下関に名医あり
ある小児科医の障害児の子育て支援

清水 満(協会幹事)


 

診察をする金原先生(机のシールに注目!)

 世間では医療過誤事件や悪徳医のニュースがときどき話題になったり、個人的にも医療機関で納得のいかない対応を経験したりすることもあります。高額納税者の上位の常連が開業医で占められることは有名ですし、一般的なイメージとしては「医は仁術」という言葉も過去のものになってしまった感があります。

 しかし、さまざまな会合で出会う医療機関の人たちは、こうしたイメージを覆すような、日夜患者のため、ケアすべき人たちのために献身的な努力をしている人たちが多く、尊敬に値する人たちが多いのも事実です。それは医療の世界が、病気やケガ、障害等の困難で苦しむ受苦者としての患者に向き合う世界でもあり、弱者をケアするヒューマンな世界であることから来るもので、これもまた医療界の奥深さを示すものといえましょう。ここに紹介する金原洋治さんもそうした尊敬に値する人たちの一人です。

 金原先生(日頃人を「先生」と呼ぶことのあまりない私ですが、今回はそれに値する人ですので、敬意を込めて「先生」をつけさせていただきます)とは、1995年の下関市での教育講演会で最初にお会いしました。廣岡逸樹さん(日置フォルケホイスコーレ、協会会員)を中心とした実行委員会が、兵庫県高砂市の「地球学校」の児島一裕さんを講師としてお呼びし、私(清水)もパネラーの一員かなにかで参加したときです。

 そのときに実行委員の一人として廣岡さんが金原先生を紹介し、小児科医であることを伺いました。教育の講演会に医者が参加しているとは、下関もなかなか多彩な人材がいるんだなと感心したものですが、話の中で「小児科医だからわかる子どもの状況というのもあるんですよ」という言葉が印象に残り、また廣岡さんからもとてもよい医療をやっておられると聞いて、いつかはお訪ねしてみたいと思っておりました。この度、その機会を得て、金原小児科を訪問してみました。

金原小児科外観

 金原小児科は下関市の住宅街にあり、まわりは高校や大学のある文教地区です。建物は四階建てで、一階が小児科のクリニック、二階が「発達支援室ベースキャンプ」そして絵本と遊びの部屋「キッズ・ドリーム」、三階と四階が重症心身障害者地域生活支援センター「じねんじょ」となっています。「発達支援室ベースキャンプ」は、自閉症、学習障害、ADHD(注意欠陥多動性障害)、アスペルガー症候群などの発達障害や不登校、心身症の子どもたちの支援の場で、常勤の作業療法士一名と非常勤の臨床心理士二名によって運営され、「キッズ・ドリーム」は週一回、ボランティアの方々によって絵本の朗読会などがなされています。「じねんじょ」は知的障害者通所更正施設「じねんじょ」、重症心身障害者通園事業施設「むく」そして心身障害者デイケアハウス「むかご」の三つの事業を運営し、重症心身障害者たちが当たり前に地域で生きることの支援を行っています。

「じねんじょ」の看板

 この建物の前には、旧金原小児科の建物があり、そこには「おくぞの耳鼻科」と「フリースクール下関」が入っています。医療と福祉と教育の一大ケアセンターという形になっており、子どもの成長で悩む人たち、障害をもって生まれてきた子どもとその親たちにとって、これほど安心できる態勢もないのではないかと思えるほどです。

 これらの施設は、以下金原先生ご自身の談話でも触れられるように、新生児医療に従事し、重度の心身障害児たちに寄り添って最後までケアしようとする姿勢が生み出したもので、金原先生のケアのある種の目に見える成果ともいえるものです。診療をして、それでおしまいという態度では、このような医療・福祉・教育の有機的な連関、総合的なケアの施設は出てくることはなかったでしょう。もちろん親たちやそれを支援する人たちの自覚的な運動も大きな役割を果たしました。

 小児科診療にしても、白衣を着ないお医者さんとして、子どもたちにも親しまれています。白衣を着ると子どもたちがいかにも診察を受けているというプレッシャーを感じるので、なるべくリラックスさせて自然体でいるために着ないということです。待合室や受付にはぬいぐるみや絵本がさりげなくおかれ、これもまた子どもたちの心をリラックスさせる効果があります。保護者の信頼も厚いようでした。子どもたちの育児相談にも懇切丁寧に乗り、単に医療だけではなく、育児全般で悩む親たちを支援しようという姿勢があらわれていました。

待合室

 金原先生の活動は病院だけにとどまらず、地域や学校に出かけていきます。軽度の発達障害などでは、幼稚園、学校との連携をとり、また養護学校の指導医となって、障害児たちが養護学校にいってからのケアも継続しています。ご本人の談話にもあるように、臨床心理士、児童相談所、保健所、学校、弁護士等さまざまな場の人たちとネットワークをつくりながら、子どもたちのケアに当たっていますので、子どもの発育、発達障害で悩む親や養育者、あるいは重度の障害児をもつ親たちにとっては、とてもありがたい場所です。ここに来るだけでたいていの悩みの相談ができますし、親たちの交流や助け合いもできて、一人で苦しむことも少なくなります。このような場がもっとあちこちにできれば、障害児をかかえた親が情報を求めて、東奔西走することがなくなるのですが。

 金原先生に直接いろいろお尋ねしました。以下がそのインタビューの模様です。