NEW YORK SKETCHBOOK



BEGINNING

「冬休みにニューヨークに行くんだけど、一緒に行かない?」

Wが私を海外旅行に誘ったのは、そのときが初めてだった。

ちょうどその頃、色々なことがあってかなり落ち込んでいた私を、かわいそうだと思ったのだろう。私のほうはといえば、それまでに行ったことがある外国は、社員旅行のフィリッピンと3泊4日の香港・マカオだけ。海外旅行にはほとんど興味がなくて、まして怖いと評判のニューヨークなんて、ふつうだったら絶対に行かない。

が、ヤケというのは怖いものだ。そのときはもう、矢でも鉄砲でも持って来い! 強盗に殺されちゃったっていいわい! という気分になっていた。

「ホテルはどうするの?」
「R氏とN子がマンハッタンに住んでて、居候させてくれるって」
私はR氏もN子も知らないが、Wの友人なら私の友人だ。

冬のニューヨークは寒い、と聞かされた私は、それからせっせと防寒具の準備をした。ふつうの靴じゃ、足が凍傷になると言われたので、Wのお母さんから裏に毛皮が付いたブーツを借りた。帽子なしでは頭が痺れてくる、と聞いて、毛糸で帽子を編んだ。スーツケースの中は、アンゴラの下着、ウールのタイツ、スキー用ソックス、厚手のセーターでいっぱい。最後の仕上げにムートンのコートと手袋を身につけて、私のニューヨーク・ファッションが完成した。


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