協会の関西と関東の会合の報告

 

関西の会(2006年6月)でのイドラットフォルクス

1,協会関西会員談話会の報告 山下満(大阪市)

 表現活動グループ「ホニ」と日本グルントヴィ協会共催イベントを長居陸上競技場内にあるユースホステルでやってきた。

 表現活動グループ「ホニ」は、コープ自然派ピュア大阪のグループ、サークルで、フェアトレードの講演会から親子向けのアート活動などオルターナティヴな社会作りを目指しているグループだ。女性3人で運営していて、3人の個性と特徴が生かされ毎回毎回飽きのこないのが良い。

 日本グルントヴィ協会(以下協会)は、デンマークのフォルケフォイスコーレ(民衆大学)と深い繋がりがあり、エコロジー関係から教育関係まで、これまたオルターナティヴ社会作りを目指している団体で、僕の恩師、清水満氏が幹事をされている。会員も個性的で、プロの役者、大学教授、大工、主婦、建築家、町会議員、農民など様々で、全国に散らばっている。

 今回は、「ホニ」と協会の共催で、イタリアのレッジョエミーリア市のアート教育のビデオ鑑賞、絵本朗読兼芝居、デンマークの身体コミュニケーション的遊び(イドラットフォルクス)、音楽付き詩の朗読、清水氏の講演と盛りだくさんだった。

 参加者は、30人ほどで親子参加がほとんどだったが、中には、 家具の修復製作家もいらっしゃった。

 清水先生(予備校の恩師)のイドラットフォルクスは、デンマークの民衆大学(成人のためのワークショップ的、長期宿泊形式の学校)では、最初の授業で、アイスブレーク(緊張ほぐし)も兼ねて行われることが多い。デンマークでもそうだったが、きょうもとても盛り上がった。みんなくっついて一列にうつぶせに寝てそのうえを一人一人順番に、人間キャタピラーみたいに老若男女が転がっていく遊びは、単純だが、とても効果的に緊張ほぐし、参加者がぐっと親密になった気がした。

 僕は、芝居絵本朗読のバックで効果音的にパーカッションを、詩の朗読でギターとリュートを弾いた。僕の場合、キッチリした楽譜があるより、即興的、瞬間芸的にやる方がプレッシャーがなく、エネルギーが発揮できるようだ。おもしろかった。

河野夫妻の「お話しライブ」

詩の朗読コンサート

 先生の講演は、20年前と変わらない九州なまり(対馬出身)の 標準語で、冗談も交えて、哲学的内容を、参加者の経験を喚起させながらはなしてくれるので、思想が血肉とまではいかないとしても、体内に吸収されていく気がした。それは20年まえと少しも変わらない感動を与えてくれた。思えば先生に、文学や、芸術に思想に目を開かせてもらったのだ。宮沢賢治、マルクス、ヘーゲル、マックス・ウェーバー、トルストイ、エンデ、柳田国男等を知ったのは先生を通してだった。田舎の少年が、新しい世界に目を向けるきっかけが、先生の授業だった。

 今回の講演は、身体表現活動とくにダンスの重要性を、大脳生理学的、教育学的に明らかにするものだった。子供が無重力状態がどんなものか想像してご覧というと、自分の体験を組み合わせて想像する。エレベーターが急降下する時の感じや、飛行機が離陸した時の感じ、トランポリンをやった時の感じ、という具合だ。想像力が、体験という行為に支えられているということで、たとえば、日常的なところで言えば、梅干し茶漬けを想像すると唾液が出そうになるのは、じっさいに茶漬けを食べたことがあるからで、脳波レベルでは、想像の過程で、実際の行為とかわらない脳波を測定できるらしい。パブロフの犬が分かりやすい例かもしれない。

 ではなぜダンスが必要か?路地が消え去り、路地での遊びも見られなくなり、幼児や児童が、塾通いで遊びの体験が乏しくなると、相手を思いやる力が十分に養われない可能性がある。小学生が小学生を殺してしまう状況も、もしかしたら、われわれが作り出した環境の最悪の結末の一つかもしれない、という見方も出来る。相手の痛みを想像し、共感し、思いやる素地として、身体遊び、身体表現が文化として根付くためのジャンルとしてダンスをというわけだ。それも踊るという行為が、文化として根付いていない日本においては、それがオルターナティブに機能するともいえる。それがダンスを重要視する理由だ。

 奄美沖縄は、みんなが集まれば、踊り、唄がはじまる。 そういう状況を、その伝統のない地域でやるのは難しいが、紙芝居や絵本あそびを音楽付きで、出来れば近所の子供達を集めて住宅で展開できれば、奄美沖縄の「結い」みたいな人々の築きが出来ていくのではないかと思う。

 今回は、未来に希望をつなぐ、とてもいい機会になった。

リコーダー遊び

みなで意見を交わす

 ユースから外へ出ると、長居公園では、4、50代のおじさん達が、汗をかきかき、煙草を吸いながらビートルズを演奏し歌っていた。それも渋い選曲で「I'll follow the sun」 。これで、ビール片手にみんな踊って歌えば、奄美流になるな〜 と思った。

2,関東談話会「サンディ・ホイスコーレ in カフェスロー」の報告 

友枝理人(東京都三鷹市)

