羽音 -Concert Report- |
TATUYA ISHII CLASSICAL CONCERT 2003 |
場内に入ってまず目についくのは、中央奥におかれているオブジェ"GRANDIA"、高さ百二、三十センチの船の帆先のように奥に向かって広がっている木製の台の上に、羽を斜め上方へ広げ腰をかがめ、今まさに飛び立とうとしている風情の女性像が立っている。まっ白なそれには斜め下方からライトが当てられ、その光の描き出す陰影が彼女の姿を際立たせている。そして左右には、三角の大きな布がまるで船の帆のように吊られている。同時にこれはスクリーンにもなっていて、なにかが羽を広げているようなマークとともに『羽音』の文字が黒々と映し出されている。
しばしの間隙の後、まず楽団が登場する。GRANDIAの左右にパーカッション(MARI)とシンセサイザー(光田健一)、ステージ中央にピアノ(山岸ルツコ)、その左にギター(末原康志)、ステージ前方右側にはストリングス(ステラ)の4人、左側にはハープ(井上麗&川崎かぐや-ダブルキャスト-)が、そしてステージ上方にはパイプオルガン(井上圭子)が座る。全員が黒の衣装を身につけている。譜面にセッティングされているイヤホンをつけ、ピアノの音に基づいてチューニングを始める。いよいよ始まるのだ。
【THE WING OF DREAMS 〜 Serenity World 〜】
軽やかな風音が吹き過ぎる。ストリングス4弦によるイントロダクションののち、1stヴァイオリンがメロディを紡ぎだす。川が流れていくようなゆったりした音楽に身を浸す。マリンバが密やかに、しかし確かな三連符で曲を下支えするなか、メロディは順に楽器たちをわたってゆく。次の8小節のあとはチェロへ、そしてまたヴァイオリンへ。やがてピアノへと受け継がれそれは、ほんの少しじらすようにたゆたい、そしてまた流れてゆく。曲の副題どおりの平穏な世界が広がってゆく。
【GROUND ANGEL】
子供の遊ぶ声が通り過ぎるなか、ピアノが音を2つ空間に落としていく。その音が水面を広がる波紋のように広がってゆく。それにシンセサイザーとギターのディストーションのかかった音が入り確かな流れになったとき、下手から石井が登場する。大きな拍手に脇で一礼し、中央の台の上に立つ。
♪愛 in your eyes、と歌いだす。CDとは違う歌いだし(CDでは"Love")だが違和感は全くない。むしろ母音で始まるせいか優しさを感じる。♪You are my angelで光田の声が3度上をコーラスしている。やがて天上から降ってくるようなパイプオルガンの音に先導され、本格的な歌へと入ってゆく。
曲はやがて静まり、コンガの音を残して消える。
【天使の羽音】
遠くで子供の声がしてギターとピアノが曲の始まりを告げる。打ち込みによる重厚なリズムが始まり密やかに石井が歌いだす。供をするのはギターとオルガンである。つぶやきとも思われる静かな歌は聴くものの耳をそばだてさせる。
♪愛して愛され、からパイプオルガンの重厚な音が供をする。歌詞にあわせた石井のアクションのひとつひとつ(♪手をつなごう、で手を差し出し、♪夢ならさめずに、で頭に手をやる、♪君の肩だいて、でゆっくりと抱くしぐさをするなど)に胸が締め付けられる思いがする。♪変わる〜ことはない、で若干声がフラットしてしまう(12/23すみだ)。(他の会場では”と”で裏声へ逃げるのだが、なぜかこの会場ではすべて表声で歌ったのだった)
最後の♪愛して愛され、ではすべての音がブレイクし、ただパイプオルガンだけが彼の上から長音を響かせる。
(会場のスクリーンにはDVDにあるような万華鏡の映像が流されていた)
【未来 〜まだ見ぬ時代よ〜】
寒そうな風の音の中、ピアノがつまびくように一音ずつおいてゆく。しばしのブレイクの後ピアノが先導し、ハープにオルガンを引き連れ♪まだ見ぬときよ、と歌が始まる。サビに重なるパイプオルガンの響きに圧倒され、ピアニッシモのハープに緊張する。前2曲が押さえた曲調だったためか、石井も一気に解放されたように歌っている。
最後はピアノを中心にストリングスが絡み静かに終わってゆく。なにとはなく映画の終わりをイメージする。
ここでメンバー紹介がおこなわれました。
【LEGEND 〜 ふたり】
4弦とハープによるテーマが始まる。2度目のテーマにはパイプオルガンの対旋律が絡む。それはやがてハープのつま弾きに受け継がれ、1sチェロの独奏を導く。波音をバックにしたそれはそのまま次の曲の前奏となる。
”ふたり”のバックにはディストーションの入ったギターが流れる。演奏陣のうち黒二点の男性はどうやら『汚し』を担当しているらしい、と気づく。ストリングやハープ、パイプオルガンだけでは美しすぎて『天上』音楽になってしまうところを、ギターとシンセの重たい音がそれをつなぎとめているという印象を持った。
【TRUE EYES】
ギターのリズムにのって歌いだされる。この曲もリズムとコーラスが打ち込み中心になっている。それでも密やかに入る弦のピチカートやエンディングのハープなど、あちこちにちりばめられた”やさしいかんじ”が心地よい。この曲はGROUND ANGELで3曲目に使われているので、曲が進むにつれて頭の中では赤煉瓦倉庫で見た子供の映像がうかんで消えてゆく。
【浪漫飛行】
ハープの和音に1stヴァイオリンの高音が絡んで曲へと誘われる。照明は今までで一番明るくステージを隅々まで照らし出している。歌いだしはハープのみで静かに始まり、オリジナルよりちょっとテンポダウンしたそれは、徐々に厚みを増し、1番の終わりの間奏ではパイプオルガンが高らかに音のシャワーを浴びせかける。ちょっとした宗教音楽のようである。
♪ときがながれて、ではパイプオルガンだけが伴奏をつとめ一瞬曲の色が変わる。最後の♪my heart〜、♪wow wow wow〜、ではマイクを離してゆくというテクニックを使い、ホールの残響を十分に効かせている。クラシックホールならではの残響のうつくしさに胸がドキドキする。
これにて第一部が終了、10分の休憩後、第二部へ。