トモエ学園」のように、
どの立場の人も対等に扱うことで友情を築こうという態度なんだと私は思います。
(強い者が弱い者を助けてやって相互に“友情”を築くのではなく)


また、「ブレーメンΙΙ」では、権力者である会社社長の圧力がなければ、
ブレーメン達弱い立場の存在の権利が保障される事がない。

しかし、人間は自分に誇りをもたねば生きていけないのではないでしょうか。
弱い立場の者は強い立場の者に庇護される(弱い者は一人では生きていけない)よりは、
自分の立場がどうだろうと、自分の力で生きていける事の方が望ましい。

と言っても私は、どんな苦しい立場の人も自分の力で生きていくしかないとか、
人が困っている時に手を差し伸べないで無視しろと言っているわけではありません。

そうではなく、相手が障害者だからとか、老人だからとか、
ともかく、自分とは違う存在だから〜してやらなければならない、
という態度は良くないと言いたいのです。

そういう気持ちで行う親切は、親切をしてやる側は満足かもしれませんが、
相手に無力感やいらだちを感じさせてしまうからなのです。

だから自己責任論を擁護したいわけではありません。
人生は偶然に左右される物です。突発的事故ですべてを失う事もある。
でもそれを予期する事はできない。だから、そのような不幸には皆で助けあう必要がある。

だから自己責任論は、自分の立場でしかものを見る事ができない人間の思想だと思う。
つまり、共感の欠如によって生まれる思想だと私は思うのです。
彼らがもし、相手の立場に立つ事ができたら、そんなことは言えないはずです。

なぜなら、他人の立場に立ってものを考えるという事は、
その人を自分と同じ存在だと思って、相手に共感することが前提になるのだから。

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