 関東の会員の集まりではおなじみとなった国分寺カフェスローで7月16日に第8回関東談話会が開かれました。参加者が約15名という関東の集まりにしては小規模な会になりましたが、その分参加者同士の近況報告や情報交換が思う存分に出来たのではないでしょうか。また、カフェスローでの語らいもさることながら、談話会後に場所を移しての交流会(食事会)では最後まで参加者同士の話が尽きず、有意義で楽しい時間を過ごすことが出来たのが今回はとても印象的でした。

関東談話会の様子

■「デンマークに暮らして」 近藤千穂さんのお話
デンマーク人の男性と結婚され、現地の大学で日本語教師としてお仕事や子育てをなさっている御自身の経験と資料をもとにデンマークでの暮らしの様子について生活者の視点から色々と詳しく話してくださいました。

1) 高福祉高負担
所得税は60%と驚くほど高負担ながらも、国民の多くはその恩恵を実感している。

2)出産と育児
・「児童手当制度」
子どもの成長に応じて支給額は少なくなる。
母親の講座に振り込まれる。
・「産休」
女性は子どもが生まれる前の4週間と生まれた後の14週間。
男性は子どもが生まれた後の2週間。
また、その他にも親休暇、育休もある。
・「親になる人のためのワークショップ」
出産前の定期健診と合わせて、親になる人のために開かれている。
・「産科と出産クリニックの選択が自由」
クリニックは自宅のような和やかな雰囲気で、リラックスしてサービスを受けることが出来る。
・「親グループ作りの手助け」
近所で同時期に出産する人を教えてくれるので出産、育児に関する情報交換ができる。
日本で言う「公園デビュー」のお手伝いのような感じ。
・「保育園」
日本では親の状況で入れるかどうか判断される。
デンマークではそういった区別はなく、自由に入園を選ぶことが出来る。

3)教育
多くの選択肢がある。
いつでも好きな時に「やり直す」ことができる。(リセット可能な「生きやすい」社会)
・「就学前児童学級(0年生)」
その学校になじめるか見極められる。
入学を一年待つこともできる。(日本のように年齢による制限はない)
クラス替えがなく、9年間基本的に同じ先生が受け持つ。

4)医療
・「ホームドクター制」

5)参加者からの質問
Q. デンマークでの統合教育 (障害を持つ児童と健常児を同じ場所で教育すること) についてはどうなっているのか?
A.「統合」という言葉自体が障害者と健常者を分けているのでデンマークではわざわざそういったことを意識していない。また、デンマークでは「障害を持った人」というグループではなく「個人」としてみなされている。
Q. 子どもがクラスに合わなかったときの対応は?
A. 親との話し合いなどといった努力はするが、どうしても合わなかったら子どものほうが違う学校へうつる。
Q. 担任は何の教科を受け持つのか?
A. デンマーク語といくつかの教科。副担任が教える科目もあるので、担任と合わなくてもそちらの先生と合う場合もある。

 このように、実際にデンマークで長年生活してみなければわからないようなことがたくさん聞けてとても興味深かったです。

報告する近藤さん

■ 「感性を育てる地域文化創造」 西村たか子さんのお話
横浜のNPO法人「横浜こどものひろば」でご活躍なさっている西村さんのこれまでの活動のご紹介と、子どもを取り巻く環境や子どもたち自身の変化についてお話くださいました。

親子劇場について
・戦後の高度経済成長期に福岡で始まった子ども劇場の活動やその広がりについて。
・経済的な豊かさと、心の豊かさについて。
活動内容:作品をみる
・自主活動(キャンプ・お祭りなど)
・文化支援
※詳しくは子ども劇場全国センターのサイトを御参照ください。

子どもを取り巻く環境と取り組みについて
・日本では一人一人の子どもの感覚(=個性)が尊重されず、他とは違うものが排除されてしまっている。そのため西村さんたちは「みんなで考えて、みんなで決めて、みんなで見る みんなで作る」ということを大切にして、単なる劇場観賞で終わらせないようにしている。
・決める:1年間に色々なジャンルを見るように
・作る:もぎりや舞台装置などを手伝う
また、舞台の前と後に話し合いの場を設け、個人の思いや考えを重視している。

・団体が主催する活動以外の自主活動(劇場で知り合った会員同士の交流など)は会員かどうかにかかわらず地域ごとでなど自由に行っている。

 西村さんのお話を聞いたあとは、「個性」やものの「感じ方」についてなど興味深い意見が参加者間で交換されました。西村さんの報告にもありましたが、親の「押し付け」の問題や、塾や習い事と違って「結果」や「効果」がはっきりとわかるものではないので各家庭の経済的な事情によって真っ先に節制されてしまうという現実があります。声高に叫ばれ続けている親の経済状況による「格差」の問題が子どもの心の成長にまで出てきてしまっているということでしょうか。

「個性」や「感性」を育てる具体的で効果的な方法というものがあるかどうかはわかりませんが、個人的には子ども時代をどう過ごしたがということが1つの鍵のような気がします。今回お話くださったお二人や、参加者の皆さんの意見を思い出しながらもう少しゆっくりと考えてみたいと思います。

 最後になりましたが、近藤さん、西村さん、お忙しいところ興味深いお話をどうもありがとうございました。

懇親会の様子