“阿弥陀堂だより” ★★☆
(2002年日本映画)

監督・脚本:小泉尭史
原作:南木佳士
出演:樋口可南子、寺尾聡、北林谷栄、小西真奈美、香川京子、田村高廣

 

雨あがる」に続く小泉尭史作品。
信濃の自然とそこに生きる人々との交流を通じて、東京から故郷に戻ってきた夫婦が徐々に癒されていく姿を描いた、気持ちの良い映画です。

売れない作家・孝夫と、女医・美智子の夫婦が孝夫の故郷に戻ってきます。美智子がパニック障害という精神的な病を抱えたことから、孝夫の故郷で暮らすことにしたもの。
無医村だった村に美智子がやってきたことは、村としては大歓迎。さっそく保育園の片隅を借りて、一日置きに美智子の診療が始まります。
そして診療の合間に孝夫と美智子は2人で信濃の自然の中をめぐり、人々と交流し、徐々に夫婦は癒されていくというストーリィ。

本映画は、瑞々しい新緑の頃から始まり、夏、紅葉、雪と、自然の美しさが印象的です。長野県飯山市にロケしたものですが、場面の多くが屋外の撮影で、しかも日本の原型といえるような信州の自然を背景にしているところが素晴らしい。ストーリィ云々以前に、画面の清々しさが忘れられません。
登場人物では、阿弥陀堂で暮らす96歳の老婆、おうめの存在が圧巻。謙虚に暮らす人々を象徴するような登場人物です。
そしてもう一人、難病のため声を失ったものの爽やかな若い娘・小百合。
終わってみるとこの作品は、年老いたおうめ、働き盛り世代の美智子、若い小百合と、3代それぞれの女性の姿を孝夫の目から眺めた作品とも言えるようです。
あと一人、胃癌で死期間近いものの淡々と日々を暮らす孝夫の恩師の姿が描かれます。なぜ病院に入院せず我慢するのか。それはこの自然の美しさの中で最後を迎えたいという強い願いがあったためではないでしょうか。

あくせくして働く都会を離れ、自然と共に伸びやかに生きることができたとしたら、どんなに素晴らしいことか。本映画の画面からは、そんな思いが伝わってきます。
でも、それを実現することはなかなかに難しい。だからこそ、この映画の清々しさに心洗われる気持ちがするのです。

※91歳の北林谷栄さんは、本作品にて日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。北林さんが老齢をおして本作品に出演したのは、劇団同期生であった宇野重吉さんの長男・寺尾さんと共演したかったというのが理由だそうです。その寺尾聡さん、本当に宇野重吉さんによく似てきました。

2005.01.16

 
※原作 →
「阿弥陀堂だより」

  

(付録)
 映画を観ての下記の疑問は、原作を読めばすぐ判ります。

・“阿弥陀堂”とはそもそも何なのか。
・初めて阿弥陀堂におうめ婆さんを訪ねた時、出されたお茶は熱かったのか。
・その時、孝夫は何故「○○の孫です」と名乗ったのか。
・いくら転地療養とはいえ、何故美智子はこんな過疎の村で暮らすつもりになったのか。
・売れない作家とエリート女医は、どんな経緯で結婚したのか。
・谷中村へ戻ってきて、孝夫は何をしようとしているのか。
・2人は古い祖母の家で暮らしているのか。
・足繁く孝夫が阿弥陀堂に通うのは何故か。
・孝夫が便所を作るまで、おうめ婆さんはどうしていたのか。
・そして、2人が暮らす谷中村はどんな場所なのか。

  


  

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