前田利家語録

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文庫版1巻


うなる野獣の剣の巻


大阪城が完成したため、臣下の礼をとり築城の祝いに訪れていた利家様。
秀吉から、傾奇者のことについて聞かれています。

「はっ…、ええ…そのなんと申しますか、
異風の姿形を好み、異様な振る舞いや
突飛な行動を愛する者と申しますか、
たとえ御前でも自分の意思を押し通す
命知らずの大馬鹿者といいますか」

利家様の話に興味を持った秀吉は、傾奇者として有名な慶次を連れてくるようにいいます。
「は…!!」
「あ」
「ち…筑前様、お言葉ではありますが」
と茶をこぼしてしまうほど動揺するも、秀吉は連れてくるように主張する。

「は…はい〜」と同意するしかないのであった。



忠義の傷の巻


金沢城内庭園で花見を行なう利家様。
「慶次はまだ来んのか!!」
「あやつめ、わしの花見の席に遅れおって〜!!」
「かわりじゃ」
(いくら秀吉殿の所望とはいえ、あんな奴を会わせたら、
前田家とりつぶしのいい口実になるわい。なんとか阻止せねば)

と来ない慶次にいらだちながら、酒を飲み続ける。
すると、慶次が蛇皮線を演奏しながら登場。

「なんてやつだ、チャラチャラと」
「ええいさわがしい。
そんなことより、この間の浪人者との果し合いの一件
もうワシの耳にも届いておるぞ!!」
「おまえは少しは自分の立場を考えろ、
養子とはいえどもワシの甥、前田家の後見人になるんだぞ」
と説教するも、聞いてもらえず。

「わしの話を聞かんか〜!!
よいか、隣国越中の佐々成政は家康と同盟し、
この加賀に攻め入ろうとスキをうかがっておるのだぞ、
われら前田家は今こそ心をひとつにして、
これを撃退し、筑前守秀吉殿に忠義を尽さねば」
とヘッドロックを慶次に敢行。

「ふ〜、まあいい。
今日ここに呼んだのはほかでもない。
慶次、きさまにはある役目を申しつける。
それで少しはわしの苦労がわかるというものだ〜」
と言って、慶次を甲冑のある部屋に連れていく。


「見ろ!! これが秀吉様から拝領の甲冑じゃ、
秀吉殿が信長様より承った甲冑を、
この利家にお譲りになられたのだ。

おまえにこの甲冑の目付役申しつかわす。
ここにおる村井若水と交互にやれい」
「どうだ慶次、この甲冑を見ておると、
秀吉殿ににらまれておるようじゃろう。
今にも出てきそうじゃわい」

「う〜ぶるる〜」
と本気で震えている利家様。

「だからな、慶次くれぐれも」
と言うや、慶次はコンコンと甲冑に触る。

「こら! こらあうかつにさわるでない!!
も…もし傷の一つでもつけてみろ、
打ち首でもすまされんぞ!!」
「よいなこの甲冑を秀吉殿だと思い警護に当たるのだぞ!!」
とあまり秀吉殿を怖がっていない慶次に注意をする利家様…。


そして、部屋で算盤を弾きながら、主馬に慶次にヘマをさせるように指令する利家様。
「ん…!?
主馬か、どうだ手抜かりはなかろうな」
「慶次めになんとかヘマをさせるのだ」
主馬は返事はするものの、姿を見せない。

「ところでどうした、姿を見せい」
「なに顔が!?」
というや、クツワの跡がついた顔を利家に見せる主馬

「む! く…わ…笑ってもよいか?」
「ぷくわっはっはっははー!!
わ…わしには馬にけられた跡にしか見えぬぞ!!」
と主馬の顔を見て笑う利家様。

が、主馬は慶次に失態をさせることに失敗。慶次はわざと白髪にして現れる。
「ん…」と言うと、
慶次は主馬の斬られた腕を利家のお膳の上に置く。
(主馬の馬鹿め〜)

「うく…」
(おのれ慶次め、このままではすまさぬぞ…)
と復讐心に燃える利家様。


「クソ!なにが白髪じゃ。
慶次め、わざとらしいにもほどがある」
と苛立つ利家様。そんな時に「きえ〜っ」と叫ぶ声が。

「ど…どうした若水!!」
とあわてて駆け寄ると、若水が信長公の甲冑を着ているではないか!
「な!?
おまっ…おま…おまえはえはななな何を…
なんて事をしておるのじゃあ!!」
と叱責をすると、動転した若水はコケて兜を折ってしまう。
「あ!! ああ 切腹じゃあ〜」


