過去の魂(2001/6)


2001/6/24(Sun)

 嫁がウルフルズのコンサートに行くというので、今日一日、俺が子守を担当することになった。
 子守などとうっかり書いてしまったが、幼稚園に通う娘はまぁ良いとして、息子はすでに小学三年生であり、どこかその辺の公園で勝手に遊ばせておくなどというかなり投げやりな手法が通じない相手になりつつある。つまり、どこそこへ連れて行けという明確なビジョンを突きつけてくるのだ。
 で、今回は、幕張メッセで開催される「第14回次世代ワールドホビーフェア」へ行くことになった。まぁ、幕張だ。マリンスタジアムには割と頻繁に足を運ぶので、それほど億劫でもない。ただ、このイベントにはとんでもない数のガキどもが集まるということを、一昨年の第12回の時に確認していたので、車ではなく、電車で行くことにした。
 うちの子供らにとって、電車に乗るというのはそれだけで一つのイベントに成りうる。田舎暮らしでは交通機関といえば車だし、そもそも電車に乗るのにも駅までは車を使わねばならない。よって、子供らは年に数回の公共交通機関を利用しての移動を、何か特別なもののように思っているようだ。
 朝、出勤する時と大差ない時間にたたき起こされ、車で駅に向かう。電車を二回乗り換え、海浜幕張駅に到着すると、すでに駅前から行列が出来ている。ぎえーっ! 小雨の降る中、仕方なく列の最後尾に並び、会場までの距離を考えてうんざりする。そんな俺の気持ちとは裏腹に、子供らははしゃぎまくる。三十分ほどかかって漸く会場まで後半分というところまで来て、やっと、その行列がイベント会場への行列ではなく、先行販売、限定販売の会場への行列であることを知る。だぁっ! そんなもん、行列の最後尾でちゃんとアナウンスしとけやっ。全員が全員、ちょっとだけ発売が早いだとかちょっとだけ仕様が違うだけの商品購入に萌えている訳ではないんだぜっ!
 イベント会場への人の流れはさほど多くなく、すんなりと入場できた。なんでぇ。息子のオーダーは二つで、「コロコロコミック」に付いてきた引換券で、ベーなんとかいう玩具のトレカとベーなんたらいう玩具に張るシールとを交換することと、プレイステーションのソフト、「ピポサル2001」の体験プレイであった。息子は目ざとくソニーのブースを発見し、早速ピポサルの体験コーナーに並ぶ。娘は会場の雰囲気に呑まれてしまって、呆然と会場内を眺めている。満足げに体験コーナーから戻ってきた息子は、次の目的である交換所に行こうとせき立てる。ところが、この時点ですでに会場内は人でごった返し、まともに歩けない状態であった。言葉通り、人の波をかき分けながら交換所へ向かう。
 無事にカードを交換し終え、その後ブースをいくつも巡ったが、どこもかしこも大量に人が押し寄せていて、息子とは移動の度に待ち合わせ場所を定めてあったので心配は無かったが、娘は抱いていてやらないとすぐに見失ってしまいそうだった。とにかく尋常ではない人数が会場内には居た。数万人〜数十万人は間違い無い。世のお父さんお母さん、ご苦労様でした。
 会場近くのマクドナルドで昼食を摂り、昼過ぎに帰りの電車に乗る。どの電車にも座ることが出来て、子供らは買ったり貰ったりした玩具やパンフレットを眺めながら満足げである。連れてきてやって良かったなと思う反面、とんでもなくぐったりした一日でもあった。(そして嫁は嫁でかなり楽しい思いをしてきたらしい)

2001/6/23(Sat)

