
WALKING IN RUSSIA
PART 29
飛行機に乗る前に狐川さんからアンケートが渡された。機内で書いて渡してもいいし、帰宅後郵送してもいいのだが、飛行機の中はヒマなので、さっちゃんとふたり、せっせと書いてしまった(そういえば通路をはさんだ隣り同士にしてもらえた)。
今回の旅行の感想や、次に行きたいところを記入するようになっているのだが、中に添乗員を5段階で評価する部分がある。
「親切心」「統率力」「語学力」「知識」「責任感」
ひえ〜、これって怖い。添乗員にとっては成績表みたいなものよね。この結果で昇給率が決まっちゃったりするのかしら、と思うと、あまり悪いことは書けない。
さっちゃんたら、これを読むなり大声で「そうかぁ、だからあんなに親切だったんだぁ!」
2つ前の席で、狐川さんが声を殺して笑うのを私は目撃したぞ。いやはや、ほんとうにいろんな客をめんどうみてくれて、お疲れさまでした。精神的な重圧から解放されたせいか、帰りの飛行機の中ではいつになくリラックスして、年相応の若者に戻っていた狐川さん。「帰国日がウィークデイだと会社に直行しなければならないんですが、きょうは土曜なので、新潟のおばあちゃんちに泊まるんです」と、うれしそうに言っていた。
ようやく新潟に着いた。通関後すぐに解散。なんだかあっけないくらいのお別れだった。荷物の少ない人はさっさと出て行く。旅行社のサービスで、荷物を1個無料で宅配してもらえるので、私はお土産以外のものを全部かばんに詰めて、預けてしまった。さっちゃんと牛本さんは、浦和のおばあちゃんちに行くというので、途中まで一緒の新幹線で行くことに。ちょっとその前に、と空港のトイレに入ると、山羊田さんが大きなスーツケースのかたわらに立っている。
「あれ、荷物送らないんですか?」
「だってお土産もみんなこの中なんですもの。帰ってすぐ見たいから、持って帰るのよ」
トイレに入っている間、スーツケースの番をしてあげた。別れ際、「関西に来ることがあったら、ぜひ連絡してね」と、名刺をくれたのにはびっくり。では、あのバスでの失言は許してもらえたんだわ。終わりよければすべてよし、ね。* * * * * * *
というわけで、初めてのツアー旅行は、添乗員にも仲間にも恵まれて、とても楽しいものだった。日程的にはものすごくハードで、しかも時間切れ的な部分が多かったが、初めての経験としては上々だったのではないか、と思う。今度行くときの楽しみが残っているくらいのほうが、生きてく張りが出るってものだ。帰国後の手紙によると、さっちゃんは再度、砂漠に花が咲き誇る時期のトルキスタン旅行を計画しているようだ。牛本さんはポルトガル、蛙谷さんはアンコールワットと言ってたっけ。
さあ、私はどこにしようかなあ。