羽音 -Concert Report-

TATUYA ISHII CLASSICAL CONCERT 2003

第二部

 第二部が始まる。まずは演奏陣が席に着き、チューニングを始める。男性2人をのぞく全員が白のドレスに衣装替えしている。ほどなく石井が登場し、「第二部はアジアな感じで…ゲストを呼んでいます」とチェンミンを呼びいれる。チェンミン登場と同時に”HAPPY BIRTHDAY”の演奏が始まる。石井大慌てで下手にかけより小峰マネから花束を受け取る。で歌ち台に駆け戻りながらHAPPY BIRTHDAYを歌う。
石井は♪Happy birthday dear チェンミン〜、でブレイクしてからの歌いだしを(花束を抱いたまま)上半身で指揮をとり、最後の♪Happy birthday to youのユーを5度上でハモる。
 歌が終わり観客の拍手とおめでとうのなか花束をチェンミンに渡し、「チェンミンは今日が24歳の誕生日なんですよ」と。ん? それはともかく、チェンミンさんはとまどいつつも満面の笑顔でお辞儀をしていました。
 お誕生日セレモニーが終わり花束はチェンミンから石井を経由してピアノの山岸さんへ。どうやらピアノの上においてほしいという意図だったらしいが、あいにくピアノのふたがあいていて上に置くことができない。こまった山岸さんは、「床におこうか、でもわるいし……うーん……」と悩んでいる様子。
 にもかかわらず石井は歌ち台でMCに戻っていて「チョロチョロしてますね」と。ようやく山岸さんの窮状に気づいたらしい石井、ピアノ脇の床に置くように指示しつつ、
「お育ちがよろしいから、すこぉしテンポがずれるんですよね。(後ろを向いて)あ、悪口ぢゃないですから。よろしくおねがいしまぁす(ゆっくりと丁寧な{少々オカマっぽい?!}お辞儀)」
 再び前を向いて「私が『よろしく』と言ったら、『おねがいしまぁす』と言ってくださいね。よろしく(客:おねがいしまぁす)」
 一糸乱れぬ客の「おねがいしまぁす」は、演奏者にはどう映ったのだろうか?
(以上は12月13日、白石での出来事でした)

【NOSTALGIE】
チェロの低音のうえにピアノとギターが音を置いてゆきそれに二胡が応える。最初の2小節を2回そうやって繰り返し、3度目は一緒に演奏、そうして曲の流れへと入ってゆく。二胡の奏でる旋律の微妙なゆれが胸を打つ。サビ前のジャンベ(太鼓です)のドンドンという音が重く響く。テーマからサビへ、とショートバージョンの演奏はそのまま次の曲の導入となっていく。

【手紙】
 雨音がしとしとと聞こえるなか、そのまま前奏へ。ピアノだけの歌いだし、コンガと二胡が加わり、ストリングスが入り、徐々に膨らんできた曲が、♪片隅の記憶さえ、でいったん静まりまた流れ出す。二胡とストリングス2弦が前奏と後奏同じ旋律を奏でている。

【アイシュウ(日替わり)】
 静まった場内に二胡の独奏が広がってゆく。西洋的なやさしげな旋律ではない、熱情を伴った演奏に場内が静まり返る。ひとしきり演奏したあと、マリンバのリズムがはじまり、それにのせて二胡の前奏が始まる。
 ストリングスの間の手が妙に東洋的に感じてしまう。1番と2番の間奏では、シンセサイザーとパイプオルガンの追いかけっこが聞かれその音質の調和(不調和?)がおもしろい。

【AUTUMN(日替わり)】
 アルバム”羽”と基本的には同じアレンジで演奏されている。1998年のアートヌードからずっと歌い続けられてきた曲なだけに歌いなれた印象だ。

【古都】
 ハープの独奏に始まり、ピアノを伴奏に二胡の演奏が続く。チェンミンのアルバムに収録されているだけあってこなれた演奏で、自分のものにしているのがわかる。そのまま演奏がつづくのかと思いきや、2番を石井が歌いだした。
 コード部から一転してコンガがリズムを刻み、急速に盛り上がってゆく。♪風よ君に届け〜、とフォルティシモで歌いきったあと、大きな拍手が沸いていた。

【究極の映画音楽メドレー(インストゥルメンタル)】
 いったん石井は退場し、すべてインストゥルメンタルで演奏される。曲ごとにフィーチャーされている楽器があり、その演奏者の名前が左右のスクリーンに映し出される。

   New Cinema Paradise −ニュー・シネマ・パラダイス(fea.光田健一)
ピアノによる第一のテーマの演奏の後に、回想シーンで使われるやわらかい旋律のテーマが始まる。この演奏をつとめるのが二胡なのだが、楽器が出せる最高音までを使っているようで、高音部が聴きづらい(音響の問題か?)。いくつかの会場で聴いたが、全部が聞こえたのはすみだトリフォニーホールだけであった。