 そんな訳で今日は、土曜日の方の仕事へバイクで出かけていき、K氏と仕事の愚痴合わせをしてから、昨夜のリベンジのために、魁華@八街へと挑んだのであった。しかしラーメンばかり良く食うな俺も。
 出発した時間が遅かったのだが、ウェブでチェックし、営業時間を確認する。店に到着し店内に入ると、厨房を取り囲むようにしてカウンタがあり、店内の座席はそのカウンタが全てであった。他に客はおらず、二人とも角煮九州ラーメンを注文する。
 この店、なんでも以前は新宿曙橋で行列の出来る店としてその名を轟かせていたとのこと。ま、そーゆー逸話の残る店はいくつもあるが、だからと言って俺の好みである保証はどこにも無い訳で、所詮は自分が美味いと思うか不味いと思うかだけ。むしろ、他聞というフィルタを取り外し素直な気持ちで箸を、レンゲを動かすことの方が好結果である場合が多い。少なくとも俺にとってはそうだ。
 さて、問題のそのラーメンはというと、大振りの角煮が四塊、中央にたっぷりと盛られた千切り(茹で?)キャベツを取り囲むように乗せられ、半割りゆで卵、あさつきが添えられている。スープのベースは豚骨。かなり濁った醤油色をしていて、そこへ大量にすり胡麻が散らされている。ウェブの情報では細縮れ麺とあったが、俺の目の前のそれは長浜系に見られる細ストレート麺。スープ表面には、脂の幕が薄く張られている。どうやら久留米系のラーメンのようだ。
 カウンタには紅生姜が入った容器が置かれており、好みに応じて自分で投入できるようになっている。紅生姜が苦手な客への配慮であろうか。押しつけがましくないところに好感が持てる。また、百円なりのプレミアムプライスを投じることで替え玉が出来る点も嬉しい。
 で、肝心の味はどうであるかと言うと、奥行きの深いコクのある素晴らしいスープと細麺が非常に良くマッチしていて、そこへ胡麻の香りがアクセントを加え、口直しのキャベツが嬉しい。角煮はかなり濃い味付けでとても柔らかく煮付けられている。美味。ただし、ラーメンの具として食べるよりは、別皿で注文し、ご飯と一緒に食べた方が良さそうだ。ラーメンにトッピングするのであれば一個で充分。個人的には量が多すぎると感じた。角煮ラーメンにはチャーシュウが乗らないので、チャーシュウが乗る九州ラーメンに好みに応じた量の角煮をトッピングする方が良いかも知れない。とにかく、このラーメンは当たりだった。昨夜の店で感じたちぐはぐさが無く、一杯のどんぶりの中の全てがあるベクトルに向かってバランスしている感じ。K氏も同様に絶賛していた。
 いやぁ、八街まで来た甲斐があったというもの。かなりのご高齢だと思われる店主の人柄も好印象で、また来ようという気にさせる。つーか、きっとぶんちゃんと一緒に来ることになるのだろう。美味かった。美味いものを美味いと言えることほど、幸せなことはない。

2001/6/22(Fri)

