Vartovからの便り
昔日のグルントヴィとともに

清水 満

Hordum近くの風車
Hordum近くの風車
2002年2月22日の便り

2002年2月26日の便り

2002年2月28日の便り

2002年3月5日の便り

2002年3月7日の便り

2002年3月15日の便り

Vartov便り番外編

2002年3月12日

G君へ

 あっというまにデンマーク滞在もあと3日を残すだけになりました。遊んだり、無駄にした日はなかったと思うのですが、それでは何をしていたのかと自分自身に問いかけると、これといって大きな成果らしきものもありません。ほんとうにいろいろあって忙しさに追われているうちに日にちが過ぎ去った感じです。

 私と同じようにVartovに滞在して、毎日グルントヴィ図書館に通いづめのドイツ人がいます。Martin Groh(マ―ティン・グロ―)といって、38歳の男性で、ベルリンのフリ―ランスの編集者で、かつてはAabenraa(オベンロ―)にあるOstersoenホイスコ―レで5年間教鞭をとっていました。このホイスコ―レはドイツとデンマークの交流を目的とした学校でドイツ語とデンマーク語の両方で話さないといけません。彼もデンマーク語がたいへん流暢です。

Martin og Liselotta

Martin(手前)と司書のLiselotta

 子どものころデンマークのユランの西海岸に遊びに来て強い印象を受け、大学の時に北欧文学をキ―ル大学で学び、ホイスコ―レの教員になるなどデンマークと強い絆をもった人です。現在博士論文を書くために、このグルントヴィ図書館に来ているというわけです。

 すでに数年に渡って何回も訪れ、通算すると9ヶ月くらいにはなるが、仕事などあるために長期の滞在はできず、一回につき3週間程度が限度とか。彼は歴史学専攻なので、論文のテ―マは グルントヴィ運動とドイツの関係を教育、政治などの側面から歴史的に扱うものだということです。ドイツ人らしく勤勉で毎日12時間も図書館にこもっています。

 私ときたら、いろいろなところにいったりいろいろな人にあって、図書館にこもりっきりということはまったくなく、みんなからふまじめと思われているかも知れません(^^;)。でも「日本人はエコノミックで勤勉、働き過ぎだ」という一般的なイメージをくつがえしている点ではいいのではないでしょうか(笑)。

 ほかにも教会の牧師さん夫妻が同じように休みを取ってこのVartovに滞在し、グルントヴィの書物を読んで勉強しています。こういう人がけっこういるようです。私もまたその一人ではありますが。

 先週末には、HordumにいるBodilに誘われて、地域でのコンサートやFrostrupキャンプを訪れました。Frostrupキャンプとは、70年代にコペンハーゲンのクリスチャニアから来た人たちが新たにFrostrupという町のはずれに開いた一種のコミューン、解放区です。

Frostrupキャンプの建物

Frostrupキャンプの建物の一つ

 コペンハーゲンのクリスチャニアは60年代終わりからコミューン、解放区として有名なところです。最近は下火で、新政権がドラッグの使用や売買の禁止をするために介入を強めるなどしてかなり圧力を受けていますが、それでもまだ存在し続けています。

 Frostrupキャンプには数十世帯が住んでいるそうです。食料品店には無農薬有機食品が並び、それらしい雰囲気をもっていましたが、カフェに入るとタバコのすごい煙とアル中らしき男の叫び声などで喧噪がひどく、またマリファナなども日常茶飯とかで、この点にはついていけないな〜と思いました。解放区や独立の思想などは大いに評価できるので、かつてのヒッピー文化のパターンを踏襲するのではなく、いいところを生かして「オルタナティヴのオルタナティヴ」にでもできればいいのですけどね。

Frostrupキャンプの食料品店

Frostrupキャンプの食料品店

 その後は、Frostrupのカルチャーセンターが企画したミュージック・カフェに行きました。デンマークの地方では、廃校跡や無人化した駅舎を利用して、地域の人たちが組織をつくり地域のカルチャーセンターを運営しています。このFrostrupは元小学校の建物ですが、Frostrupのセンターはすごく活発でユニークな活動をしているそうです。ミュージック・カフェもその一つで、月に一回、デンマークでは有名なプロのバンドなどを呼び、ドリンク付きのライブハウスとするものです。

 今回は、Pierre DorgeとNew Jungle Orchestraというジャズバンドでした。私がジャズを聴かないのでどのくらい有名なバンドかは見当もつきませんが、ヨーロッパでは比較的知られているそうで、CDもたくさん出しています。デンマークのジャズの水準がかなり高いことは周知の事実ですので、技術的にもすばらしいものがあるのでしょう。

New Jungle Orchestraの演奏

New Jungle Orchestraの演奏
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 演奏はさすがにプロのバンドだけにまったくといっていいほどミスがなく、また客を楽しませるコツも心得ていました。入場料が100クローネ(1600円)とアマチュアバンドなみの安さだったので、下手でもいいかと思ったのですが(実はBodilが払ってくれたのですが)、何のなんの、この金額でいいのかと申し訳なく思うほどのすばらしい演奏でした。ジャズを好きでない私でも引きつけられ感動したくらいです。

 日本だったらブルーノートとかで一万円払って聴くほどのレベルといえるかもしれません。観客はわずか100名ですから、ギャラは単純計算で最大16万円にしかならないのですが(補助金などのシステムがあるのかもしれません)、それでこれだけの演奏が聴けるというのは信じられません。

 こんな片田舎でこんなに安く気軽に一流の演奏が聴けるデンマークのシステムに驚きます。日本の商業音楽が異常に高いのかもしれません。高いだけにいろいろな付加価値がついて純粋に聴くことを楽しめず、それなりにスノッブにならないといけない雰囲気も日本にはあります。ここではジャズファンでない通りすがりの私ですら、演奏中に写真まで撮っていいという許可までもらって、みなといっしょに何の屈託もなく楽しみました。

 彼らのCDも買いました。これまた100クローネと安かったので(日本のCDが異常に高く、通は安い輸入盤を買うのは若い君ならよく知ってますよね)。帰ったら君にも聴かせてあげましょう。

 G君。文化というのはこういうところに育つのだと思います。都会と田舎の差が激しく、いろいろな付加価値や階級意識などがつきまとって、趣味を説明するのにもそれなりのうんちくをたれたり、それなりの格好をしないといけない場所にはおそらくいびつな文化しか育たないのでしょう。「それぞれに分化してしまった文化」といえます。

 そうそう、この片田舎のThy地方には独立劇団もあるんです。去年の夏協会のスタディツアーで「ピクニック」という出し物を見たあのThy劇団(Thy teater)の監督のHans(ハンス)と事務局のHanne(ヘンネ)にもこのコンサートで会いました。事前に電話してここで会うことにしたのです。

HansとHanne

HansとHanne(左)

 去年は台湾に招待され、今年の6月にはワールドカップ用の上演のために韓国に招待されているそうです。日本にはまだ来てません。何とか彼らの手づくりながら高い芸術性を誇る舞台を日本にも紹介したいものです。海外にも招待されるような内容を誇りながら、地域の人に親しまれている演劇集団がすごい片田舎にあるということからも、この国の文化の厚さ、皮相ではないことを思い知らされます。

 面白いことにHanneの母方はグルントヴィの直系の血筋になるそうです。それを聞いて思わず写真を撮らせてもらいました(笑)。Vartovから始まったデンマークでの滞在は、いろいろな出会いの妙を紡ぎ出しています。

 それではまた。