   Papillion  −パピヨン(fea. 末原康志、天が谷真利)
まず驚いたのはマリンバのトレモロによる演奏だった。マリンバをフィーチャーするということもそうだが、マリさんのマリンバを初めてまともに聴いたからだった。

   Schindler's List  −シンドラーのリスト(fea. 田口厚子、加藤千晶)
 重たいあのテーマを4弦で表現していた。すごい。

   The Last Emperor  −ラストエンペラー(fea.チェンミン)
もちろんチェンミンの二胡が出てくるに決まっている。彼女のコンサートでも演奏されている曲目でもある。映画のバックに流れているより数段熱情的な演奏だった。

   The Last of The Mohicanskan −ラスト・オブ・モヒカン(fea.井上圭子)
ジャンベのうちならしから始まり、パイプオルガンへ。そしてオルガンのフーガが鳴り渡る。パイプオルガン一番の見せ場だと思った。

   The Deer Hunter  −ディア・ハンター(fea.井上麗、川崎かぐや)
あくまで優しいハープと二胡の演奏、先ほどまでの高ぶりを鎮めてくれる。

   Romeo And Juliet −ロミオとジュリエット(fea.山岸ルツ子)
ピアノの独奏にこれほど向いている曲はないだろう。2度目のテーマを2ndヴァイオリンがつとめていた。

   East of Eden −エデンの東(fea.森谷佳奈、平松由衣子)
  チェロ2本によるテーマに小鳥の声がかぶさる。弦の中低音は音に包み込まれているように感じる。

   Plein Soleil     −太陽がいっぱい
最後は全員による演奏で、二胡とオルガンがテーマを演奏、最後は二胡の激情的な演奏で締めくくられた。

(ここで石井が再び登場、今度は純白の襟と袖にファーのついたコート姿である。4曲終わったところでMCへ。ここに書いたのは12月13日、白石ホワイトキューブでのMC)
 先日横浜赤レンガ倉庫でGROUND ANGEL開催にちなんだトークライブを行いました。そこで僕は広河隆一という方と対談しました。広河さんは戦場カメラマン、フォトジャーナリストで、戦場写真をずっと撮りつづけている方で、そこで僕はひとつのオルゴールの話を聞きました。

 アフガニスタンで投下された劣化ウラン弾で被爆した、余命いくばくもないひとりの少女が入院しているんです。その病院にはほかにも同じような子供が何人も入院していたそうです。その少女はオルゴールをを持っていました。彼女はそのオルゴールを聞くのが楽しみで、オルゴールをつけるとそこにいる子供たちが集まってきて聞くのが楽しみだったそうです。その子はオルゴールを聞くぐらいしかできなかったのでしょうが。

 ある日、何人かでベランダに出てきてオルゴールを聞いているところを、(狙撃兵に)頭を撃ち貫かれたそうです。広河さんはかけよったそうです。そこにそのオルゴールがあったのです。

 広河さんの写真展で、そのときの写真といっしょにオルゴールを飾っておいたそうです。そしたらある婦人が「これはどういうものなんですか?」と広河さんい聞いたそうです。広河さんがこのことを話すと、その人は血相を変えて出ていったそうです。

 そして後日手紙が届いたそうです。自分がそのオルゴールをデザインしました。それは自分の子供のためにデザインしたものです。そのオルゴールがそんな悲しい場所で鳴っているとは思ってもみませんでした。手紙には涙のしみまでついていたそうです。そして「もう一度おもちゃのデザインをします。今度は世界中の子供たちが幸せになれるようなおもちゃを作りたいと思います」と書いてあったそうです。

 どこまでの怒りや失望や憎しみがあれば、そんなことができるのか。そんなにまでして余命いくばくもない少女を撃つ価値はあるのか。耐えられなくて声が震えてたのを覚えていますけど。

 来年また広河さんはイラクに行くそうです。4度目のイラクだと言っていました。広河さんは言いました。イラクで一番こわいのは、実はイラク人じゃない。アメリカ兵なんだ。アメリカ兵は360度機関銃を撃つそうです。誰がいようが関係ない、動くものはみんな撃つそうです。

 広河さんは、戦場に行くとみんなそうなるんだ。弱いんだよ、危険や恐怖に人間は。そう言いました。

(しばしの間)

 自衛隊のことを僕は誇りに思っていました。憲法9条は未来永劫変わらないものだと思っていました。今回のような派兵、アメリカの手助けをするだけの、国際的にも認められていない派兵をするとは思ってもみませんでした。

 アメリカの隣国、カナダ、それからメキシコは参加を拒否しました。なんの大儀名分もない戦争に荷担してはいけない、広河さんはすごく悲しんでいました。

 派兵1100人、言葉だけが一人歩きしています。ニュースや新聞で読む活字は重たくて。日本人は数字に毒されていませんか? 数字だけで語っている国民のような気がします。