 最近、職場にいなくてはならない時間が多くて、終電で家に帰る日々が続いている。すると当然、夕食を外で食べることになるのだが、このタイミングが実に難しい。つまり、仕事の終わりが見えない待ちの状態が続くからであり、食べた途端に放免にされる可能性を否定できないからだ。
 基本的に朝食は、コンビニで何か買うか立ち食いそばで済ませていて、昼食のために九割の確率で弁当を作って貰っている。職場のある芝公園周辺は食べ物屋が少なく、田町のあたりまで行かないとまともな物が食べられないという食に関しては不毛な地域なので、弁当を持参できるのは本当にありがたい。
 さて、偶然を装った確信犯的な隠密行動により、ぶんちゃんを俺と同じ職場に引っ張り込んだのは記憶に新しいところだが、最近そのぶんちゃんとラーメンにハマっていて、千葉県東葛飾地区のラーメン専門店を食べ歩く習慣が出来た。
 実は、大変な思いをしている今の仕事もぶんちゃんと一緒にやっていて、早く帰ってラーメンを食べに行こうなどと毎日のように決意を新たにするのだが、その決意を、ラーメンを食することによって発生する対価の支払い義務で精算できないでいる。夕食を食べるタイミングが難しいというのはほぼ前述の通りなのだが、「ラーメン食いたい」というあくなき情熱がそれをさらに困難なものとしていて、夜中の二時三時まで開いている店はあるが、翌日の仕事を考えるとどうしても仕事を終えてからの行動に制限がかかり、結局大抵の場合、腹を空かせたまま、今日もまた完遂できなかった我が本懐を悔やみながら帰途に着くという訳なのだ。
 そんな訳で今日は、別々に帰ることになってしまったぶんちゃんをさしおいて、一人でラーメンを食いに行く裏切り者な俺なのであった。
 終電の二つ前の電車で帰り、駅から車を走らせて、タクシーで家に帰る時に何度か夜遅くまで開いていることを確認していたその店へ向かう。もちろん、ウェブでの調査も怠りない。評判は良いようだ。十五分ほどでその店に到着し、チャーシュウメンを注文する。注文してからホンの二三分で、俺の目の前にそれはやってきた。
 やってきたそれには、幅広のラーメンどんぶりをぐるっと一周する格好で薄くスライスされた肩ロースチャーシュウが張り付けられている。真ん中に置かれたチャーシュウをめくるとそこには、ゆで卵が据えられていた。トッピングは他にきざみネギとわかめ。スープは豚骨ベース(だと思う)の醤油味で、びっしりと背脂が浮いている。麺は縮れの強い平麺。堅めに茹で上げられていて、かなり良い感じ。だが、この麺がどうにもスープと合わない。店内を良く見ると細麺も選択できると書いてあり、こちらを選択すべきであった。しかも、デフォルトでトッピングされているゆで卵は、半熟なのは良いのだが何らの味が付けられている訳でなく、麺とスープとのマッチングに敗れ去った荒涼とした気分に於いては鬱々さ加減を助長したに過ぎず、塩ラーメン以外にはわかめ不要論を高らかに掲げる俺のポリシーに反し、嬉々としてスープを泳ぐわかめの存在が、さらに俺を暗く深い闇の中へと突き落とす。むー。
 チャーシュウと背脂とネギの相性はばっちりなのになー。背脂を取り除いたスープと麺も良いんだけどなー。ゆで卵がデフォルトでトッピングされるのもお得な感じなんだけど、わかめは余計だな。わかめはいらん。アレは塩ラーメン以外にはトッピングしてはならないものだ。断じて。決して。
 う〜む。なんだか悔しいぞ。こんなことなら食わなければ良かった。うーんうーんうーん。よし。明日は、一味源@成田の味噌ラーメンでリベンジやぁっ。

2001/6/17(Sun)

 部員ひだかっちの買ったフィアット・パンダが納車されたそうだ。フィアットが大好きな彼のことであるから、まあ、こーゆー選択もアリなのかも知れないが、それしてもパンダを買うとは。そんなに良いか?
 ここで、フィアット・パンダという車について少しだけ。デヴューは一九七九年。フィアットのボトムレンジを支えたフィアット126の後継車で、126の縦置き六五二cc空冷OHV二気筒エンジンを流用したのがパンダ30。127の横置き903cc水冷OHV四気筒エンジンを流用したのがパンダ45。四速マニュアルシフトを組み合わせる。全長/高さ/幅はそれぞれ335cm/146cm/149cm。あのジウジアーロが率いるイタルデザインによるその姿形は、初代日産マーチとだいたい同じ(というと、ひだかっちは激怒するだろうが)で、三ドアハッチバックという分類になる。ぶんちゃんに、「パンダのルーフはキャンバストップが標準じゃないっすか」と言われたので調べてみたのだが、どうやらオプションだったようだ。インテリアに目を移すと、まず、メータやインジケータ及び全てのスイッチ類を収めたスクエアなパネルボックスがステアリングの向こうに見える。ダッシュボックスはオープンタイプで、運転席の端から助手席の端まで真っ直ぐに布地に覆われて続いており、そこを灰皿が自由にスライドできるようになっている。シートにも同じ布地が使われていて、驚くべき事にハンモックと同じ構造でフレームからつり下げられている。また、取り外すことも可能だ。さらにリアシートだが、これはもうカタログの写真を眺めただけではその構造がさっぱり理解できないのだが、とにかく様々なアレンジが可能なように作られているらしい。この辺はひだかっちの実車で確認しておきたいところである。
 いやでもしかし、パンダを買おうという、いや買ってしまったのだが、そーゆー人に初めて出会ってしまった。しかもそれがかなり親しい人間であることに再びビックリである。そーかー。パンダなぁ。チンク(フィアット・500)ならば、まぁ解らないでもないんだがな。ま、本人がそれで良いというのだから、それはそれで良いのだろう。他人がとやかく言うものでもないし。
 まーとにかく、ひょっとしたらこの(珍?)車に乗って出かける機会があるのかも知れないので、その時にインプレッションを報告してみたい。

