マキ・ガスタービン発電機

グリーンウッド

 

今、木質バイオマスで発電する技術開発が盛んで、国も積極的に資金援助している。経済産業省の立場では地球温暖化防止が目的であり、農水省の立場では環境省が作ったダイオキシン規制法が林業から出る木屑の焼却をむずかしくしたためのようである。渡辺正 ・林俊郎共著の「ダイオキシン 神話の終焉」によればバイオマスの焼却処理にまで規制の網をかけるのはすこし行き過ぎと思うが、これがバイオマス発電の駆動力になっていることも否定できない。

というわけで、バイオマスのコンポスト化、乾留による木炭化、はてまたその粉炭化、メタン発酵、アルコール発酵、熱分解によるガス化、液化、生焚きによる発電など多様な技術の研究が為されている。

1998年に世銀は農村向けの分散型バイオマスガス化発電について各種方式を比較して発電規模に応じた適正な方式を発表している。まず村有地のバイオマス生産性から最低限のバイオマス⇒電力の転換効率を求めている。もしバイオマス生産性が2ton/ha/yearなら最低のバイオマス⇒電力の転換効率は20%というものである。10kW-100kWの出力範囲でバイオマス⇒電力の転換効率は20%以上のものはガス化ガススターリングエンジンが26-36%、ガス化ガスを熱回収型ガスタービン燃料とする方式25-34%、ガス化ガス燃料スパークプラグエンジンは20-35%で合格。バイオマス生焚き往復動スチームエンジンは1.4-3%で不合格となっている。

ガスへの転換ロスがない生焚きが一番いいようでも小型分散発電に往復動スチームエンジンは低効率で問題外。ボイラーで燃 しスチームタービンを回すいわゆるBTG発電は高い熱効率を期待できるが小型分散向きではない。

ガス化ガスを熱回収型ガスタービン燃料とすることの有利さは「広葉樹発電 」で論じた通りである。ガス化ガスを市販されている携帯発電機の燃料とする方式も「バイオマス・ガス化発電設計計算プログラム」で説明したとおりである。

外燃機関であるスターリングサイクルエンジン何でも燃せる特長を利用してヨーロッパで小規模バイオマス発電などに実用化されつつある。60kW程度の装置が市販されていてこれを輸入して試用する向きもあるようである。

そこでまだ使える技術がないため国連でも比較しなかったバイオマス生焚ガスタービンの開発の可能性を考察してみたい。ガスへの転換ロスがない生焚きがエネルギー総合転換効率向上の可能性を秘めているのだ。チャレンジしがいがある。

発電方式のおさらい

大型ガスタービンで駆動する交流発電機はグリッドと連係運転するとき、系の力率の品質維持のためにガスタービンの回転数制御を高精度にしなければならない。ということは 固体の木質バイオマス供給量を電力負荷に追従して調整することになる。チッパーで粉砕するくらいではだめで、オガクズ位に微粉砕しても供給量調節ができるかどうかという問題があり、粉塵爆発の危険性も避けられない。

小型ガスタービンの場合は自動車のエンジン直結のオルタネータや小型風車とおなじように交流発電機で発電し、整流して一旦バッテリーに蓄える方式を採用すれば、ガバナーで回転数制御はせずとも、成り行きで発電することができる。この場合、再度DAインバーターで交流に変換する。

自動車のエンジンの回転数は常に変動するし、小型風車はピッチ固定のため、風速が変わると回転数が変わる。家庭用風車・太陽電池ハイブリッド発電では 自動車の発電機とおなじく交流発電機を使い、整流器で一旦直流に変換してから一旦バッテリーに蓄える。そしてDAインバーターで交流に変換して使用する。ちなみに大型の風力タービンはブレードのピッチコントロールで風車の回転数を制御できるので通常の三相交流発電機をつかっているようだ。

小型ガスタービン形式と発電機連結方式

バイオマスを発生する事業所単位の分散発電機向きの小型ガスタービン開発の場合、多量生産されている普通自動車またはトラック・バス用のレシプロエンジン用 小型ターボチャージャー(IHI製RHF、RHGシリーズ)をベースに すれば競争力ある装置を作れる。ただターボチャージャーに出力軸はないため、それを付加するか、別途排気タービンを付加する必要がある。 タービンと発電機の連結法には3通りの方法が考えられる。

小型ターボチャージャーの空気インテーク側のシャフトを延長し出力軸とする方式

(1)市販ターボチャージャーをガス発生器として使い、発生したガスを特別開発した動力回収タービン導き、これにギヤ等で連結する交流発電機を駆動する方法 (東大金子研究室方式

(2)市販ターボチャージャーの空気インテーク側のシャフトを延長して軸受けを追加し、そこにプーリーを装着し、ベルトで減速して交流発電機を駆動する方法(ドイツの模型ヘリエンジン方式

(3)市販ターボチャージャーのシャフトに高回転交流発電機を直結する方法(Capstone方式)

である。

(1)はワンオフの動力回収タービンの開発費が高い。 また灰燼もタービンに流入する本方式では複雑な動力回収タービンを汚染させてしまうだろう。

(2)は多量生産されている自動車エンジン用の中古のオルタネータを使え、プーリーの製作は簡単なため最も安価である。

(3)は100,000rpmに達する高速回転の交流発電機のワンオフ開発のため、 高価となりそう。

マキ燃焼方式

さて木質バイオマスの生焚き燃焼器をどうするかという最大の問題を考察してみよう。木質バイオマスの爆砕などの技術も研究されたが、成功していない。ボールミルなどでスラリーにするのも金がかかる。やはりチッパーで処理した位で使えなければ実用化はおぼつかない。