 僕は、自分ができる反戦活動は『戦争反対』ってやることじゃないと思いました。このコンサートが僕にできる一番のレジスタンスだと思います。僕ができることは振り上げたこぶしがゆっくりと降りるようなそんな曲を作ることなんじゃないかと思いました。

 おんなじ月が出てますよ。日本の東京でもここ白石でも、イラクでもどこでもおんなじ月を見て太陽を見て生きてるはずなんです。それなのになんで争うのか、悲しいことだと思います。

 GROUND ANGEL、横浜へ天使を見に来てください。あなたもきっとエンジェルになれます。

When You Wish Upon A Star −星に願いを−(日替わり)】
この曲を選んだのは先ほどからの映画音楽の続きなのかもしれない。夢はかなうよ、と歌う石井に、かなえたいね、と心の中で応えていた。♪your dreams come true、歌い終わりはホールの残響をいかんなく使って、虚空に消えてゆく石井の高音に酔いしれた。
MOON RIVER(日替わり)】

 ピアノの音にストリングスがインサートしてきて、夢のある前奏が繰り広げられる。やはり映画から生まれた曲はひとつの世界を作り出すのがうまい。石井の歌い終わりはやはりホールの残響を利用していてすばらしかった。
【THE WING OF DREAMS】

 今度はハープから始まる。額縁のように最初と最後に同じ曲が配置されているのが心憎い。♪Fly, the wing of dreamsの”fly”でふわっと腕を動かすしぐさがたまらない。
(全員退場)

(アンコールでのMC、こちらも12月13日ホワイトキューブでのもの)
 僕のようにステージに立たせてもらっている人間というのは、協力してくれる演奏者の方がいて、後ろで動いてくれるスタッフがいて、聞いてくれる皆さんがいるかこそ成り立っているんだと思っています。皆さんのおかげでこうやって何十年もステージ立たせてもらっていることを感謝しています。そのステージに立たせてもらっている人間が、何のメッセージも発信しないまま消えてゆくことは、とても皆さんに失礼なことなんじゃないのかと思いました。

 このようなメッセージ性の強いコンサートが自分にあっているかどうかはわかりません。でもこうやってステージにたたせていただいている人間の務めとして、一度はやっておくべきなんじゃないかと思いました。

 僕が20歳で新人のかけだしだったら、おそらくこんなコンサートはやらないでしょう。でもいい年の、いい男がなんのメッセージも言えないでいるというのは耐えられませんでした。

 僕も皆さんと同じような一市民として、今の状況に不安を感じています。みなさんもきっと同じなんじゃないかと思うんです。ここにいる皆さん全員が平和を望んでいるはずです。誰も戦争でなんて殺されたくないし、自分の子供を殺したいなんて思わないはずです。

 平和ってなんだろう?今の状況はこういうことでいいのか?なんで戦争がおきるのか?

 こんなコンサートをこの先もできるかどうか、それはわかりません。こんなメッセージ性の強いコンサートはこの先一生できないかもしれません。それでもステージに立たせていただいている人間として、一度はやっておくべきなのだと思いました。

 「私には何もない」「そんなこと言ったって俺に何ができるってんだよ」と言われるかもしれませんが、できるんですよ。それは『平和について考える』ことです。「平和ってどういうことなんだろう」「平和っていいよね」、なんかしら考えて、頭のすみにいつも置いておくことです。日々の生活の中でひとりひとりが考えることがやがて世の中を変えていくんですよ。考えなくなっちゃったんですよ俺たちは、俺は。難しいことは何もないんですよ。考えればいいんです。

 平和な世界を、みんなが幸せに暮らせる世の中を子供たちに残してやるのは、われわれ大人の使命だと思うんです。大人ががんばらないといけないんですよ。

 …(間)…こんなこと言って説教くさいと思われたら、ごめんなさい。でも今僕はシナリオに書いたことをしゃべっているわけではありません。こころから思ったことをしゃべっています。

 12月31日まで横浜赤レンガ倉庫でやっているGROUND ANGELというインスタレーションは『映像と音楽の合体』なんて紹介されていますけど、映像と音楽がすべてじゃなくて、そこに集まってきてくださる人たちがいて、子供が光を追っかける姿があって、その風景全体がGROUND ANGELだと僕は思っています。そういうことをかんじてくれたからこそ新聞社やテレビ局の方が取り上げてくださったんだと思います。GROUND ANGELを皆さんもぜひご覧になって感じていただきたいです。

 さて、世界が憎しみでいっぱいにならず愛で満たされるように、この曲を歌います。【愛してる】

【愛してる】
 これほどいろいろな思いを巡らせて聴いた”愛してる”はなかったろう。言葉にしてしまえばたった一言なのに、この言葉を言える状況というのはなんとしあわせなことか。
 ♪ふたりの愛が決して消えないように、と石井が歌うところで心の中では ♪愛してる愛してるいつまでも君のことを、をリフレインしていた。


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