そして、翌朝若水は切腹をすることに…。
「うむ…、かくなる上はいたしかたない。
若水、みごと果てよ!」
と、いざ切腹しようとした所で、慶次が登場。

「慶次、そのかっこうは何事じゃ!?」
というと、「殿の大事な甲冑を壊した賊がいるときいて成敗にまいった」と言い、おもむろに信長の甲冑に近寄る。
「な!」
そして、抜刀して甲冑に刃を降ろす!!

「あっ、こら! こら!何をするか!!」
と言うが、すでに手遅れで、甲冑は真っ二つに斬られる。

「き…きさまぁ〜な…何を!!」
というも、若水のツラに話を振られてしまう。
「な…なに!?」
「な!!」
そして、若水の傷について、これこそ生涯をかけ殿を守り通した忠義の甲冑ではござらんか!!
と語られ、家臣は納得。これでは、利家様も何も言えない事態に。

「フフフフ…、慶次…
よくぞわが心を察してくれたのう…
若水、許す。大儀であった」
と、切腹が取り止めになったため、家臣一同大喜び。
そして、頭も下げたくない慶次にも
「慶次〜おのれもほめてつかわす〜!!」
と怒りを漂わせて言うハメに…。



男の血潮たぎる!!の巻


入浴する利家様。
「たわけ!! ほんのちょっと熱かったぞ〜!!」
と部下を叱責する。が、そこにおまつ様乱入。
「ん!? あっ、さがれ!!」

そして、背中を流しましょうと言われ、
「う…うむ…」
と弱気の表情。
「くそ…慶次の奴…
慶次の奴がな、奴が秀吉殿から拝領した甲冑を
まっぷたつに叩き割りおったがや!!」
と慶次への怒りをぶちまけるも、「慶次殿らしいこと」で済まされる。

「笑いごとではないぎゃ!!
このようなことで、秀吉殿の機嫌をそこねたら
この加賀56万石も吹っとぶぎゃ」
「第一!近頃の家臣どみゃあ
慶次の肩を持つ者がふえておるぎゃ。
ええい、いまいましい!!」

「だいたい誰が命がけでこの56万石までしたと
思っておるがや、
わしだがや!!」
といい加減、騒がしくなぅたため、おまつ様は利家様の一物を握ることに。

「はう!!」
「おうお!!」
「おふお〜」
と声を上げていると、一大事との報告が。

「は…にゃにい〜」
「ん…主馬か!? 何事だ」
と尋ねると、佐々成政の軍勢が末森城を急襲したとの報告が。
「なあにィー!!」


そして、評定となるが利家様の算盤では
(佐々勢は一万五千、我が末森の軍勢は五百。
今、至急に集められる兵は二千五百…ぜんぜんたり〜ん)
とのこと。そのため、援軍を送るべきという意見も、
「ならん!!
秀吉殿より、成政の誘いにのりうかつに兵を動かすなと
命ぜられておる。
ここは兵を整え、秀吉殿の援軍を待ち、必勝を期す!!」

と、方針を決めるも、若水が援軍に行きたいと申し出る。
「なんだ若水?」
と言うと、その余りにも真剣な様子に500人で援軍に行くように指示する。
「う…」
「う…ぬ、若水…」



遅咲きの花の巻


信長公の甲冑を補修し、磨いている利家様。

「は〜」と甲冑磨きに夢中で、末森からの使者にもそっけない。
「ええい、適当にあしらっておけい」
「うるさい!!今は動けんのだ!!」
と答える利家様。そして、慶次が援軍に駆けつけるつもりだということを聞かされると、
「それは結構!」
「ふははは、慶次ひとりで敵勢一万五千をどうする。
どんなバケモノでも死ぬにきまっとるわ。
ほっとけ、ほっとけ!!」
と嬉しそうな様子である。


いくさ人の誓いの巻


慶次と成政の一騎討ちが始まろうとした瞬間。成政を銃撃が襲う。
そして、利家様が登場。
「ふははは、撃て、撃てー!!
ははは、わしの計算どおりじゃ。
ふいをつかれた兵は弱い。くずれおるわ!!」
「このまま一気に押して成政の本陣を破砕せよ、
これで秀吉殿もお喜びだぞ!!」