2001/6/14(Thu)

 尾瀬に行って来た。参加メンバは、土曜日の仕事でお世話になっているK氏と、俺のよくいく喫茶店のマスター、ネモっさんと、ぶんちゃんと俺であった。
 火曜日の夜半、K氏の車に乗り込み、国道四〇八号〜二九四号〜四号を使って東北自動車道矢板ICまで行き、そこから西那須野ICまでは高速道路に乗り、国道四〇〇号で塩原方面へ向い、国道一二一号を北上、国道三五二で御池まで。午後一一時にうちを出発して現着が午前三時半だったので、四時間半かかったことになるが、殆ど一般道だけで行ったと考えるとなかなか早かったのではないだろうか。
 この時期になってもまだ残雪が散見される御池の有料駐車場に車を乗り入れ、五時半まで車内で仮眠をとり、湯を沸かしてカップ麺の朝食を摂ったところでまったりとしてしまい、早くも動きたくなくなる。時折陽は射すのだが、曇りがちな天候に少しだけ萎える。風も冷たく、上着を着ないでは居られない。
 つーかそもそもK氏には「奥只見の方へ写真を撮りに行こう」と誘われていて、まさか尾瀬の周囲を歩きながら写真を撮るなんつー具体的な話はこれっぽっちも聞いていなかったのだ。てゆうかアレだ。ちゃんと聞かずに仕事休んでまで参加すんなよ、俺。
 なにはともあれ、撮影機材(というほどのものではないが)を担ぎ(担ぐというほど大袈裟な装備ではないが)、御池から三条の滝を目指して出発する。二年前の北海道旭岳での地獄のような体験を思いだしながら……。
 二年前の夏、ツーリング部のメンバで北海道を旅したのだが、その道中、北海道最高峰の旭岳に登ったのだった。ロープウェイで姿見の池というところまで登り、そこからは山歩きを楽しもうなどというかなり楽天的な計画だったのだが、普段から車やバイクでしか移動をしない、つまり歩く習慣のない人間にとってのそれは、楽しむどころか苦行と言う他ない、体力的にかなりハードなイヴェントであった。それ以来、山歩きと聞いただけで震え上がってしまうようなトラウマに苛まれていたため、山登り大好きおやぢK氏の誘いには慎重な返答をしていたのだが、飲んだ席でのイキオイでついうっかり二つ返事で「行く」と宣言してしまった馬鹿な俺なのであった。
 歩き出してすぐに、危惧は現実のものとなった。いきなり心臓破りの坂が現れたのだ。駄目だ駄目だ。早くも息が上がる。死にそうだ。助けてくれ。つっても誰も助けになんか来てくれる筈もなく、ここで足を止めたら最後二度と歩けなくなる情けない俺なので、ゆっくりと撮影しながら登ってくる他の仲間を後目に一気に坂を登る。ぜいぜいぜい。
 坂を登った先で突然視界が開け、汗ばんだ肌を吹き降りてくる冷たい風が心地よく撫でていく。息を整えつつ何度かシャッターを切る。辛かったのはこの最初の登りだけで、その後は比較的平坦な道が続き、楽しく景色を眺め撮影しながらずんずん歩いて行けた。
 目的地まであと丁度半分まで来たところで休憩していると、ぶんちゃんが追いついてきて、暫く一緒に煙草をふかす。煙草なんぞを吸っているからすぐに息が上がるのだ、といううがった意見に耳を痛めつつも、初夏の木漏れ日を浴びながら、その至福の時をゆっくりと過ごす。
 我ながら涙が出るほど情けないのだが、膝が痛くなってきて、残り四分の三の行程を踏破する自信が崩壊する。ま、そんな自信などもともと持ち合わせてはいないのだが。当たり前のようにあっさりと引き返す決断を下し、ぶんちゃんとともに来た道を戻っていく。引き返す途中で、後から来たK氏に撤退の意志を告げ、車の鍵を受け取る。帰り道は、休憩用のベンチに寝そべったりしながらゆっくりと進んだ。心の底からくつろぐ。ストレスは風に乗って舞い上がり、雲の向こうへ消えていった。
 普段ならば、ディスプレイを睨みながらキーボードを叩き続けている筈の午前十時少し過ぎに駐車場へと帰り着き、カラカラに乾ききった喉に、冷たく冷やしておいたビールをたっぷりと流し込んでやる。ああ、うめえ。折り畳みの椅子を車から降ろし、それに腰掛け、眠たい目を擦りながら、ぶんちゃんと二人で馬鹿話に花を咲かせる。どこへ行ってもどんな状況でも、やってることはあまり変わらない、ということだ。
