2025.10.10

番組表を見ていたら、NHKFMで2時から6時まで、細川俊夫のオペラ「ナターシャ」の初演が放送されるという。コロナ禍があって、「Hiroshima Happy New Ear」シリーズも終わってしまったようである。懐かしいので、寝転がって聴いている。

・・・最初の解説を聞き逃したが、メフィストが登場するようで、ファウストのような筋書きらしい。細川風の海のさざめきのような音響で始まり、1時間位の処でソプラノとサキソフォンの魅力的な絡み合いがあって、目が醒めた。第一部が終わって、細川俊夫のインタヴューがあって、作品の背景が語られている。2019年から構想されていたらしい。多和田葉子がシナリオを書いていて、彼女の作品は「言葉」そのものが意味空間を越えて、うごめいて発展していく感じなんだそうである。そういうところは細川俊夫の「音」そのものがその音楽的意味を越えて自ら発展していく、という処とうまく折り合うのだそうである。言語は叫び声とドイツ語が主で、時々日本語が出てきて、「ああそんな感じなんだなあ」と感じる。ナターシャというのは海の囁きで人間の苦悩を表現する巫女として設定されている。後半は日本の最近の政治運動とか大震災とかが表現されて、人間の言葉の矛盾が問われ、地球と生命を破壊しようとする人類が告発されるらしい。

・・・4時半頃に終わった。6時まで何があるんだろう?とりあえずは細川俊夫のインタヴューが始まった。ヨーロッパでは多言語社会が実感される。ナターシャはウクライナ人で、アラトは日本人。最初は言葉が通じないけれども、声を聴いている内に心が通じるようになる。「ドン・ジョヴァンニ」など、オペラでは別々の話が同時に歌われるけれども、音楽的にも意味的にも成り立っているのが面白い。意味とは違う心の通じ合いがある。

・・・言葉は堕落する。「炎上地獄」でナターシャが歌う。ハ短調。人間は亡びる時に草木と動物を道連れにする。しかし、言葉が語られ響き合うことによって、心が通じ合う。このオペラの最後にはバベルの塔が逆さになって出てくる。つまり言葉が通じ合わない現状というのは出発点である。その後、水の音と風鈴の音。三途の川? 新しい言葉、新しい愛が始まる、あるいは二人は死んでしまって魂が天に昇る、といった解釈もある。海のイメージが細川俊夫の原像としてある。

・・・「ナターシャ」は細川俊夫の一区切り、マイルストーンとなった。ネットで調べるときっちりした解説が見つかる。

    4時45分に終わってしまった。残りは細川俊夫の別の曲だった。後半の東京少年少女合唱隊、「歌う木-武満徹へのレクイエム-」「森の奥へ」が良かった。当たり前だが、作曲家として超一流と言う感じ。

  <目次へ>       <一つ前へ>     <次へ>