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2021.10.10 mf訂正
回帰分析、近似曲線を使用した高額所得者の基礎収入率計算
(より適正な養育費、婚姻費用算定のために)
弁護士河原崎弘
平成15年4月、
裁判官グループは、給与所得年2000万円(自営の場合は1409万円、改訂でも1567万円)までの義務者の場合の、養育費、婚姻費用について簡易な算定表を発表し、令和元年12月に改訂しました。しかし、それ以上の収入のある方、高収入の方の場合の基礎収入の計算方法、従って、養育費、婚姻費用の算定方法がわかりません。高収入の場合の基礎収入率(割合)が発表されていないため、(租税公課、職業費、特別経費を控除した)基礎収入の
計算ができないからです。
いくつかの審判例では、家庭裁判所は、基礎収入率(割合)を使わず、基礎収入を個別的に計算 していました。
弁護士としても、高額所得者が支払い義務者である養育費、婚姻費用の額が予測できないと、困ります。
そこで、2000万円以下の基礎収入率をデータとして使って、2000万円超の場合の、基礎収入率を予測できないかと考えました。法律の世界にエクセルの分析ツールが使用できないかを試みました。具体的には、エクセルに搭載されている回帰分析、対数近似曲線を使いました。
この予測の最大の欠点は、サンプル(データ)の少ないことです。高額所得者の養育費、婚姻費用の審判がいくつか出てくれば、このツールを利用して比較的正確な基礎収入率を予測できます。
回帰分析、近似曲線の作成過程は次の通りです。
- データを揃えます。
算定表作成時には、基礎収入率について詳しいことは発表されませんでした。
その後、
ある裁判官が、下記のような基礎収入割合表を発表していました(家裁月報 62.11.57)。さらに、2019年12月、 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究が発刊されましたので、今回は、このデータを利用させて頂きました。
給与所得者、自営業者の基礎収入率表
給与所得者の場合 |
自営業者の場合 |
年収入・万円 | 基礎収入率・% | 年所得・万円 | 基礎収入率・% |
0〜75 | 54 | 0〜66 | 61 |
〜100 | 50 | 〜82 | 60 |
〜125 | 46 | 〜98 | 59 |
〜175 | 44 | 256 | 58 |
〜275 | 43 | 〜349 | 57 |
〜525 | 42 | 〜392 | 56 |
〜725 | 41 | 〜496 | 55 |
〜1325 | 40 | 〜563 | 54 |
〜1475 | 39 | 〜784 | 53 |
〜2000 | 38 | 〜842 | 52 |
| | 〜1046 | 51 |
| | 〜1179 | 50 |
| | 〜1482 | 49 |
| | 〜1567 | 48 |
↓
上記データ中の収入階級別を、収入の中心値を示すデータに変換し、使用しました。
収入階級別基礎収入率表
給与年収入・万円 | 基礎収入率・% | 自営年所得・万円 | 基礎収入率・% |
37.5 | 54 | 33 | 61 |
77.5 | 50 | 74 | 60 |
112.5 | 46 | 90 | 59 |
150 | 44 | 177 | 58 |
225 | 43 | 302.5 |
57 |
400 | 42 | 370.5 | 56 |
625 | 41 | 444 |
55 |
1025 | 40 | 529.5 | 54 |
1400 | 39 | 673.5 | 53 |
1737.5 | 38 | 813 | 52 |
| | 944 |
51 |
| | 1112.5 | 50 |
| | 1330.5 | 49 |
| | 1524.5 | 48 |
- 近似曲線を作成する際、データの性質に合わせて曲線の種類を
選択します。選択する基準は次の通りです。
(要求される曲線の条件)
収入が増加すると、基礎収入率は逓減し、収入2000万円くらいから基礎収入率の逓減割合が低下するが、ゼロにはならない曲線が求められます。しかも、実際の生活に合った基礎収入率が求められます。
(条件に合う数式)
0 < a < 1 の場合、対数関数、y = log a x のグラフは、x の値が増加すると、y の値は、減少します。対数関数の曲線も使えそうです。
- 近似曲線(グラフ)を作成すると、計算式が得られます。とても、便利です。
-
その結果作成された近似曲線は、
その R-2乗値(R二乗値、R^2値、R2、決定係数、寄与率)が、1、または、1 に近い場合に、最もグラフの信頼性が高くなります。
ここで言う信頼性とは、データと曲線の適合度を言います。
回帰分析
下に回帰分析を使った結果を示します。
得られた計算式
近似曲線作成過程で得られた計算式は下記の通りです。
給与収入の場合
上記近似曲線を作成する過程で計算式が得られます。その計算式は、下記の通りです。
対数近似曲線を使った場合、基礎収入率を下記の通りの数式で算出します。
この方式は、2000万円前後で累進税率が最高になり、以後、税率が同じであることは、考慮されていません。
給与収入(単位:万円)
基礎収入率= | - 3.699 Ln(x) + 64.855 | | |
事業所得の場合
事業所得(単位:万円)
基礎収入率= | - 3.428 Ln(x) + 74.776 | | |
Ln は、関数です。
y = ln (x) は、x = e ^ y と同じです。e は自然対数の底ですので、x = exp (y) とも書けます。
関数電卓では ln(x) ボタンで、エクセルでは ln(x) 関数で、計算可能です。
手作業で計算すると、下記表の結果が出ました。
給料1億円で基礎収入率 30.78%、給料1億5千万円で基礎収入率 29.28%です。ある程度妥当です。しかし、裁判官が、これを使って審判をすることには、まだ、抵抗があるでしょう。
支払い義務者が高額な収入のあることは明確だが、基礎収入算定に必要な資料提出を拒否する場合に、1つの計算方法として裁判所に提出したら、どうでしょう。
高額所得者の基礎収入率表
年収入(給与) 年所得(事業) 万円 | 給与 基礎収入率 % | 事業 基礎収入率 % |
3,000 | 35.23 | 47.33 |
4,000 | 34.17 | 46.34 |
5,000 | 33.34 | 45.57 |
6,000 | 32.67 | 44.95 |
7,000 | 32.01 | 44.42 |
8,000 | 31.61 | 44.02 |
9,000 | 31.17 | 43.96 |
1億0,000 | 30.78 | 43.2 |
1億2,000 | 29.28 | 49.81 |
1億5,000 | 29.28 | 49.81 |
1億8,000 | 28.61 | 41.18 |
2億0,000 | 28.22 | 40.82 |
3億0,000 | 26.72 | 39.43 |
5億0,000 | 24.83 | 37.68 |
10億0,000 | 22.26 | 35.3 |
50億0,000 | 16.31 | 29.79 |
100億0,000 | 13.75 | 27.41 |
以上を資料として、基礎収入率計算機
を作りました。
登録 2013.9.16
東京都港区虎ノ門3−18−12-301 弁護士河原崎法律事務所 03-3431-7161