 K氏とネモっさんが戻ってくるまでの間に少し寝ておこうということになり、車の窓を開け放ってしばし昼寝タイム。十二時半頃に戻ってきたK氏に起こされ、昼食の用意を始める。
 ネモっさんは三〇分ほどしたら戻ってくる筈、というK氏の言葉に従い、七輪で炭を熾し始めるが、三〇分経ってもネモっさんは戻ってこない。炭は真っ赤に熾り、買ってきておいたカモ肉やラムチョップや牛タンが、その身を焦がさんばかりにネモっさんの到着を待ちわびている。ところが、一時間が過ぎても戻ってこない。焦れた俺らは遂に最初のカモ肉を焼き初めてしまう。じゅぅ。う、美味い。ビールも美味い。椎茸も焼いてしまう。醤油の焦げる臭いが香ばしい。午後二時。ネモっさんはまだ戻ってこない。ネモっさんのことも心配だが、俺の胃袋も心配だ。散策路から戻ってきた人達にネモっさんの風体を伝え、途中で見かけなかったどうかを尋ねると、似たような人が多くて特定は出来ないが、少なくとも怪我をしている人は居なかったとの答えが返ってきて、取り敢えず安心はするが、それにしてもあまりにも帰りが遅すぎる。そして遂に、業を煮やしたK氏がネモっさんの捜索に出かけていった。
 取り残されたぶんちゃんと俺は、一気に手持ちぶさたになり、うろうろとあてどなくその辺を彷徨い歩いたり煙草を吸ったりビールを飲んで過ごすが、どうにもやりきれない。空虚な時間が流れ、時計の針が午後三時を示しても、K氏もネモっさんも戻らない。どーすりゃいいのさああこりゃこりゃ。
 そして午後四時。ネモっさんのリュックを背負ったK氏が漸く戻ってきて、そのすぐ後をネモっさんが真っ青な顔で戻ってきた。どうやら貧血を起こしたらしく、途中で何度も休みながら来たため、時間がかかってしまったとのことだった。ペットボトルのお茶を飲み下し、再び熾した炭火で焼いたラムチョップを頬張りながらビールに手を伸ばした辺りでやっと、ネモっさんの顔に赤味がさしてくる。いやいや参ったなぁと恥ずかしそうにそう言いながら、さらに二本目のビールのプルタブを引き上げるあたり、現金なものである。であるが、とにかく無事に戻ってこられてヨカッタヨカッタ。
 美味至極な焼き肉を堪能し、後片づけを済ませ、午後六時過ぎにぶんちゃんの運転で御池を後にする。車内では、帰る途中で美味いラーメンを食うのだと、先ほど飲み食いしたばかりの肉やビールは一体どこへ消えてしまったんだ的な会話が飛び交う。
 来た道を辿り、矢板で俺が運転を交代した辺りから雨がウィンドウを叩くようになる。K氏とネモっさんはぐっすりと寝入っている。眠気と雨中の運転による緊張とで、ぶんちゃんとの会話が弾まない。疲れと、早くも襲ってきた空腹とで声に力が入らない。その気は無いのに不機嫌さをまき散らしてしまっている。荒涼とした空気が流れ、押し黙る二人。ぶんちゃんよ、頼むからキャバクラのおねえちゃんの話とか例えばそーゆー話題で俺の鬱々として傲慢な気分を盛り上げておくれよぅ。などというかなり我が儘な俺のせいで、ぶんちゃんには残酷な時間を過ごさせてしまった。ごめんよごめんよぅ。
 とにかくやっとようやくどーにかなんとか13湯麺@南流山に到着し、皆でラーメンを堪能する。ううむ、ネギラーメンも美味いぞ。角煮も美味。執拗なまでに、というかただ単に理屈っぽいだけなのだが、ラーメンの味にこだわるネモっさんがあっさり「美味い」と認めるほど、ここのラーメンは美味いのだ。K氏も満足してくれたようだ。偉いぞ13湯麺。また来るぞ13湯麺。
 腹が膨れて和やかさを取り戻した車内では、K氏が13湯麺の所在地をナビに登録する作業に没頭し、ネモっさんはあのスープのレシピについてあーでもないこーでもないと饒舌に語り、ぶんちゃんはすっかり憔悴しきってぐったりとうなだれ、俺は通い慣れた道を、腹が膨れたことによる効果で五割り増しになった眠気と戦いながら、必死の思いで車を走らすのであった。
 そして今日、ぶんちゃんは仕事休んだ(予定通り)。

