本名=三好達治(みよし・たつじ)  
                  明治33年8月23日—昭和39年4月5日   
                  享年63歳(法治院平安日達居士)❖達治忌   
                  大阪府高槻市上牧町2丁目6–31 本澄寺(日蓮宗) 
                   
   
                   
                   
                    詩人。大阪府生。東京帝国大学卒。大正15年梶井基次郎らの同人誌『青空』に参加。昭和5年詩集『測量船』を出版。抒情的な作風で人気を博す。『定本三好達治全詩集』で読売文学賞を受賞。詩集『駱駝の瘤にまたがって』『春の岬』『一点鐘』論集『風詠十二月』などがある。  
                     
                     
                   
                   
                      
                     
                   
                   
                                    
                  堤遠く  
                    水光ほのかなり  
                    城ありてこれに臨めり  
                    歳晩れて日の落つはやく  
                    扁舟人を渡すもの一たび  
                    艪のこゑしめやかに稜廓にしたがひ去りぬ  
                    水ゆらぎ蘆動き  
                    水禽出づ  
                    松老いて傾きたる  
                    天低うしてその影黒くさしいでぬ  
                    かくありて雲沈みぬ  
                    万象あまねく墨を溶いて  
                    沈黙して語らざるのみ  
                    我れは薄暮の客たまたまここに過るもの  
                    問ふなかれ何の心と  
                    かの一両鳧羽うちて天にあがる・…  
                    叱叱しばらく人語を仮らざれとなり     
                                                                
  (水光微茫)  
                              
                   
                   
                    
                   〈太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ〉。 
                     三好達治が梶井基次郎らの創刊した同人誌『青空』に昭和2年に発表した「雪」という詩であるが、こんなにも短い詩のなかからも不思議な物語のイメージが浮かび上がってくる。ただそれは謎のままであり焦点は結ばないのだが——。 
                     〈自然詩人〉といわれた三好達治は昭和39年4月5日朝、心筋梗塞から鬱血性肺炎を併発して田園調布中央病院で亡くなった。 
                     萩原朔太郎を唯一の師と仰ぎ、優しい文体で多くの愛誦詩を生んだ。その一方で戦争詩を書いた彼の思想を云々する批評者も多く存在するが、とにもかくにも硬骨な感覚とその抒情文体は昭和初期の近代詩に鮮やかな古典を蘇らせたようでもあった。 
                     
                     
                   
                   
                    
                   大阪高槻にある本澄寺は達治の弟三好龍紳師が住職(今は甥に代が移ったと聞いている)である。七回忌に建てられたという墓碑は椿の垣根に囲まれ、ほのあたたかな冬の入り日を背にして、ゆっくりと歩み寄っていく私にきりっとした碑面を向けて屹立している。その姿勢は彼のノスタルジックな詩のスタイルとは異なり、厳しい対面の時であるような気さえしたものだった。寺をあとにして駅への道すがら高架向こうの山懐で一筋の煙が揺らいでいるのが見えた。胸の奥で何かしらほっとした感情が沸き上がってくるのが嬉しかった。 
                     〈わが名をよびてたまはれ いとけなき日のよび名もてわが名をよびてたまはれ〉。 
                     
                     
                   
                   
                    
                    
                    
                    
                    
                    
                    
                     
                    
                    
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