2024.12.17
夕方6時からの『ローナ・マギー公開レッスン』を聴きに行ってきた。エリザベト音大に行くと、いつもと違って4階でチケットを買ってから階段で5階の会場に入る。広い縦長の講義室で、机を逆向きにして、後ろ側を演奏スペースにしていた。左前の方に何となく年配男性が集まっていたので、僕もそこに紛れ込んだ。ローナ・マギーさんは以前から雑誌等で知っていた。今年からボストン交響楽団の首席フルートに就任した。今回は岩手→福岡→京都→東京という一日置きのリサイタルの中で、福岡から京都への移動日に広島に立ち寄ってもらったという次第である。
受講生は3人で、中学2年生、エリザベト音大2年生と4年生。曲目(ゴーベールの「ファンタジー」、カルクエラートの「アパッショナータ 作品140」、尾高尚忠の「フルート協奏曲 作品30b」)はいずれも難しくて完全に僕の演奏範囲外であるので詳しくは触れない。最初に全体を通して演奏がある。一応正確に吹いていると思われるのだが、観客を引き込む感じではない。マギーさんの指導はほぼ共通していたので、要点だけをメモしておく。
メモ
1.息を音楽のように使う、つまり、音符を正確に追うことに集中しすぎて、息が単に音を出すための手段になってしまわないように、ということである。練習方法としては、音階を下から上まで、上から下まで、ひと息に勢いを付けて吹く。その勢いでオクターブの跳躍。楽しむことが大切である。ひと息で吹くまとまりのフレーズが自然に膨らんで表情を持つようになる、ということなのだろう。
2.キャラクターを意識する。音楽はひと息で吹くフレーズの連なりであり、それぞれのフレーズが何かを問いかけたりそれに答えたりしている。それは和声によって解析はできるのだが、まずは演奏者がそう感じなくては意味がない。マギーさんと生徒さんがフレーズを交互に吹くことによってそれを意識させると、一人で吹いてもそんな対話の感じになる。
3.低音部の音の出し方。手の平に向かって息を吹きかけて、その息の当たる位置を少しだけ上下に動かす練習をする。上唇を微妙に動かすが、顔の向きを上下に変えてはならない。低音部では息の向きを少しだけ下げるのであるが、姿勢は維持すること。指が緊張していると、音が硬くなるので、リラックスする。
4.姿勢。足は床で支えられ、脚は足で支えられ、腰は脚で支えられ、背中は腰で支えられ、頭は背中で支えられているが、その頭は天井から吊るされている、更に、背中には壁があり、足から頭までその壁に付いている。こういう姿勢を意識すると、音はその壁から前に向かって飛び出し来る。とりわけ、下を向かないこと、背中を丸めないこと。
5.ダンスのリズム。ソ、ソ、ソ、ソ、と切って吹く。一つ一つの音にお腹から新たに息を出す。これで音階を上下する。その吹き方を身体に覚えこませて、そのままで実際の楽譜を吹くと踊るような感じになる。
6.トリプルタンギングは、前で吹く。上唇の先だけを振動させる感じ。ただし、息の勢いは保つ。
7.フラッター奏法。激しい表現の曲は緊張感を与えるので、身体まで緊張してしまうのだが、身体の方はあくまでもリラックスしていなくてはならない。これが難しい。膝と肘を軟らかく保つ。硬くすると息が出なくなる。フラッター奏法は息が速いにも関わらず口の緊張を緩めなくてはならないので、この練習として有効である。フラッター奏法で練習した後に元通りのレガートで吹くと見違えるようになる。
8.ritardando の解釈は難しい。単に速度を落としていくのではなくて、その中に構造を作らねばならない。それは音楽的な意味で論理性や物語性を持って意識的に作るべきものである。要するに起伏のある表情を自分で考えて作らねばならない。
9.空間の意識。口の中、肩の中、胸の中、お腹に空洞を作って、そこに音を共鳴させる気持ち、オペラ歌手もこれをやっている。
10.ダブルタンギングを速いパッセージで吹くと音が抜けたり悪化したりする。息は一定に保つ。指をリラックスさせることが何よりも重要となる。
11.カンタービレでは、音と音の間を意識してそこを息で繋ぐ感じにする。つまり音が粒にならないように。
休憩時間を削って、その代りに最後にマギーさんの演奏があった。ボストンからの贈り物ということで、コロナ禍の間に同僚(Carlos Simon)が作曲したソロの曲「Move it」。とにかく動きたい、外に出たい、という気持ちで、動き回る曲。フラッターやポルタメント、等々現代奏法を駆使して、ジャズ的ヒップ的。拍の取り方が対照的なパートを細かくつなぎ合わせて、切迫感を表現していた。こういうのが現代の音楽なんだなあ、と感銘を受けた。YouTubeで聴ける。 <目次へ> <一つ前へ> <次へ>