2001/6/8(Fri)

 普段真面目に仕事をしているので、今日くらいは良いだろうということで幕張で開催されている「NETWORLD+INTEROP 2001 TOKYO」に、職場の部下達と出かけた。「TOKYO」と銘打っているにも関わらずしっかりと千葉は幕張で開催されているのはまあ、新東京国際空港や東京ディズニーランドと同様に、東京都千葉区の存在をはっきりと肯定する潔い主催者側の意識の現れである。なんてね。
 当然の事ながら直行直帰な訳で、一応、朝十時に会場で待ち合わせたにも関わらず、時間通りに集まったのが全十二人中たったの四人であったことは秘密にしておこうと堅く胸に誓ったが、展示会を見て回った後、幕張からすぐ側のサッポロビール園で新人歓迎会を催す予定になっていて、そちらへ移動する予定の時間にはしっかりと全員が揃ってしまうというのも、俺の部下らしくて微笑ましい。
 車二台とバイク二台に分乗し、サッポロビール園で昼間からビールを飲む。そして焼き肉を食う。飲んで食うのだ。飲むったら食う。飲め、食え。飲んだ。食った。なにしろここのビールは美味いのだ。美味いったら美味いのだから、誰がなんと言おうと美味いという他無い訳で、しかも飲み放題、肉食べ放題というシステムに至っては、俺の職場の飲み会は毎回ここでやらせておくれと泣きながら懇願したくなる程である。
 九十分をフルに使って飲み食いした後、店を出てからやっと新人歓迎会であったことを思い出し、ああやっぱり飲むための口実だったのだなと皆に気づかれてしまった俺なのであった。いやいや新人くん。これが俺らの文化なのだ。これが俺らの歓迎の仕方なのだ。早く慣れろよ。うひゃひゃひゃひゃ。
 帰ってきてから、やけに重いバッグを開けてみると、展示会場で貰ったノベルティグッズがどさどさとこぼれ落ちた。だ〜か〜ら〜いったい何しに行ったんだよ俺は。

2001/6/5(Tue)

 すっかり忘れていたが、六月一日から新人君が俺の職場に配属になった。良いのか? 俺なんのかの下に未来ある新人君を配属なんかしたりして。ううむ、これで彼の未来がすっかり真っ暗闇になってしまったことだけは確実な訳で、俺としてはなんとも胸が痛い。ま、ひょっとしたら彼が彼なりのやりかたでぐんぐん成長していく可能性が全くない訳ではないので、とりあえず暖かく見守るつもりではいるのだが、ただでさえ俺のチームはいい加減なヤツばかりだからなぁ。可哀想になぁ。不憫だなぁ。

