WALKING ON A HILL OF HEATH


PART 6

おきなくゆっくりした気分で館の残りを見て、庭に出た。

この館はハムステッドの丘のてっぺんに建っているので、はるか彼方、ロンドン中心部のほうまですべてが見渡せる。なんて贅沢な気分だろう。

お天気もいいので、家族連れでピクニックに来ている人たちもたくさんいて、芝生の上に寝ころんだり、子どもを遊ばせたりしている。


館の裏手には昔の家事棟を改築したカフェテリアがある。ここでお昼を食べることにした。といっても、朝ごはんを食べ過ぎてしまったので、ケーキとお茶くらいでいいや。

と思っていたら、ここのケーキの大きいことったら! しかも、どれも砂糖やクリームがたっぷりかかっていて、見るからに甘そうだ。悩みに悩んで、いちばん小さくてシンプルな白いケーキを選び、紅茶のポットと一緒にトレーに載せて、外の庭に出た。ちょっと日差しが強いけど、こんなにいいお天気なんだもの。

木で作った素朴なテーブルと椅子が並ぶ庭には、食べこぼしを目当ての鳥たちがたくさん集まってきている。カラスや鳩や雀が、それぞれの縄張りを尊重しながらも、少しでもたくさん食べようとがんばっている姿がおもしろい。

人間をこわがらないのも考えもので、私のすぐ横の空いたテーブルでは、前の人がおいていった皿の上をカラスがつつきまくって、ティーポットやカップを倒しそうにしている。それでも、だれも片付けにはこない。

私の足下でうろうろしている鳩に、ケーキの小さなかけらを投げてやった。驚くほどすばやく食べる。こんなに食べ物が潤沢なんだから、もう少しゆったりかまえていたってよさそうなものだけど、やはり性分なのね。

しかし、ここの鳥たちは絶対に食べ過ぎよね。ちょっとダイエットしたほうがいいかもしれない。甘いものばかり食べて、体に悪いではないか。


さて、腹ごしらえもできたし、少し歩いてみよう。

カフェテリアの前の道から少し登り坂になっていて、木でできた低い柵を抜けるとケンウッドの中でもさらに小高い丘にでる。

さっきの柵は「犬と自転車の立ち入り禁止」のためのもので、ということは、このあたりの草原はどこにでも安心して寝ころがることができるってこと。

もちろん、ベンチもほどよい間隔で並べてあって、ひとりの人、ふたり連れの人、それぞれの好きな場所に、好きな方法で座って、はるかに続く丘からの眺めをゆったりと見入っている。

しばらくぼーっとしてから、今度はサマーコンサートが行われるという池のほうに降りていった。池には白鳥が泳ぎ、その向こうに白いコンサートドームが作られている。こんなところでコンサートを聴けたらどんなにすてきでしょう。

池の回りにも雑草のような小さな草花がいっぱい咲いているのだが、そのどれかの種だと思われる、白くて小さなふわふわしたものが空気中に舞い踊っている。まるで夏の雪のよう・・・幻想的。

リドリー・スコット監督の「レジェンド」という映画に、やはり画面いっぱいに白い羽のようなものが舞い飛ぶシーンがあって、それがすばらしくきれいだったのだけれど、多分こういうことだったのね。


池のそばの芝生から、館のほうへと坂を登って、今度は庭のほうへと歩いていく。

ちょうど木陰になる位置には、心地よさそうなベンチが置かれていて、つい誘惑されてしまい、ごろんと横になってお昼寝。日本だとけっこう勇気がいるけれど、ここではみんな自然にそうしてるので、きらくなものだ。

ああ、よく寝た・・・さあ、そろそろ帰ろうかな。


BEFORE I INDEX


All HTML and Graphics and Photos (C)SHOH