2024.12.30
『NHKスペシャル 量子もつれ アインシュタイン 最後の謎』を録画で観た。なかなか良くできている。説明の為の例えも秀逸である。監修者は誰なんだろうか?最後のクレジットには見当たらない。量子もつれやEPR問題についての説明についてはここでは省略する。当時は何の役にも立たない「哲学上の」問題とされていた。(僕もそう思っていた。)ボームの話は詳しくは知らなかった。とても優秀な理論物理学者で、宇宙から量子に働く謎の力を仮定して量子もつれを説明する斬新な理論を作ったのだが、実証することのできない理論が相手にされず、失職したらしい。この辺りは物理学ならではの厳密性である。しかし、EPR問題をスピンや偏光の問題に簡略化したということで、ベルが量子もつれの有無を実験的に判別する方法(ベルの不等式)を考案するヒントとなったらしい。これは確かに、確率を利用した巧妙な方法である。しかし、その論文は最初の号だけで廃刊となったような無名の雑誌に掲載されたために注目されなかった。
ベルの論文を発見したのは理論は苦手でも、何でも手作りする実験物理学者のクラウザーだった。量子力学を何とか理解しようとして、あらゆる教科書を読んだ挙句に、図書館の隅々まで情報を探して見つけたものだ。彼は Ca 原子の発光を使って同期した二つ光を取り出して、手作りの装置で実験を行い、予想とは逆に量子もつれの存在を発見してしまった。しかし、彼の装置では二つの光の間の相互作用の可能性が否定できないために、論文が評価されず、研究室を追い出された。この辺りもまた物理学ならではの厳密性である。でも、この人にはとても好感が持てる。僕も大学に定職が得られなかったので身につまされる。次に登場するのが、ベルとクラウザーの会議に参加したアスペだった。アスペは既に定職教授だったので、失敗しても職を失うこともない。アスペは超音波で水面を振動させて、二つの光の間の相互作用が起こるよりも早く検出器の設定を切り替えることによって、クラウザーの実験の欠点を修正し、ついに物理学者の間で量子もつれが認知された。
若い人達は量子もつれの応用を考えた。エカートは量子暗号、ロイドは量子コンピュータ、古澤は量子テレポーテーション、でそれぞれ先鞭をつけた。より根源的な問題に挑んだのがツァイリンガーで、彼は測定器の切り替えに遠い宇宙の果てのクエーサーを使って、量子もつれが単に狭い実験室内だけの現象ではないことを実証した。
さらにマルダナセはこの宇宙がその境界面で起きる量子もつれで導かれたホログラムである、という宇宙論を考えている。この話はおまけという感じではある。
(注)この量子もつれという不思議な現象であるが、現代の量子力学(場の量子論)から見ればごく当然の現象であって、上記のようなドタバタ劇が始まる前からそうであったということは忘れてはならないだろう。問題だったのは、量子もつれを実際の現象として確認する方法が見つからなかったために、素朴な直観に反しているということもあって、誰も本気では考えなかった、という事である。だから、実験を可能にしたテクノロジーの進歩こそが影の主役とも言える。