離婚はしたくないが、仮差押えはできますか
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2015.5.15mf更新
弁護士河原崎弘
相談
「不倫中の夫に対し、まず、仮差押えします」 とありますね。離婚はしたくないが、結果として離婚となる心配のある者にとって、
「仮差押」することの損得はどうなのでしょうか。
回答
離婚する可能性があり、相手に財産分与や慰謝料を請求したいが、相手(配偶者)が財産(不動産、預金など)を処分する(あるいは、隠す)おそれがある場合は、保全処分をします。
財産分与額および慰謝料を金銭請求債権として、その保全のため、
相手(名義)の財産を仮に差押えることができます。これが仮差押です。対象財産が実質的に自分のものである場合は、処分禁止の仮処分をします。現在、おこなわれているのは、ほとんど、
仮差押です。
仮差押でも、仮処分でも、目的物が不動産のときは、登記されますので、相手は不動産を売ることができなくなります。
財産分与請求権などを被保全権利としますので、
財産分与請求権を被保全権利とする
仮差押え(仮処分)は、通常、申立てる側が離婚することが前提です。
仮差押え(ないし仮処分)をすると、相手は、「では、慰謝料請求(ないし離婚請求)の訴えを提起してくれ」と主張して、起訴命令の申立ができます(民事保全法37条1項)。
起訴命令があると、債権者は、決められた期間(通常、1月)内に、@調停申立(調停不成立の場合は、さらに、期間内に離婚訴訟の提起)ないし訴えの提起
をし、A申立書写ないし訴状写を添付した受理証明書を提出する必要があります。
調停申立、訴え提起でなくとも、離婚訴訟中において、反訴で、予備的に、財産分与、慰謝料請求しても、これに代える事ができます。債権者が、離婚したくない場合に、利用できます。
起訴命令があって、離婚の調停の申立ないし訴訟を提起をしなかった場合は、相手は仮差押え(仮処分)の取消の申立ができます。
仮差押えをした後、離婚調停を申立てたが、調停では、離婚できなかった。従って、離婚しなかったケースはあります。そのケースでは既に10年以上自宅を仮差押えをしたままです。仮差押で消滅時効は中断します。
財産分与請求は離婚を前提とします。財産分与請求権を被保全権利て仮差押えをすると、結局、相手が有責配偶者である点は無視され、離婚に至ります。
慰謝料請求の場合は、離婚を前提としなくてもよいです。そこで、相手を有責配偶者の状態のままにして、慰謝料請求権(200万円〜500万円)を被保全権利として、不動産、預金などを仮差押する方法もあります。
ご質問の仮差押えが得策か否か、良い結果が得られるか否かについては、ケースバイケースで具体的事情によります。弁護士に相談するとよいでしょう。
離婚したくない場合は、通常は、円満な家庭生活を求めて夫婦関係調整の調停を、家庭裁判所(一覧)に対し申立てます。
調停は、弁護士に依頼しなくても、自分でできます。難しくはありません。戸籍謄本を持参し、家庭裁判所に行ってください。家庭裁判所には、手続きについて相談ができる窓口もあります。
判例
- 東京高等裁判所平成5年10月27日決定
(三) 債権者が、財産分与請求権を被保全権利として仮差押えをし、かつ、債権者が債務者の提起した離婚請求訴訟において、離婚が認められた場合に備えて、自ら
離婚請求をしないまま財産分与の申立てをした場合、債務者の離婚請求が認容され、財産分与の申立てについて判断されれは、 仮差押えの被保全権利の存否が確定され
るから、債務者が浮動的拘束状態のまま放置されることはなく、問題はないというべきである。
この場合いに、右財産分与の申立てが本案の訴えに当たらないとして、起訴
命令の不遵守により仮差押えが取り消されるべきものとすると、財産分与の申立てが認容されても執行が不可能ないし困難となる態を容認する結果となる場合も想定され、
不都合であることは明らかである。
逆に、債務者の提起した離婚請求が棄却された場合には、債権者の財産分与の申立ては判断されず、債務者が浮動的拘束状態のまま放置されることになるのではないか
ということが問題となる。しかし、前記のとおり、財産分与請求権は、離婚を要件とするものであるから、この場合にも被保全権利たる財産分与請求権が存在しない旨判
断されたことになり、債務者は事情変更を理由として仮差押えの取消を求めることができるというべきであるから、前記の予備的な財産分与の申立てを本案の訴えとみる
ことに何らの不都合もない。
したがって、債務者の提起した離婚請求訴訟において財産分与の申立てをすれば、本案の訴えを提起したことになるというべきである。
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