 そうそう、仕事で客先へ行くのに、今日初めて天王洲アイルとかいう駅で降りたのだ。別になんてことねーな、天王洲アイル。名前負けしてるぞ天王洲アイル。つーか、芝公園辺りから行こうとするとえらい面倒なんね。赤羽橋から大江戸線に乗って大門(浜松町)まで行き、そこからてくてくと階段を登って東京モノレールに乗り換えて一つ目が天王洲アイル。途中で田町の駅の上を通るのがなんとも悔しい。赤羽橋から大門までが百七十円で、浜松町から天王洲アイルまでが百九十円。合計で三百六十円。二人で七百二十円。こりゃ三人で行くならタクシーの方が安いかもしんない。楽ちんだし。

 いよいよ関東も梅雨入り間近。今日も蒸し蒸しした一日だった。電車の中や建物の中は空調が効いていて、それらを出たり入ったりしているうちになんだか体が怠くなってくる。年をとったということなのだろうか。情けないっつーかなんつーか。寒いなら寒い、暑いなら暑いで統一できんもんか。できないか。そうか。面倒くせえなぁ。

 某掲示板で「サラダに果物」論争が巻き起こる。巻き起こしたんだけど。俺が。サラダに果物(リンゴとかミカンとか)が乗っていて、そこへマヨとかドレッシングなんかがかかっているのを良く平気で食えるよなぁ、と思う。小学校の給食でもたまに出されたが、アレだけはどうにも食べられなかった。まぁもともと果物が大っ嫌いなんだけどね。いやでもそれにしても不味いんだもん。不味くない? 本当に? 心の底から? もう一度胸に手を当てて冷静によーく考えてみた方が良いと思うよ、うん。

 久しぶりに、映画「THE COMMITMENTS」のサントラアルバムを聴く。良い。実に良い。格好良い。「ブルース・ブラザーズ」もそうだけど、成り上がりミュージシャンものの映画のサントラって秀作ばかりな気がする。成り上がりじゃないけど「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」とか「バード」のも良かった。てことは、“成り上がり”は関係ねーっつーことか。なんだそうか。つまんねぇの。ちぇ。

2001/6/3(Sun)

 そもそも、味覚などという抽象的な感覚などを信じてはいないのだけれど、それでも自分の好みを判別できるだけの機能は備えているつもりで、つまり、これは美味いとかあれは不味いとかそうゆう極めて主観的な感想を述べることが出来るくらいの味覚の持ち主であるということだ。ま、あったりまえか。
 昨夜は久しぶりに、ぶんちゃんと、ぶんちゃんの幼なじみであるところのてっちゃんと、それから土曜日の仕事の方の関係者と四人で、ニューまぐろやで飲酒したのだった。
 まぐろやという居酒屋は、知っている人は知っているが、知らない人は全く知らないというごく当たり前なお店だ。ただ、俺の住んでいるところからはかなり遠い。ましてや、ぶんちゃんやてっちゃんが住んでいるところからだとさらに遠い。それなのにそんな遠くの店まで出かけてしまうのは、ただ単に俺の土曜日の仕事の方の職場からかなり近い場所で営業しているというだけでなく、もちろん、そこで出される料理の数々がかなりのレベルであるからに他ならない。
 他ならないなどと、うっかり随分自信有り気に書いてしまったが、いつ行っても客で賑わっているという事実を前にしては、まあ少なくともこの店の料理の味に関しては、俺の味覚は比較的まともなのかな、とこっそりほくそ笑んだりしていたりする。
 ぶんちゃんに関するネタをてっちゃんと交換するというかなり有意義な時間を過ごし、九時丁度に店を後にして、大吉@稔台を目指す。ニューまぐろやから稔台までは約六十キロ。車で一時間半強といったところだ。馬鹿だな、俺達。十時半少し過ぎに、大吉@稔台に到着。牛タンチャーシュウ塩ラーメン、というかなりややこしい名前のメニューを注文する。むぅ。鰹出汁ベースの塩ラーメンなんて初めてだ。牛タンと塩ラーメンという、俺にとっては至福という他無い素晴らしい組み合わせのラーメンに感動する。ところが、同じメニューを注文したぶんちゃんは、美味いには美味いが、牛タンではなくて普通のチャーシュウの方が良かった(牛タンチャーシュウの他に、普通のチャーシュウも入ってた)と幾分後悔していたようであり、てっちゃんに至っては、彼は牛タンチャーシュウ醤油ラーメンを注文したのだが、全く好みではないラーメンであったと残念そうに語った。
 腹の立つことに実は彼らはその日の昼間、俺が仕事をしていたまさにその間に、長八@流山で、ぶんちゃんをして「絶品」と言わしめるラーメンを食してきたのであった。あっさりコク醤油スープが自家製手打ち麺に良く絡み、大変な美味であったと自慢げに語られてしまう可哀想な俺なのであった。てっちゃんが語るところによると、長八のそのラーメンと比べると、明らかに格下であり、こってり派の自分としては大変不満足なのだそうだ。
 それから帰り道の途中でファミレスに寄って反省会を開いた。今し方食ったラーメンの味がどーのこーの、あそこの店で食ったあのラーメンがどーだあーだと語るうちに、いつしか話は「サラダに果物を入れてしまうなどという悪習を撲滅すべく立ち上がった俺とてっちゃんにやりこめられるぶんちゃん」という流れになり、それから、「漬け物を腐敗した食べ物呼ばわりするくせに納豆は発酵しているだけだなどと詭弁を弄する俺とわがまま言ってんじゃねーと呆れるぶんちゃん」という流れに変わり、さらにそれから、「てっちゃんは辛い物ばかり食ってるから味覚がおかしいんだと理路整然と語るぶんちゃん」という構図で反省会は終了した。
 ま、食べ物の美味い不味いをのんきな顔で語ることの出来るこの国は、割と平和なのかもしんない。