「長鉄砲をもてい、成政めを討ちとるのだ」
そして、長鉄砲で成政を狙撃させようと指示する。



涙の喧嘩酒の巻


佐々軍を蹴散らして、ご満悦な利家様。
「ふう〜ふっふっふう〜、
見たか、見事佐々軍をけちらしてくれたぞ」
そして、部下も殿の奇襲作戦は大成功と持ち上げます。
「ふむ」

「む」
が、軍令違反の村井親子の話になると微妙に表情が曇り、
「ふ〜ん」

とどめに、慶次の名前を出されたため、
「じ…じゃあ、じゃあ何か。
おまえ…
この戦さ、慶次一人で勝ったと申すのか」
と完全に怒り心頭に。

たまたま、目前に苦しんでいる兵士がいたため、その首を
「きえい!!」と刎ねて、
「ふ〜〜〜〜」と心を落ち付ける利家様。


「参るぞ」
馬首を末森城へ向かわせる。それは、軍令違反をした人間の腹を切らせるためである。
「何をいっておる、末森城へ行くのじゃ」
「ふ…ふふ〜、ぐふくっくっく」
「軍令違反を許しては、わしの顔がたたん!
やつらには腹切ってもらわねばなるまい!!」


一方、、先に末森城に向かった者は、助右衛門に「この勝利はおまつ様と刑事殿のお陰」という。
と、いうのも援軍を渋る利家様に対し、かわりに自分が出陣するといったため、
「な!!」と度肝を抜かれ、あわてて援軍を出したという…。



末森喧嘩の巻


慶次を堂々と軍令違反で処罰できるため、喜色満面の利家様。
「フフフフフ」
「むうふっふっふえ〜」
と凄い笑いっぷり。

城内では、小姓が風呂の用意をしていた。
「ん…、風呂か…それは馳走じゃの」

だが、利家は風呂よりもその小姓に興味がある模様である。
「これ、小姓。名はなんと申す? ん?」
「ふむ、水丸そちも一緒にはいってまいれ」
と誘う利家様。


「うっは〜、むうふ〜いい湯じゃ
むふふふ、おい! これ!
水丸、どうした。早ようはいって来い!」
と、気持ちよく風呂に入る利家様。

(お〜来た来た)
「ん〜苦しゅうない、
もそっと近うよれ、もそっと近う…
おおわ!!(顔にう似ぬなんたる一物)
げ!!、け…慶次!!
お…おまえいつのまに!!」
風呂に来たのは、水丸ではなく慶次であった。


「く…、き…きさまどういうつもりだ!?」
と利家様が尋ねると、慶次は村井一族の軍令違反を許して欲しいとのこと。
それを聞くと、慶次を軍令違反で裁けなくなるため、利家は
「ふっ、バカも休み休みいえ、そんなことできるか!
それより、自分の命のことでも考えろ
この幔幕の外には大勢の兵がひかえておる
わしが一声かければ、
きさまなどたちまち討ちとられようぞ」
と、拒否。

しかし、慶次は余裕の様子である。そして、火縄の焼ける匂いが…。
(ひ…火縄の焼ける匂い、
こ…こやつ狙撃兵を潜ませておるのか…!!)

「う…くくく。き…きさま卑怯だぞ」
と怒りを見せるも、「戦さに卑怯もへったくれもないでしょ」と返される。
「ぐ…」

そして、慶次の「どかん」という叫びに

「わひい!!」「は、う〜」と怯える利家様。
ついに、
「いいいい、いいだろう!!
許してつかわす!!」
と軍令違反を許すことになり、水丸が証人となった。

「バ…バカモノ!
は…はやく火縄銃をどかさんか!!」
と慶次にいうと、慶次は上に置いてあった火縄を利家に放り投げる。


「慶次〜!!これで済むと思うな!!
おのれの罪は許しておらぬぞ!!」
と騙されたことに怒る利家様、が、慶次はあっさり逃げてしまう。


「くそぉー! 慶次のやつめ逃げおって、
追っ手を指し向けい、やつを逃がすな!!」
と慌しく風呂から上がると、外では女子供が城から出ていく光景が。

「なんだ…なぜ女子供が出て行く!?」


そして、評定を行なおうとすると、家臣のほとんどが外の光景に目がいっている模様。
「ん!? こらあ、なにをしとるか!!
なにィ!! う!? な…な、なんと!!」
そこには松風に跨り、背を向けた慶次の姿があった。

「あ…あれは慶次!!
逃げたとばかり思ったら、あの格好はまさか!!」
そして、慶次は立ち上がり、ケツを見せた!!

