本名=西條八十(さいじょう・やそ)  
                  明治25年1月15日—昭和45年8月12日   
                  享年78歳(詩泉院釈西條八十)  
                  千葉県松戸市田中新田48–2 八柱霊園2区1種1側27番   
 
 
                   
                   
                   
                  詩人・仏文学者。東京府生。早稲田大学卒。大正8年処女詩集『砂金』を自費出版、象徴詩人として認められた。13年にソルボンヌ大学留学、帰国後早稲田大学教授となる。『美しき喪失』『見知らぬ愛人』『一握の玻璃』。訳詩集『白孔雀』、童謡集『鸚鵡と時計』などがある。 
                   
                   
                   
                   
                    
                     
                   
                   
                   
                   
                  吾死なば、  
                    この躯焼かれて、崩れて  
                    こまかに美しき灰とならん。年  
                    我伴侶よ、そを真白き素焼の甕にをさめ、  
                    晴れたる佳き日、  
                    篠懸の並木に懸けよ。  
                    わが情熱の死灰は、  
                    あざやかなる真紅のいろに燃えて、  
                    翻りつつ、遠き地平の空を彩らん。  
                    牧人よ、  
                    荷馬車挽きよ、物売女よ、  
                    かかる日、こころ楽しく、往還を歩みゆけよ。  
                    吾は一代の詩人、  
                    灰となりても、なほ、風の中に舞ひつつ、  
                    卿等のために美しき唄をうたふべし。  
                  (美しき灰) 
                    
 
                   
                   
                     
                   金子みすゞを最初に見い出した人ということで知られてはいるが、童謡や民謡などのほか流行歌などにも手を染めて北原白秋・野口雨情とともに童謡詩人と呼ばれており、象徴詩人としての西條八十の評価は決して高いとはいえない。 
                     近代文学の系譜からはずされた詩人として今日に至っているけれども、その天才的で繊細優美、かつ高貴な想像力に彩られた詩は象徴詩として一級品であった。だが、〈詩壇では自由詩運動で定型詩は亡び、文語の彫琢も不必要という悲運に遭遇した。〉ためにその手法を〈童謡の中で駆使した〉ことが、童謡詩人としての評価をより一層高めていったのはある意味皮肉なことであった。 
                     昭和45年8月12日午前4時30分、急性心不全のため西條八十は成城の自宅で死去する。 
                   
                   
                   
                   
                   
                    雨宿りがわりに駆け込んだ新橋の小料理屋の娘晴子と、番傘を貸してくれた事がきっかけで生涯の伴侶となって過ごした遠く懐かしい日々。死してのちの世の永劫の日々もまた。 
                     〈われらふたり、たのしくここに眠る、離ればなれに生まれ、めぐりあい、みじかき時を愛に生きしふたり、悲しく別れたれど、また、ここに、こころとなりて、とこしえに寄り添い眠る〉——。 
                     詩集をひろげた形の黒花崗岩に刻まれたこの詩碑の奥に、大理石に金文字で彫りつけられた「西條八十/西條晴子墓」の墓標がきらきらと瞬いていた。故人も墓参のあとのひととき、腰をおろしたという腰掛石に私も試してみた。詩人の繊細さが伝わってきて、ひんやりとした冷たさが心地よかった。 
                   
                     
               
                   
                    
                    
                    
                    
                    
                    
                    
                      
                    
                    
                    
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