
メキシコに着いた。
私もWも、米ドル(現金、TC)とカードしか持ってきていないので、「まずは両替」と気はあせる。しかし、入国審査の手前の両替所では、TCは扱っていなかった。
現金を替えてもよかったのだけれど、WのTCがすご〜く古くて発行の控えもなく、「一刻も早く使いきっちゃいたい」というシロモノだったので、とりあえずそれがなくなるまでは、すべての出費をWの財布から出しておくことにしたのだ。
そして、入国審査。並んでいる列をざっと見渡し、いちばん短かそうなところに並ぶ。Wも同じ列についたが、隣りが早いとみるとすぐに移動していった。私もついていこうと思ったのだが、「まあ、ひとりかふたりの違いだし・・・」と思い直してそのまま居残ったのが大間違いだった。
なぜ? ど〜して? 私の列は一向に進まない・・・
どうやら、私の前20人くらいが中華人民共和国からのツアーだったらしく、ひとりひとりのパスポートを係官がそれはそれは丁寧にチェックしていたのだった。通訳らしき人が、係官の机にへばりついて、疲れたような愛想笑いを浮かべながら、ひとりひとり説明している。時々、係官ひとりでは不安になるのか、同僚を呼んで確認をとったりもしている。そんなに問題のある団体なんだろ〜か・・・
さっさと出たWが、向こうのほうであきれた顔をしながら待っている。「私ってほんとに列関係にはツイテないのよねえ。いつだって 私がついた列はいちばん遅くなる運命なんだから」グチりながら税関に向かった。
申告書を渡すと、ちょっとハンサムな係員が「SHOH?」と言いながら顔を見る。
「はいっ!」いきなり名指しされたものだから、思わず日本語で答えてしまったではないか。係員が、ニコニコしながら(妙に愛想のいいやつだ)、背後にある信号機のようなもののボタンを指し示した。床から突き出た棒の先に細長い箱のようなものがついていて、その真ん中にボタンがついているだけ。どう見ても精密機械のたぐいではない。第一、塗りもはげていて、強くボタンを押したら向こうに倒れてしまいそうにボロボロだ。
「なによ、これ?」と思いながらボタンを押すと、
ブ〜〜〜〜〜ッ!
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係員は「お〜っ!」とおおげさな声を出すと、私のかばんを指さして開けるようにと指示するのであった。しかし、顔はニコニコしたままで、どう見ても冗談だとしか思えない。
かばんを開けると(たってファスナーしかついてないボストンバッグなんだから)、中身をひとつずつ出し、袋に入っているものがあると、外側から手でゴニョゴニョと探って、「これは何だ?」と尋ねる。大体が、袋に入れてるってことは、あんまり人に見られたくないものでしょうが・・・それをなんで赤の他人に教えなきゃならないのよ・・・。
私が麻薬だの銃だの、その他持ち込んじゃいけないものを持っていると考えてるようには見えないのよねえ、この人。単なる退屈しのぎ? 名前を呼ばれたときから、ブザーが鳴る運命が決まっていたような気がする。
なんだか入国早々ついてないなあ。