「う!!」
「わ…わしに頭をさげるどころか、
このようなマネを〜
どこまで傾く気か!!
あのかぶき者を討ち取れ!!
討ち取った者には、思いのままの恩賞をとらす!!」
と、完全にブチキレた利家様。

が、そこに助右衛門の横槍が入る!!
「なんだ助右衛門、こんな時に!!」

どうやら、助右衛門らは死者の魂に与える恩賞として、慶次の助命を願い出る模様である。
「なに…死者の魂に恩賞を、
死者が何を望むというか!!」
「な!?」
(こやつ、慶次の命を救えというのか!!)

「ならん、それはならんぞ。
何か、ほかの物にいたせ!!」
と当然の如く、慶次の助命を拒否すると助右衛門達は、いきなり白装束になった。
それは、切腹する覚悟を表明するものであった。
「ん!?」
「うぬら、死ぬと申すか」

そこで、重臣の一人が助右衛門に自害されれば、末森の衆から永遠に恨まれることを言われる。となると…
「はっ!? 助右衛門、さきほど出て行った者たちは?」
と聞くと、予想通り彼らの女房と子供である。

(うう…やはり!! 末森衆五〇〇の女房子供とあれば、
千五〇〇はくだるまい。また、その親族となれば、
数千…そやつらがいつ牙をむくともしれぬ刺客になるというのか!!)

そう考えると、さすがに慶次のことは諦めざるをえず、
「わかった!
その恩賞とらしてつかわす!!」
と、いうしかなかった。



某涸らし蛍の巻


おまつ様がどうどうと金沢の街で買い物をする中、利家様は主馬といっしょにこそこそと尾行していた。
「て、て、て」
あまりにも目立つため、同行している主馬からは「見つかりますぞ」と注意を受ける。

「う、ぐ、
ええい!そんなことはどうでもよいのじゃ!!
まつの奴がどこへ行くのか、気がきでないわ!!」
(まったくあの女、何を考えておるのか、
もし慶次の所へいったら、わしゃあ!わしゃあ!!)
「どうにかならんか、主馬!!」
と言うと、顔の跡のためか、主馬が笑っているように見える。

「きさま、笑っておる場合か〜!!
わしをバカにしておるのか!!」
そして、ようやく松風に付けられた跡だということを思い出す利家様。

「ん!? …あ、そうかそうだったな」
「うぬぬ〜なんとか慶次の奴を
始末する方法はないのか、考えろ主馬!!」
「ん!?」
そうすると、主馬にはアイディアがあった模様である。それは色事の果てに女に殺させるというものであった。

「ん!?
う〜ん、それならば家臣どもも疑わぬかもしれんな」
と満足げな利家様。



くノ一無情の巻


見事に任務に失敗した主馬。しかも、裸で橋にぶら下げられたのだからたまったものではない。
「この大馬鹿者が〜っ!!
わしに大恥をかかせおって、
よう顔を見せられたものよ!!」
と主馬を力の限り殴る。

そして利家様は、慶次が自分を恨む理由に思い当たった(慶次はそのことを恨んでいないのだが)
「う〜、慶次の奴め。
まだあのことをうらんでおるのか…


それは、一五六九年のことであった、
「兄が慶次を養子とし、
前田家の家督を譲ると殿に申し出ておるとか」
と信長殿にワインを注ぎながら利家様は言う。

「あ…兄は林佐渡守によしみを通じ、
殿に叛乱を企てているとの噂もございます」
「殿!前田家の家督、是非ともこの又左に!!
さすれば、前田家は子々孫々まで
殿に忠誠を尽くし奉る!!」

と、利久に代わって自分が家督をぎたいと申し出て、信長殿の許可を得た。
史実では、これが慶次が傾奇者になった原因としているが、隆先生は否定。

「いかん…このままではいかんぞ…」
と悩む利家様。主馬がもう一度チャンスを求めるも、
「馬鹿者〜!
わしはおまえらの心配をしておるのじゃあ」
「違うか!」
と完全に信頼を無くした模様である。




