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太平洋  名古屋→大阪  海路で紀伊半島一周
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写真 名古屋港停泊中の<クルーズフェリー飛龍>スィートキャビンの船窓から

1999年 正月 沖縄航路の<飛龍>に区間乗船で優雅に紀伊半島一周

●航海 片道・伊勢湾→太平洋→紀伊水道
@★★★★☆ 名古屋→大阪 有村産業<クルーズフェリー飛龍>スィートキャビン 昼行便
名古屋→大阪→与論→那覇→高雄(台湾)航路の名古屋→大阪区間乗船

 総トン数:16,480.00 旅客定員:408名 航海速力:25.0ノット 就航:1995年7月

●旅程 日帰り
第一日目 京都→名古屋→名古屋港金城埠頭→大阪南港かもめ埠頭→京都

 

 有村産業によって<クルーズフェリー飛龍><クルーズフェリー飛龍21>の二隻で運行されているこの航路は、那覇迄は国内航路として運行され、那覇から先は海外航路となる変則的な形態をとる特異な存在の航路である。
 近いうちにこの航路での往復を計画しているものの、日程の都合などもあり、とりあえず名古屋→大阪間を試乗してみることにして、前日に思い立ち、名古屋→大阪間のスィートキャビンを予約した。正月明けともあって乗船客は少ないようで即座に予約完了。出足好調。
 一月六日(水) 京都発07:26の「ひかり」で名古屋へ向かう。名古屋駅からは東海道本線上り普通列車に乗り換え次の駅、金山駅下車。地下鉄名城線に乗り換え築地口駅下車、バスで十五分程度とのことであったが、小生はタクシー(4,750円)で名古屋フェリーターミナルへ向かった。八時台の時間帯にもかかわらず、さすがに名古屋と言うべきか渋滞もなく09:00過ぎには港に到着した。
 水曜日は<飛龍21>が就航する予定で出港は定刻10:30。ちなみに<飛龍>は土曜日就航の予定で出港は11:00となっている。どちらも大阪着は21:50。この日は本来<飛龍21>のはずであったが正月の上海クルーズの関係で例外的に<飛龍>が就航していた。
 この日の乗客は極めて少ないようで、ターミナルビルの静まり返ったロビーに人影もまばら。早速待つこともなく乗船名簿用紙に記入して窓口に差し出す。窓口の係の女性が予約と乗船名簿を確認しながら手際よく発券してくれた。女性の手にしている乗船名簿には一枚の用紙に半分くらいしか名前が記されていない。どうやら今日の乗客はまばらでせいぜい二十名程度と言った様子。

 