木質バイオマスをバッチ供給とすれば、処理する全量をあらかじめ圧力容器に入れておき、空気を少しづつ送って徐々に燃焼させればよいわけだ。カナダのNye Manufacturing Ltd.の社長ナイ氏が趣味でこのWood Burning Gasturbine を試作しデモ運転している。このサイトには運転の模様のビデオ(10MB)があるのでみてもらいたい。

ナイ氏の燃焼器は2重になっていてマキは内筒の底につけたグレーティンの上に投入している。ガスタービンの空気圧縮機を出た空気は燃焼用と希釈用に2分され、タービン回転数は燃焼空気量調節で行なう。燃焼空気は二重筒の間を内筒を冷却しながら下向きに旋回しながら流れ、底で反転してグレーティングを通過して上向きに流れ 、マキを燃す。燃焼ガスは希釈空気で温度をさげ、タービンに入る。 ガスタービンは理論燃焼空気量以上の大過剰を取り込み、タービン入口温度を使用材質の耐熱温度以下に維持しなければならない。圧縮空気全量を燃焼室に送ると高温の燃焼ガスが発生し、また灰等飛び散ってタービンに入るため、必要量だけ燃焼室に送り、バランスは燃焼室をバイパスして希釈し温度を下げることに使う。

ナイ氏の上向き燃焼はしかし、未燃マキもガス化し、希釈空気でアフターバーニングしてしまうという欠点がある。やはりガス化炉と同じく下向き燃焼が望ましい。均一燃焼のためにはガス化炉のように火床を絞り、空塔速度を上げる必要があろう。

プロトタイプモデルの提案

小型ガスタービンと発電機連結方式として(2)を採用し、マキ燃焼方式として下向き燃焼を採用した概念図は下図のようになる。

マキ・ガスタービン発電システム

採用する市販のターボチャージャーは回転数80,000rpm-130,000rpm、タービン径90mm、圧縮比2.7、燃焼室温度950度C、吸気量は9Nm3/min程度のトラックエンジン向けのものを採用する。

従ってコンバスターの設計圧力は2kg/cm2 G以下となり、圧力容器の法規制の適用外とすることができる。 コンバスターは二重構造とし、高温部分はケイソウ土など耐火物で造り、消耗品の火格子ともどもステンレス製薄板で一体に組み立て、ハッチより圧力容器内に挿入する。圧力容器は燃焼空気で冷却する。パイプ等ネジ継ぎ手は圧力容器外から接続する。 プロトタイプはステンレス製とするが、温度条件によっては圧力容器に市販の大型ボンベ(使用圧力15kg/cm2 G程度)を転用してコストダウンが計れるかもしれない。

連続長期運転にはバッテリー・インバーターを電源としてブラックスタートでき 潤滑油ポンプ、空冷ファンが必要となるが、分散・回分式運転には消費電力、コスト節減の目的から考えて潤滑油ポットからの垂れ流し方式でよい。

安全対策

ナイ氏の燃焼器の蓋はスプリング付きナットでしめてフラッシュバック等異常燃焼の時、内部圧力を逃がすための安全弁の役目をしている。 内筒はこの燃焼器の上蓋にぶら下がる構造になっている。安全弁、ラプチャーディスク等の代案も考えられるが、コスト面でナイ式が優れている。

運転方法

スタートアップ手順は着火用ガス燃料をスパークプラグで着火させ、マキが燃え出すまで煙はテンポラリー・ベントから直接大気に放出する。着火したらしたらベント 弁と着火口を閉め、 燃焼室バイパス空気弁を閉じる。タービンの空気圧縮器ブレードに圧縮空気を吹き付けタービンをスタートさせる。 タービン回転数が上がったら燃焼室バイパス空気弁を開ける。タービン回転数制御は燃焼室空気弁を手動調節にておこなう。 市販のターボチャージャーに装備されているタービン入口可変ノズルは手動にて調節する。

廃熱回収とのハイブリッド

タービン排気ガスを対流型風呂釜に導き、風呂用の温水を沸かすことも可能である。逆に考えればマキで風呂を沸かすついでにバッテリー充電できるシステムとも考えられる。

大型化すればコンバインドサイクルを構築できる。通常のBTGの燃料供給系に切り込んでガス発生器とし、総合効率を向上さえるという概念でもよい。

粉炭を燃料とする小型ガスタービン発電機開発のその後日談

2004年1月25日、東京農工大教授の横尾教授は 、「バイオマスエネルギー交流フォーラム」でマキを木炭に変換し、カートリッジ化した粉炭の利用を利用する粉炭ガスタービン発電機構想を木炭粉をガスタービン燃料とする構想を発表された。 そもそも木炭に変換するだけで木質バイオマスの持っている熱の50%は失われて、コスト的に実用にならないし、粉塵爆発の危険性はいよいよ高まる。

試作機は小型ガスタービン形式と発電機連結方式 を(1)とし、動力回収タービン発電機はつけず、粉炭は予め燃焼器内圧と同じ圧力に維持するカートリッジに入れておき、小型スクリューフィーダーで粉炭を燃焼器に供給する方式でガス発生試験を行ったが、安定した運転ができず、途中で放棄されたとのこと。粉塵爆発の危険を回避する名案がおもいつかなかったことも放棄の理由となったとのこと。

マキカート・マキガスタービン発電に関する問い合わせ

August 31, 2003

Rev. January 11, 2007


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