文庫版2巻

拳語りの巻


「そぉら、こぉいこぉい」
池の鯉にエサをやろうと手を打つも、相手にされない利家様
「このっ、このっ!!
わしのエサが食えんか、食えねば殺してやるわ
ふぬふぬ、ふに!!」
と鯉相手にキレる利家様であったが、おまつ様になだめられる。
「なにィ!?」

「ま…、まつ…」
そして、おまつ様の場合はすぐに来る鯉…。
「は!!」「う?」「はは」


そして、城におまつ様がいないので慌てる利家様。

「まつ!! まつはどこじゃ!!
いない!! ここにもいない!!」
(うう…まさか、まつ…わしを見限ったのかまつ〜!!)
「はっ!! そ…そうだ!!
慶次の所かも知れん!!
おまえ達行って来い、まつを連れ戻して来るのだ!!」

「はーはー、慶次め慶次のやつめ〜、ふぬ〜」
と苛立っていると、後ろの屏風から慶次の声が!
「な!!」
「わあ!! うわっ!! ひえー!!
ひ…は…、ああ!! わあ!! わわわ、け…慶次!!」
と完全に怯えている利家様。

そして、「なぜそんなに私を憎むんです?」と聞かれ
「うっ…、し…知らん!!」
と言うと、刀を抜いて前に立たれてしまう。
「はあ!! ぬ…抜いたな!!
や…殺るのか。主殺しは天下の大罪だぞ」

だが、慶次に怯む様子はない。

「う…く…、あ…荒子城だ!!」
と慶次を恨む理由を告白する。慶次からすれば予想外の答えであったらしい。


遥か昔、前田家の家督が利家に決定した際、慶次と奥村助右衛門はなかなか城を明渡さなかった
「信長様の命令を聞かぬとは」

そして、利久の城明け渡し同意書が到着したことで、門は開かれた
「よおし一気に踏み込め、
抵抗するものは切り倒してもかまわん。
かかれ〜!!」

だが、城の中は旗指物や鉄砲がくくりつけてあるだけで、いたのは慶次と奥村助右衛門であった。
(は…はかられた!!慶次と助右衛門の二人だけでこの城を守っていたとは)

そして、慶次が猿がどうしても出たくないとダダをこねていたという理由で城を守っていたということにしていたため、
場は完全に和んでしまう。
(あの時だ、わしはおまえを殺らねばと思ったのは。
おまえはそれまでに殺意にギラついていた家臣どもを
一気に笑いの渦に巻き込んでしまった!
一国の主としてそんな器を持った家臣は敵よりも怖い!!)

「皆おまえのような男について行きたがってしまうからな。
わしは心底おびえたよ」
と告白した。それに対し「なぜ面と向かって言ってくれなかったんです」と慶次が言ったため、
「バカ!そんなこといえるか、おれは男だぞ、
意地ってものがあるわ」
というと、慶次は刀を放り捨て、殴りかかってきた。


「う」
「ぐはっ」
「ぐへあ」
と食らい続ける


「く!この!!
主にむかってなにをするか〜!!」
と慶次に殴りかかると、「きかんな〜」と言われ、再び利家様は殴りかかる。

「ぬおお、このヤロ〜!!」
「このっ!!」
しかし、慶次は「まだまだー、きかんなー」と言ったため、ついには号泣する利家様。

「うわあ〜!!
バカヤロ!!バカヤロ!! バカヤロ!! バカァ〜っ
あっあ〜、うあ〜、お…おれはな〜
おれは人に好かれたことがない。
ただの一度もだなのになぜおまえばかり。
くそぉ!!」
「おまえにそんな気持ちがわかるか!!
いいか、前田家はおれのものだ!!
だれにも渡さん!!
渡してたまるか〜!!」
とにかく、泣きまくって殴り続ける利家様。


そして、再び庭の池に。おまつ様に腫れたところを冷やしてもらう。
本当に殿方というものは困ったものですねと言われ、
「うっ…」と言葉に詰まる。
「でも…すっきりなされましたか」と言われると
「ん!? フン!」と虚勢をはる。