【日帰り】

●航路 名古屋→大阪 有村運輸・クルーズフェリー<飛龍>
 名古屋港金城埠頭を出航後、伊勢湾をゆったりと航行し、やがて湾外へでると紀伊半島を沿岸沿いに周回して大阪へ向かう紀伊半島一周の旅。乗船案内は一時間前に開始された。待合室にいた乗客は十名余り。ターミナルビルから長い通路を行くと一旦岸壁に降りて再びタラップを上る。インフォメーションカウンターで乗船券を示すと、キャビンの案内と共にキーを手渡されて、程なく小生は豪華スィートキャビンの乗客となる。室内を一通り見渡した後、ひとまずソファに腰を下ろす。
 サイドビューの窓のカーテンを開くと眼下に乗り込みを待つ乗用車が見える。この船は船尾からは大型のトラックやコンテナを積み込むようになっていて、船首右舷から乗用車を載せるようである。程なく先頭の乗用車のが係員に誘導され搭乗した。一台、二台、三台、四台、五台、そして、後続の車はなくなった。乗用車は五台が乗り込んだだけである。
 ゆったりとくつろいでいる間に時が過ぎ汽笛を響かせた<飛龍>は静かに定刻10:30に岸壁を離れた。空一面に雲が垂れた曇り空ではあるが海面はべた凪である。港湾施設を左右に見ながら大きな橋の下を潜り右舷に紀伊半島の付け根を遠望しながら知多半島沿いに静かに航跡は描かれて行く。
 出港してから一時間半、レストランでの昼食を案内する船内放送に誘われ昼食にレストランへ向かう。レストランは広くてゆったりとしているが、今日の乗客は精々二十名余り、眺めのいい右舷側の窓際の五〜六人用の大きなテーブルだけが準備されていた。それでもゆったりと空いている。利用客は小生の他には若い学生らしきグループが二組だけ。ステージまである豪華なレストランにしては余りにも簡素なメニューに驚きながらも海老フライ定食を注文する。愛想のいいウエイトレスもウエイターもどの顔も彫りが深く沖縄の人々の印象を漂わせている。海老フライを食べながらぼんやりと窓の外を眺めていると船はかなり減速していて、やがて食べ終わる頃には完全に停止していた。
 レストランから出て左舷から眺めると何時しか伊良子岬沖であった。デッキで煙草を一服する間にも船は動き出す気配がない。急ぐ旅でもないからどうでもいいようなことだが、それでも海のまっただ中にぴたりと止まったままの我が船<飛龍>の挙動? 動静には気になるものである。船室へ戻り際にレセプションでマネージャー氏にたずねてみると。
 「ここ伊良子岬沖は大型船が頻繁に出入りする海峡で、航路の規則に従って離合するために停船している。」
 とのことであった。小一時間の後、離合待ちを終えたのか船は再び静かに動き出した。
 紀伊半島沿いをすべるように航海を続ける。早朝に起きだして出掛けてきて昼食も済ませると眠気に誘われる。船室に戻ると軽くシャワーを浴びゆかたに着替えベッドに潜り込んだ。ここちいい睡魔に誘われ昼下がりの熟睡。
 目覚めるとやがて紀伊半島先端の潮岬沖、太平洋の夕暮れも近い。それにしても既に紀伊半島沿岸とは言え太平洋の大海原を航行しているはず。なのに海面は相変わらず凪の様子で船は全く揺れることもない。年末から今日迄の八日間に三度目の航海、暮れの瀬戸内海、年始の太平洋、そしてこの今の太平洋。いずれもべた凪続き、こうまでも素晴らしい航海に恵まれるとは幸せの限りである。前方の水平線上が微かに紅色に染まり黄昏を告げていた。
 ほどなくレストランからの夕食の案内放送。何もしていないのに気分のいいときととは不思議なもので食欲は結構ある。またもやアナウンスに誘われレストランへ・・・。
 夕食時もレストランには数人の人たちが居るだけであった。小生は「ひやしうどん」を食べ、腹ごなしにちょっと甲板を巡り、冷たい夜風に震えながら船内を一巡して売店を覗く。沖縄の産品が幾種類かこざっぱりと綺麗に並べられているが係員もお客も居ない。船室に戻りコーヒーブレイクのひとときを窓の外に視線を巡らせながらゆったりと過ごす。新月の夜の海は暗闇、紀伊半島沿いには所々に遠望できる集落の夜景も結構美しく退屈しない。
 レセプションからの電話、何事かと思いきや
 「大阪南港での下船後は連絡バスをご利用になりますでしょうか?」
 との確認。
 「はい・・・。」
 と答えると
 「承知しました。港には連絡バスがお待ちしていますのでご利用下さい。」
 とのこと。無料送迎バスまであるとはとまた感激。やがて関西空港沖か・・・。遠望する前方右手にひときわ明かりが海に輝き始めている。点滅する夜空を舞う光が徐々に高度を下げてその明かりに近づくのは何処からかの到着便であろうか。飛行機なら名古屋→大阪なら何分だろう? まだ我が船は大阪到着までには二時間余り掛かる感じである。新幹線でも往復できるなぁとひとりで苦笑する・・・。
 それにしても冷えたコーヒーまでもがこんなに美味いとは気分とは不思議極まりない。日頃の喧噪を離れのんびりゆったり時を過ごす船旅の何と素晴らしいことよ! そんな思いに浸りながら冷めたコーヒーと煙草のハーモニーに心地よく浸りながら時が流れる。乗船後間もなく十一時間余り。退屈どころかあっと言う間に過ぎたようなまだまだ乗り続けていたいような思いが脳裏を巡る頃、大阪南港間近に迫っていた。フロントビューの窓のカーテンの隙間から前方を覗くと正面に天保山の観覧車青い輝きが目にしみる。
 ほどなく南港到着を告げる船内アナウンス。くつろいでいたバスローブを脱ぎ捨て下船の身支度を整え、デスクに散らした小物をバッグに詰めると旅は終わりの時をを迎えていた。やがて着岸。岸壁には出迎えの連絡バスが止まっている。
 接岸、スィートキャビンを後にしてロビーに降りインフォメーションにルームキーを返却すると、上陸券を係が手渡してくれる。これを手に出口に向かう。クルーたちが出口の辺りで微笑みながら上陸券を受け取り、タラップへと案内してくれる。周りを見渡せど下船する客は小生の他には居ない。下船客は小生のみ。別れを惜しみながらタラップを居りると陸上係員に目の前の連絡バスへと親切に案内されバスに乗り込む。もちろん乗客は小生のみ。乗り込むと同時にバスは発車した。何と豪勢な船旅・・・。独り占め満喫気分。(^^)

