2024.12.09

「第7回マイクロプラスチックシンポジューム」(マテリアルライフ学会)を Zoom 聴講した。マイクロプラスティックが生成してくるプロセスと観測方法を俯瞰したような構成になっている。いずれもそれぞれ特徴のある発表でなかなか勉強になった。プラスチックを減らすとか微細化しないようにするとか逆に生分解性にするとか、材料的な手法だけではなかなか解決できそうにない。廃棄場所はかなり限られていて、貧困と密接に結びついているが、その解決には時間がかかる。心配なのはその影響であるが、ここでは議論されていないので、どの程度のことが判っているのか、調べてみようかと思う。

1.三井化学:阿久津高志
 「プラスチック素材のトレーサビリティを可能にする資源循環プラットフォーム」
 プラスチック廃棄物の削減について、ヨーロッパは国際規格を作って主導しようとしていて、アメリカは Apple と Microsoft が企業イメージ向上の目的で先導している。日本での動きはこれらに刺激されたものである。
 三井化学では、リサイクルを容易にするために、プラスチックの由来を記録し、それが業者によって原料プラスチックペレットになるまでの履歴を管理する仕組みを作った。これはリサイクルのグループ企業間で情報共有する仕組みである。主催はブランド企業で、その製品に材料的に関連する会社群が情報を共有することで、トレーサビリティという付加価値を得る。

2.椙山女学園大学:小林かおり
 「グローバルサウスとの連携を通じたコミュニティベースの海洋ごみ動態把握:研究概要とプロジェクト事例」
 海洋プラスティックゴミの発生源と海岸漂着地の両方で現地調査を行い、問題の社会的背景からのアプローチをしている。例としては、発生源としてのフィリピンと漂着地としての西表島である。発生源は大都市の河川であり、そこは行政の手が届かないスラムとなっていて、プラスチックの袋は食品を売り買いし使うための基本ツールとなり、河川に廃棄されている。試みとして、スラムのコミュニティーに働きかけて、自らの手で問題を把握し、解決するように仕向けることで、次世代を育てている。全体は文系と理系の連携プレーで成り立っている。お互いの理解のためには「見える化」が大切。

3.千葉工業大学:亀田 豊
 「河川,海洋中のプラスチックごみの実態調査結果とその回収作業方法」
 プラスチックゴミの実態はまだ充分把握されていない。最近海洋に浮遊するプラスチックゴミの分布を衛星写真から推定する方法が開発された(DeMPS)。
 マイクロプラスティックのサイズについては、まだ定義が確立していないが、最近は300μ以下のものが重要となっている。採取方法や分析方法も十分には確立されていないので、開発中である。採取したものは前処理によってプラスチック以外のものを除くのであるが、最近これが自動化されてきている。具体的には東京湾で水平方向と垂直方向と海底の調査を行った。水平方向ではプラスチックの種類によって分布が異なる。重いものは河川の出口付近、軽いものは海流の滞留地に集まる。東京湾アクアラインの両側には、特異的に PMMA が多くて、これはタイヤの粉塵やアスファルト塗装由来と思われる。細かい粒径のものについては顕微Raman が有効である。サイズの中心は 50μ。

4.九州大学:高原 淳
 「高分子固体の環境劣化におよぼす階層構造の影響」
 光劣化、応力劣化に引き続いてバイオフィルムが形成されて、それとの界面で分解酵素が働く。高分子の分解には分子構造だけでなく、結晶性などが大きく影響するために、高分子のセミマクロ構造(階層)に依存する。かなり詳細な実験的検証の話だった。

  <目次へ>       <一つ前へ>     <次へ>