養育費による給料差押には対処困難
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2018.3.13mf
相談:養育費の不払いと差押え/将来分の養育費
私は、42歳、大手商社に勤務、元妻は39歳、2人間に子ども5歳がいました。3年前の、判決で、私は、慰謝料300万円、財産分与500万円、養育費は月額7万円を支払うよう、親権者は母親(元妻)、子どもとの面接は、月1回2時間と決められました。私は、財産分与と慰謝料は支払いました。養育費も支払っていました。
ところが、1年ほど前から、元妻は、「子どもの体の調子が悪い」などの理由で、子どもとの面接をさせてくれませんでした。
そのため、私は、何度も面接させるよう要求し、警告した後、養育費の支払いを止めました。
元妻の弁護士から、養育費を支払うようにとの内容証明郵便が来ましたが、私は、無視しました。1年後、妻は私の給料を差押えしました。
差押通知が勤務先の会社に来ましたので、私は、1年間の養育費滞納分84万円と執行費用約9000円を支払いましたが、差押は解除になりませんでした。元妻は差押の取下げをしてくれません。
問題は、請求する債権として、不払いの過去1年分の養育費84万円だけでなく、平成24年4月から(子供が成人に達する)
平成39年3月までの15年分としているのです。私の給料は将来15年間にわたり差押えられてしまったのです。この金額は約1300万円になります。
差押により会社まで巻き込んでしまいましたので、私は、あちこちで、法律相談を受けましたが、ほとんどの弁護士の回答は、将来分の養育費を全額支払えと言うものでした。
差押後、2か月たちましたが、この段階で、私は、どうしたらよいでしょうか。会社に対しても、私の状況をどのように説明したらよいでしょうか。
私は、現在、再婚し、子どもが1人います。
回答:差押えには対処困難
養育費を請求債権として給料の差押えを受けると、対抗手段として、退職する債務者がいます。退職すると、以後、差押さえの効力はなくなります。しかし、退職しないと、差押さえの効力は続きます。
この場合、対処する法的手続きは用意されていません。
債権者が差押の取下げをしない場合、債務者は、苦しい立場に状況に追い込まれます。相談者のように退職できない場合は、対処は困難です。
平成15年の養育費、婚姻費用などについての改正法で、養育費を請求債権とする差押では、滞納分の債権(確定期限が到来している債権)だけでなく、将来の養育費債権(確定期限が到来していない債権)をもって
差押できるのです(民事執行法151条の2、1項3号)。
そうすると、相談者の例のように、差押が15年間にわたって続くのです。この差押を解除するには、滞納分の養育費だけでなく、将来分の養育費を含めて、全額の養育費(約1300万円)を弁済しなければなりません。
次の対抗手段があるが、有効でない
この差押を取消すためには、次の手続きがありますが、ほとんど認められません。
- 執行取消しの申立(民事執行法153条)
理由として、「会社で解雇されるおそれがある」とか、「生活が苦しい」などとします。しかし、執行取消しが認められる可能性は低いです。
- 請求異議(民事執行法35条)
異議事由としては、弁済では、将来分の養育費には対抗できません(将来分を全部弁済すれば異議事由になります)。将来分については、「差押が権利濫用である」などと主張するしかありません。権利濫用では、認められる可能性はきわめて低いでしょう。
- 養育費減額調停・審判
減額調停は、時間がかかります。相談者に扶養家族が増えましたので、養育費減額は認められる可能性があります。減額が認められた場合は請求異議の訴えを提起します。
減額が認められても、請求債権が一部減額になるだけで、差押は続くこともあります(下記審判)。
弁護士のアドバイス:誠意をもって話し合う
自分の子どもの扶養料(養育費)の不払いは、極めて不誠実です。債務者は、本件のように差押さえが長期間続き、勤務先でも困った状況になりますので、養育費の不払いは避けるべきです。
統計では、養育費を支払っている元夫は、約19%です。
約80%の元夫が、養育費を支払わないとは、考えさせられます。
結局、養育費による差押さえに対処する決定的方策はありません。
元妻は、極めて有利な状態にあります。
養育費減額調停申立をし、誠意を尽くして話し合い、元妻に差押の取下げをお願いして下さい。
審判例
- 東京地方裁判所平成20年12月22日判決
1 請求異議の訴えについて
(1) 本件和解調書第4項に基づく本件養育費については,一部減額を命ずる本件決定が確定し(前提事実(5)),前訴判決
により本件和解調書第4項に基づく平成17年11月以降の本件養育費に係る強制執行のうち本件決定により変更された金額を超える
部分につき執行力の排除が命じられた後(前提事実(7)),さらに,平成18年3月分以降の養育費の減額を命じた本件審判が確定
しており(前提事実(10)),他方で,平成20年1月分までの本件養育費については本件差押えによる執行が既に完了している
(前提事実(9))。
そうすると,本件和解調書第4項に基づく強制執行の不許を求める原告の訴え(第1の1(1))については,
本件和解調書第4項のうち同月分までの本件養育費に係る部分は債務名義としての効力が消尽しており,もはやその執行力の排除を求
める利益を欠くから不適法であるが,同年2月分以降子らが成人に達する各月分まで本件審判により変更された本件養育費に係る部分
につき執行力の排除を求める限度では理由がある。
(2) 原告のその余の請求異議の訴え(第1の1(2)ないし(4))は,いずれも債務名義としての効力を有しない裁判につ
き執行力の排除を求めるものであって不適法である。
2012.5.19
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