「毎日が発見」第6号から抜粋{ 山藤章二(作家) 記}














  普通の場合は、年をとるというのは、人生においてはマイナスの要素と
してとらえることが多いと思うんです。特に美学的には、シミができたり
シワやたるみができたりと、マイナスのことがほとんどです。けれど、そ
ういう美的なこととは全く違うレベルで、人によっては、年をとったこと
で、いい顔になる人もいるんです。マイナスがプラスに転じることがある。
例えば、将棋の升田孝三とか画家の横山大観とかがそうだと思うんです。
年をとって凄みが出てきたり、迫力が出てきたりする。一芸に精神を集中
してきたその精神力みたいなものが、顔を内側から支えているような気が
するんですね。だから、普通なら老いて汚くなるはずの顔がかえってよく
なっていくんだと思うんです。
    













  年老いて顔がよくなっていくのは何も、有名人や一芸に達した人ばかり
ではないんです。自分の周囲にも必ずひとりや二人いると思う。自分の肉
親だったり、近所の人だったりと、それは市井の人だけれど、確かに若い
頃よりいい顔になっているといういるものなんですよ。
  そして、これらのお年寄りたちは、一芸をコツコツと積み重ねたそうい
う精神力の表れた顔ではなく、むしろ野心が抜けて、欲望も抜けて、脂っ
気が全部抜けた顔なんですね。つまり、今まで若さとか元気とかを保って
きた何ものかを全部脱ぎ捨てた時に、とてもいい顔になるんじゃないかと
思うんです。
  ということは、年老いて顔がよくなるのには、二通りあるんじゃないか
ということですね。














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