著者:近藤純正 20.1 はしがき 20.2 気温分布に関する予備知識 20.3 極小低温層が再現できた! 20.4 精密計算では顕著に出ない 20.5 続きの研究 20.6 30年後の病室―極小低温層の出現! 参考文献
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(注1) 放射の作用 赤外放射(長波放射)による熱伝達は、地表面から大気上端までに含まれる 水蒸気や二酸化炭素など温室効果ガスの影響を受ける。これら水蒸気などは 赤外放射を吸収すると同時に自らも赤外放射を射出する。その影響は、近接 する層からは強いが、遠方になるにしたがってしだいに弱くなる。 これを近接作用(後述の模式図20.9参照)と遠隔作用の2つに分けて考える と理解しやすい。 近接作用: ある層の温度が周囲より凸状に高温な分布形をしていれば、その 層は周囲からもらう熱が自ら射出する量よりも少なく、 気温が下降する。 逆に温度が凹状に低温な分布形をしていれば、その層の気温は 上昇する。 つまり、気温分布は滑らかな分布形に変えられてしまう。これは、熱伝導 の作用に似ている。 近接作用は、吸収・射出の強い波長範囲の働きによるものである。 遠隔作用: 遠方の温度が対象とする層と違っている場合、その遠方の層の厚さが薄く 水蒸気量が少なければ影響はほとんどないのだが、遠方の層が厚く 温度が高ければ対象とする層の気温は相対的に加熱作用を受ける。逆に 遠方の層の温度が低ければ相対的に冷却作用を受ける。 夜間の地表面が放射冷却する場合、上空が冷たく水蒸気が少ないとき に放射冷却は大きいのだが、上空に雲があれば、雲は水蒸気量が無限にある ことに等しく、より多くの赤外放射を地面に向けて射出する。そのため地面の 放射冷却は弱められる。 遠隔作用は、吸収・射出の弱い波長範囲の働きによるものである。 |
(注2) 放射平衡 大気中には水蒸気など温室効果ガスが含まれ、赤外放射(長波放射)が 吸収されると同時に射出される。一方、地球には太陽からの放射(日射、 短波放射)が注がれている。このように、大気中の熱輸送が放射のみで行わ れるときに形成される温度分布を放射平衡の温度分布と呼ぶ。 放射平衡の温度分布では、地表面温度とその直上の気温の間には20℃ほどの 温度ギャップができ、上空ほど低温な分布となり、地表面付近の気温の高度 に対する低下の割合(気温減率)は大きい。 この放射平衡の温度分布は、地球の気温分布を近似的に表している。これを 現実的な気温分布(対流圏での気温減率は高度100mにつき0.65℃程度)に する作用は対流の働きである。対流によって地面から上空へ潜熱と顕熱が 運ばれ、上空で雲が発生するとき潜熱が開放されて大気は温められる。 準放射平衡の温度分布: 放射平衡の温度分布は長時間(極限としては無限時間)にわたり維持される分布形で あるが、10分~1時間程度の短時間の間、温度がほぼ同じ分布形を持続できる とみなされる場合、「準」をつけて準放射平衡の温度分布という。 参考: 「大気境界層の科学」p.6-p.11 |
(注3) 大気の窓 大気からくる大気放射(赤外放射)のスペクトルでは、波長が8~13μm付近 のエネルギーが少ない。この波長範囲では、大気はわずかしかエネルギーを 射出しない。同時にこの範囲では地表面から上向きに向かって出る赤外放射 もほとんど吸収されることなく透過されて宇宙へ放出される。このことから、 この波長範囲は大気の窓(atmospheric windouw)と呼ばれている。 例えば波長11μm付近を使って人工衛星から地球を観測すると、その エネルギーは近似的に地表面から出た(雲があれば雲頂付近から出た) 放射に等しいので、地表面温度または雲頂温度を知ることができる。 一方、窓領域以外の吸収が強い波長を利用すれば、上空の温度を知ること ができる。これが衛星からの地球観測の原理である。 |
(注4) スペクトルの違いの意味 観測で得られるような極小低温層が再現できた計算(図20.11)では、 地表面から上向きの「地面放射」+「反射成分」の全エネルギー (スペクトルを全波長で積分したエネルギー)は精密計算におけるそれと 同じであった。だが、スペクトル形は実際の地面温度より低温の黒体放射 のスペクトル形(図20.12の破線のような形)を仮定したものであった。 つまり放射図は、地表面の温度(または見かけの温度)がいくらであろうとも 地表面の上向き放射は黒体放射のスペクトル形をもつ、という仮定のもとに つくられたものである。 精密計算では、反射を含む地面から上向きの放射量の全量は同じだが、 スペクトルは複雑な形(一部に欠損部をもつような形)を用いた。その結果、 観測されるような顕著な極小低温層は再現されなかった。 なぜ精密計算では顕著な極小低温層が再現されなくなったのか? その理由 は、次の通りである。 大気の窓領域(波長8~13μm)の両側には水蒸気などによる吸収・射出の 強い部分がある。精密計算では、この吸収・射出の強い部分が地面から 反射されてくる。吸収・射出が強いことは気温分布を滑らかにする働き (近接作用)が強いことであり、極小低温層を解消させようと加熱が 大きくなるからである。 短波放射と長波放射の違い 太陽放射(短波放射;日射)は波長0.15~3μmの範囲にその99%のエネルギー が含まれている。短波放射は散乱と 吸収によって減衰する。 一方、地球・大気系の温度は300K前後であり、大気が出す放射は波長10μm 付近を中心としたスペクトルをもち、大部分のエネルギーは3~100μmの 範囲に含まれる。これを長波放射、赤外放射、または大気放射と呼ぶ。 大気中には容積比で約0.5%の水蒸気、約0.04%の二酸化炭素、微量の オゾンなどがある。これら少量の気体が、大気全層としては、黒体 放射の60~90%相当の放射を射出する。 長波放射は射出と吸収 の両過程があることで、短波放射に比べて放射伝達が複雑となる。 |
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