2001/6/1(Fri)

 最近、「キリン午後の紅茶babyleaf」に出演している娘(ピンクの帽子の方)が気になって気になってしょうがなくて、周囲の人間に「あれは誰だ」と、デビルマンのテーマ曲の歌詞から引用しつつ聞いて回ったのだが、誰もが「知らない」とつれない返事。ちぇ、めんどくせえと思いつつホウムペイジを検索してみたところ、くだんの娘が「BoA(ボア)」とかいう韓国娘であることが判明した。
 実は自宅でも、嫁に「彼女は一体何者なのだ」などと偉そうに聞いたことがあって、すると嫁はこともあろうに「やっぱりアンタはロリコンだ」などと一家の主たるこの俺に、大黒柱であるこの俺に、毎月きちんと給料の全額を差し出しているこの俺に向かって、あっさりと言い放ちやがった。違うっつーの。俺は断じて決してロリコンなどというかなり駄目駄目なずんぐりむっくりの真っ赤なロボットなどではなく、空も飛べないし足が車輪に変化したりしないしましてやガソリンで動いたりはしないのである。ついでに言えばハートマークを集めたりもしていない。のである。
 ひょっとしたらうっかり「ロリコン」と「ロボコン」を勘違いしていたかも知れないが、そんなことは所詮些末事であり、つまり俺が声を大にして主張したいのは、俺が彼女のファンであることに何らの障壁も無い筈である、ということで、この俺の小っさな脳味噌のキャパシティを全て動員してみても、BoAのファンであることが即、俺がロボコンいやロリコンである理由にはならないのだ。嫁よ、キミは絶対に間違っている。
 なにはともあれBoAのプロフィールにざっと目を通してみた。すると、1986年ソウル生まれとある。え。今年で十五歳なんすカ? もしかしてひょっとすると俺が二十歳の時に生まれた娘なんすカ? 駄目ぢゃん!
 そーいえば今、唐突に突然思い出したのだが、実は俺はミニモニとかいうグループの加護なんたらとかいう娘のファンでもあるのだが、ちょっと心配になってきた。なんだか嫌な予感がする。け、検索してみた……はうっ。し、知らなかった……ちょっと前まで小学生だったとわっ! 加護っ、騙してんぢゃねーぞ!
 ええと……なんだかクラクラしてきた。職場のみなさん。そんな訳で、生きていく勇気っつーか自信っつーか、自我がガラガラと音を立てて崩れていき、もはや立ち上がる力さえも残っていないので、週明けはたぶん出社できません。ごめんなさいごめんなさい。(でもやっぱり酒井若菜が好き☆)

←最新の魂

↑表紙