2026.10.08
BSテレ東「いまからサイエンス」に甘利俊一氏が出ていた。
僕は1980頃、カナダで(日本では文学部に属している)心理学の学生が脳の解剖を行なっているのに驚いて、彼女から神経回路網の話を聴いて興味を覚えて、帰国後、その第一人者である氏の教科書「神経回路網の数理」を買ったのだが、途中で投げ出してしまった。これをパターン認識に応用しようという動きは日本で試みられていて、福島邦彦氏の「ネオコグニトロン」が有名であったから、1983年に会社に入って社内で人工知能を開発していると聞いたときはその応用かなあ、と思ったのだが、全く違っていて、知識を体系化して検索し易くした所謂「エキスパートシステム」であった。このシステムは人間の作った概念を論理的に展開するものなので、予想通り融通が利かなくて廃れてしまった。
神経回路網の応用の方も計算機資源の限界もあって廃れてしまったのだが、2015年頃になって、世の中で騒がれ始めた。僕の耳には「ディープラーニング」とか「誤差逆伝搬法」という言葉だけが耳に入ってきたので、何か素晴らしいアルゴリズムなんだろうなあ、と思っていた。けれども、調べてみると「ディープラーニング」というのは単に回路網を多層にするということであるし、「誤差逆伝搬法」というのはパラメータ空間での最適化の方向を探索する効率的なやり方にすぎなくて、その目的である「確率勾配降下法」は機械学習の一番原始的なやり方としてその欠陥が指摘されているものである。そういう意味ではどちらも既に1980年代にはあった考え方であり、確かにどちらも甘利俊一氏が提唱していた。
甘利氏の説明によると、ノーベル賞の対象は1980年以降の業績であり、AI についてはその応用に貢献した人という意味で、ホップフィールドとヒントンに与えられた、ということである。甘利氏や福島氏は応用というよりは脳の働くメカニズムの解明に関心があったのだが、ホップフィールドとヒントンはパターン認識(と言語処理)を実現する方法の観点から神経回路網を如何に使うかという立場だった。追加されたアイデアは原理的というよりも計算機アルゴリズムの工夫というものであり、何よりも AI 成功の最大の貢献は計算機の飛躍的な発展と蓄積されたビッグデータであった。だから、どうしてうまく行くのかということが納得されていないらしい。やってみたら出来たという技術なので、便利さに酔いしれて開発が加熱していくとこの先何が起きるか判らない。何しろ本来訳の分からない処の多い人間の心なのに、その能力だけを単純に増大させたものが AI ならば、どんな暗部が顕になるか判らない。甘利氏は「人間の AI による家畜化」を懸念している。驚くべきことに、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」(1932年)という小説にはそのことが描かれているらしい。