そして、おまつ様は慶次があのようなことをしたのは、利家様を怒らせるためにやったのでしょうと言う。
「ふ…、余計なことを…。
どこまでも傾きおるわ」
さらに、おまつ様は今の顔はいい顔だという
「え!?」
と疑問に思うと、さっきは近寄らなかった鯉が寄ってきたのである…。


馳走!の巻


奥村助右衛門の仲介で、茶をたてることになった慶次。それを聞いて利家様は大喜びデス。
「はっはっはっ、このわしに茶をふるまいたいと、
そうかそんなことを申してきおったか、はっはっ!」
「うむうむ、慶次もいよいよ改心したか。
よかろう、よいぞ!!」
とOKを出す。


そして、翌日。外の寒い空気を取り入れた部屋で利家様をもてなす。
(うう…しかし、この茶室はよう冷える。暖をとるのもひとつの作法じゃろうに)
と思っていると、慶次は暖かいお茶を点てる。
(お)
「ん〜、うまいな。
しかし…今日はよく冷えるな」
と茶をおいしく頂いた後に、慶次が風呂を用意したと聞いて、風呂に入ることに。

(おお風呂か!)
「う…うむ。苦しゅうない」

そして、立派な柚湯(?)に到着。
「おお!!これは立派な風呂じゃ!!」
「さあ入るぞ」
「う?なんだ!!」
と入ろうとすると、慶次が湯加減を見ると言って、待たされることに。

「ゆ…湯加減〜?」
(は…早うせえ、早う!!)
「うむ、そうか分かった…」
「わ…わかっておる!!
そして、慶次はカマドの前にいると言って外へ出ていった。

「はああ」
(湯じゃ、柚湯じゃ!!)
と飛び込むと、

「あひゃひょわー!!」と悲鳴が。
「ち…ちべたい…水」
と利家様が言うと、風呂は氷風呂だということが判明。
そして、慶次は一目散に前田家を出奔した。



文庫版3巻


聚楽行幸の巻

「はあ〜」
(くそ…これよりは秀吉の命に絶対服従しかのうなったわ)
聚楽行幸により秀吉の権威が不動のものとなったため、憂うつになる利家様。

「あたりまえだ、今後秀吉殿に慶次を会わせろと言われたら、
会わせるしかないんだぞ」
「はー」
と主馬にいらつく利家様。一方の主馬は慶次暗殺を実行したことを告げると、
「なに!?」
「なに主馬! おまえ慶次をかたづけてくれたのか」
「ほう、そうか!」
と、喜びもつかの間、慶次の姿を視認するのである。

「では、あそこにおるのは誰なんじゃ?」
「もう一度聞くが、あれは一体誰なんだ!!」
と結局憂うつな日々が続くことに。


秀吉の厳命の巻

再び、秀吉の元へ呼びつけられる利家。また慶次の話である。
「は…はあ、その、なんと申しましょうか」
「は…と…とんでもございません
ただ私は、殿のことを心配しているのでございます」
と慶次に会わせないことを弁解するも、秀吉は怒り心頭である。

(ク・・・クソ…秀吉め、あの傾奇者にケチをつけて前田家までつぶそうという魂胆だな。 そうはさせぬぞ)
と夢の中で思うのが精一杯である。
「夢か」
そして、おまつ様とのトーク開始。
「なんでも、公家の話によると、慶次は傾奇者でありながら
風雅の嗜み尋常ならずというのだ! あの暴れ者がだぞ。
秀吉殿がなにがなんでも会わせろと言うのも無理はない。
しかも、三日後に会わせる約束までさせられてしまった」
だが、おまつ様はまったく心配していない様子。
「まつは甘い! 甘いぞ!!」
と利家様は強く言った。


いくさ人の決意!の巻

「な…なに!
慶次が秀吉殿とのお目見得に応じるというのか?」
利家様からすれば、青天の霹靂であろう。だが、おまつ様はそうとは思っていない模様。
「お…おまつ…
お主、本気でそう思うのか?」
と確認すると、ニコニコしているではないか!!


そして、盆栽の剪定を行なう利家様であるがその表情虚ろである。
(お目見得まであと二日!!
うう…あの慶次が秀吉の前で無礼を働けば、
わしにまで咎めが及ぶのは確実)
「はー、ふうはー」
(わしが今まで必死に築き上げた百万石はどうなってしまうんじゃ!
戦場往来数十余年、死を覚悟したことも数え切れぬ!!
そ…そんなわしの槍一本でつかみとった百万石が
奴の不始末一発で消し飛ぶのか!!)

