相談
私(56歳)は、A男(内縁、75歳)と、籍は入れませんでしたが、30年間、夫婦同様に生活しました。
A男は、妻がいて、妻との間に子供が3人いました。私との間には、子供はいません。妻は6年前に死にました。
癌を患い、A男が1年間入院した際にも、私が看病し、子供たちは何もしませんでした。
A男は、昨年10月に死にました。A男の遺産は、約2億円あります。内縁関係は、夫婦同様の関係ですので、相続権は認められないが、離婚の場合、財産分与請求権が認められると聞きました。2年以内なら、A男の相続人に財産分与請求ができるでしょうか。
相談者は、弁護士会の中にある法律相談所に行き、弁護士に相談しました。
回答
内縁とは、事実婚、準婚などと呼ばれ、婚姻状態があるが、婚姻届出がされていない状態です。
内縁は、婚姻と同じように保護され、当事者は、相互に扶養義務、貞操を守る義務があります。不当破棄の場合は、離婚と同じように慰藉料請求権、財産分与請求権が認めれます(民法768条)。
婚姻と同じですが、1つだけ違うのが、相続権です。内縁の場合は、相続権がないのです。
離婚の場合は、財産分与請求権が認められ、夫婦は、他方名義の遺産につき、婚姻中得た実質的共有財産につき、財産分与の形で清算する権利が認められます。
内縁の場合も同じです。
内縁の当事者の片方が死亡して内縁が解消した場合は、どうでしょう。この場合も、財産分与が認められるとの考え方、判決例がありました。逆に、死亡による内縁解消の場合は財産分与請求権は認められないとの判決もありました。
平成12年、最高裁の判決があり、死亡による内縁解消の場合は財産分与請求権は認められないとの理論が確定しました。
内縁の当事者が生きていて、内縁を解消した場合には、財産分与を請求できますが、当事者が死亡した場合は財産分与を請求できません。死亡の場合は、全て相続法で決める、内縁の配偶者には相続権はないとの結論なのです。
残念ですが、相談者の場合は、財産分与請求権は認められません。
内縁の一方の当事者名義の財産につき、他方の当事者が実質的共有持分を持つ場合は、生前に、持分を移転しておくか、婚姻届出をしておく必要があります。
判決
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最高裁判所平成12年3月10日決定
内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法七六八条の規定を類推適用することはできないと
解するのが相当である。民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消
とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。
このことにかんがみると、内
縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとして
も、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込む
もので、法の予定しないところである。また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない。
したがって、生存内縁
配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできないといわざるを得ない。
- 東京地方裁判所平成17年9月26日判決
イ そして,本件建物は,原告と被告が内縁の夫婦として同居生活を送る間,被告が開店費用を捻出したことにより開店し,原
告が主な経営者として労務を提供して,経営を軌道に乗せ,収益を上げてきた本件店の収入を基に,被告のさらなる出捐も加えて形成・
維持されてきた財産であるということができるから,原告,被告いずれかのみに帰属する財産ということはできず,双方の共有財産と
して原告及び被告に帰属するものと解するのが相当である。
ウ そして,その共有割合について見るに,本件建物のローン分割金の主な返済原資となっているのは本件店からの収益である
こと,本件店の開店は被告が開店時の費用を捻出したことで実現したものであること,また,被告は,本件借入れの借主であり,債権
者との関係ではその最終的債務負担者であること,他方,本件店は,原告が専ら実際の経営に携わってきたところ,その経営が軌道に
乗り,収益を上げる状態になったのも,原告の努力によるところが大きいものであると解されること,他方,被告も,本件店の経営に
全く関与していなかったわけではなく,打ち手として客のメンバー不足を補うという方法で経営を支援し,客からは本件店の経営者と
みなされる関与をしていたこと等の事情があり,その実際の負担金額・時期,投下した労働力・時間等から,直ちに,一方が他方に勝
る割合を有すると断定することはできず,したがって,その共有割合は2分の1とするのが相当である。
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(東京メトロ神谷町駅1分) 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 3431-7161
2011.2.16