●船室 スィートキャビン 名古屋→大阪 料金9,170円
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写真 左:伊勢湾を行く甲板から 右:スィートキャビン
 <飛龍>にはスィートルームが三室あるが、今回は試乗という意図もあり、紀伊半島を眺めながらとの思いから右舷側の部屋を予約した。左舷側には二室あるが右舷側には一室のみ。ナイトテーブルを挟みツインベッド、ゆったりとしたライティングデスク、冷蔵庫、大型のテレビ、ソファにテーブル、ロッカー、バスとトイレの化粧室。正にシティホテルの部屋と言った趣でやや小さめのフロントビューの窓、大きめの眺めのいいサイドビューの窓が、とさすがに外洋航路で台湾まで行く船の最上級船室らしいゆったりとした雰囲気で落ちついている。
 冷蔵庫には缶ビール、缶ジュース、ミネラルウォーターのペットボトルが各二本づつサービスで入れられていている。デスクの上には熱湯を満たしたポットと煎茶のティーバッグ。さらに船内各施設で使用できるソフトドリンク券がデスクには置かれていた。ロッカーにはゆかた、バスローブ、バスタオル、ハンドタオルが、また歯ブラシ、髭剃り、ヘアブラシ、シャンプー、リンス、ヘアキャップ、スポンジが用意されていた。
 レセプションの客室マネージャーに通じる電話もあり、電話での応対も心地よくクルーの人たちの温かさが伝わる。
 ただひとつ難を言えばこの部屋、どうしたわけか空調が簡単には出来ない。この程度の部屋なら何処でもコントローラーが取り付けられていてもよさそうなのに、空調に関してはいちいちレセプションへ電話して客室係に部屋まで来て貰って天井にある何か? をその度に調整して貰わなければならない。(^^)

 

●余談 コストパフォーマンス抜群のゴージャスな航海・・・
 名古屋→大阪間を航行時間十一時間二十分実乗船時間十二時間余りをかけて旅するとは一笑に付されそうだが、何を何を・・・。この優雅さ豪華さをたっぷり十二時間楽しんで何と一万円でお釣りが来るとは信じがたい限り。正に余談だがカウンターで聞いた話では熟年夫婦割引とか言うのがあってこれならさらに二割引とのこと。小生はコムレイドクラブの会員に申し込んだところで、まだ会員証が間に合わず会員二割引を今回は逃してしまったが、機会あれば熟年カップル割引同様二割引で乗船できるとは嬉しい限りである。
 レストランやカフェテラス、ラウンジ、バーなども豪華でゆったりとしている。食事は定期航路ではあまり期待できるモノではないのは世の常であるが、沖縄の郷土料理などもあってまぁ合格すれすれの感。昼食の「海老フライ定食」は海老フライ三匹にサラダ、みそ汁、漬け物にご飯が付いて1,000円、沖縄料理の「ごーやちゃんぷる定食」が800円とは安い。意外と美味さに感激したのが夕食時に食べた「ひやしうどん」しこしこと歯触り良く出汁加減も抜群で、しかもトロピカルフルーツゼリーのデザート付きで何と500円、これには感激!
 素晴らしい試乗の旅であった! 近々に那覇往復へチャレンジを決意。

 

■後日追記 2001年 秋 10月中旬
 その後、有村産業は倒産の危機に瀕し一時期運行が危ぶまれていたが問題なく順調に運行されていたようであった。HPも新しく開設されていて 元気そうなのが嬉しい。
 この船旅はいずれ沖縄へ、あるいは台湾へと思いを馳せながら試しに乗船と思い、名古屋から大阪までの区間乗船をした訳なのだが、残念ながらいまだに全航路制覇の兆しはない。まま、いつか叶うこともあるだろうと思い続けて居るのみ。太平洋フェリー苫小牧航路で名古屋へ帰り着くと同じ名古屋港金城埠頭に入港するので、時にその日が水曜日か土曜日であれば出会うことになる。出会う度にこのまま<飛龍>に乗れば、と思い立つのだが北海道帰りにちょっと沖縄あるいは台湾へとは幾ら小生と言えども現実には叶わない。で、諦めて帰路につく。何時もうらやましい思いに後ろ髪を引かれる思いで港を後にする。
 なお、記事中の乗船料金は現在は異なりますますのでご注意下さい。

 

有村産業

 

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1999 H11
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