と考えているうちに、どんどん枝を切ってしまったため、盆栽は無残な姿に
「ん?何を騒いでおる」と言った直後に驚愕の表情が!


傾奇の花道の巻

慶次がお目見得をするため、気が気でならない利家様。そわそわし過ぎて隣の池田輝政に怒られる。
「は」
(う…う)
と怒られても、ボリボリと顔をかきむしっている利家様。
そんな利家に「どうなされた又左殿?」と意地悪っぽく言われたため、
(サルめおもしろそうにわしの顔を見つめおって〜)といらつきながら、
「い…いえ、そのなにか今日は蒸し暑くて…」
と言うも、秀吉に「五月晴れの涼しい風が吹いとるでにゃーか」と突っ込まれて
「はっ、はははは」と苦笑いするしかない状況。

秀吉の回想シーンで若いころの利家が、
「おまえが信長公のお気に入りのサルだな、
首を一つ取ったかでかしたぞ、
ほめてつかわすぞ!!」
と今では立場が違って言えない言葉を言っている。

そして、慶次登場。
(き…来おった)と思い、その姿をみると
片寄っているマゲに目がいった。
(な…なんだあの頭は)

しかし、慶次が平伏しないため、利家は(な…なんじゃあやつなにをする気じゃ!!)と困惑
(う…な・・まさか慶次の奴)と心配になったため、
「こ…こら、御前だぞ慶次!平伏せんか!!」
と声を出してしまう。すると、足を止め平伏の体勢になったので、
「ごく…、ほっ…」と安心する利家様。
が、平伏した瞬間マゲは正面に位置するも、頭は横を向いているという傾奇っぷりに驚き
「あ!!」と度肝を抜かれてしまう。


死の猿舞いの巻

慶次が猿芸をして、赤い尻を見せたため、ついに利家が臨界点に。
「あ!! あ…ああ」
(き…斬るしかない、こ…この痴れ者を斬る以外に 加賀百万石を救う道はない!!)
と斬りかかろうとするも、家康に制止される。
「う!! い…いでで」
そして、「お平に!」と家康に言われ「は!!」と言う利家様。


含羞の微笑みの巻

秀吉が「その意地あくまで立て通すつもりか…!?」と慶次に言ったため、
(ああ〜、これで終わりだ、あやつ意地を立て通して
わしまでも巻き添えにする気じゃ〜!!)
と怯える利家様


傾奇御免状の巻

「はっ!!」
安堵したために、脱力感に襲われる利家様

「はっ!! う…、へ…」
慶次にいきなり顔を向けられてウィンクされて戸惑う利家様。


家康の舞いに「はっ、ははは」と笑う利家様。

慶次を呼び戻せと言われたため、驚く利家様。しかしそれが褒美を取らせるのを忘れたためということで、
「ほ…」と安心。

一旦慶次が外へ出て行ったため、また不安になる利家様。
(い…一体、あの馬鹿…なにを考えて)


老木との約束の巻

なんとか慶次と秀吉の対面が終わり、急いで帰宅する利家様。
「はい! はいや!はいや!!」
おまつ様に迎えられ、対面について聞かれると、
「慶次の名前を口にするな
不愉快じゃ!!」
と言ったきり、部屋にこもることに。



文庫版6巻

巻十二、死地の盟友

豊臣家北国勢の一員として、上杉景勝・真田昌幸とともに陣をはることに。
「思えば互いに手強い敵でござったな…」
としみじみと語る。
「ふっふっふ、
思えば…このいくさにて信長公が抱かれた
海内統一の夢が、ついに関白殿の手で実現するのだ!」
と、言い景勝を先頭に進むことに。



巻十四、死の幸若舞い

真田家の旗が敵陣と自陣の間に出たため、ハッキリと動くことのできない3家連合軍。
そんな中、旗の下でなにやら動きがあったと主馬から報告が。
「なに!? 貸してみい!」
と主馬から遠眼鏡を借りると、そこには幸若を舞う捨丸と慶次の姿があった。
「あっ」
と驚くと、これで軍勢を動かすことに…。

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