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1.風の交響楽 4.ほしのおくりもの 5.遠い約束 6.十八の夏 7.星月夜の夢がたり 8.最後の願い 9.銀の犬 10.橋を渡るとき |
イオニアの風、扉守、やさしい共犯無欲な泥棒 |
●「風の交響楽(シンフォニー)」● 影絵・藤城清治 ★★☆ |
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2019年06月
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ちょっと幻想的な香りがあって、童話的な話やキリスト教的な話、教訓的な話が織り交ぜられた小話集。 それぞれ趣向の異なる話が、四季別に分けられた中でさまざまな旋律を奏でているという印象を受けます。そしてもうひとつ感じることは、どの話にも温かい優しさに充ちていること。光原さんの内にある信仰心が、この作品集をかなり覆っていることが感じられます。 ファンタジスティックな印象ももちろんあるのですが、そうした印象を創っているのは、藤城さんの影絵です。影絵というと黒白だけの絵と考えてしまうのですが、実際に物語りの中で目にする影絵からは、暗と陽が織り成しているようで深みがあり、とても素敵な気分をもたらしてくれます。この作品集にこの影絵がなかったとしたら、目立たない一冊になっていたかもしれません。 「朝露の石」「何もできない魔法使い」「散らない桜の木」「雪花石膏のファンデーション」が私の好み。影絵では「銀鈴砂の音」が素敵でした。 春・・・序の歌−ゆるされるならば−(詩)、朝露の石/塀/神様の言うとおり/何もできない魔法使い |
●「時計を忘れて森へいこう」● ★★★ |
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2006年06月
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主人公は16歳の高校生・若杉翠。ストーリィは、彼女の一人称で語られます。といっても、ナレーションのような平明さと、とぼけた味があって、気持ち良く読み進むことができます。 でも、高校生の女の子らしい感情が時折顔を覗かせます。それが本書の絶妙のアクセントになっていて、勿体無くて読み逃すことができません。 本書の3つのストーリィは、いずれも愛情にまつわるものです。 「時計を忘れて森へいこう」という題名は、この物語の始まるきっかけとなった出来事であると同時に、作者から読者への一環した誘いかけでもあります。素敵な題名ですよね。 |
●「空にかざった おくりもの」● 絵・牧野鈴子 ★★☆ |
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児童向け作品10篇を収録(小学校中学年向きとか)。 「ぬすんでも ぬすめないもの なあに」と「王さまと羊かい」は、トルストイ「民話」(「人は何で生きるか」「イワンの馬鹿」)に通じる宗教的な要素をもった話で、ちょっと感銘を覚えました。 表題作の「空にかざった おくりもの」と「春のとびら」は、ファンタジー風の作品。前者は、お父さんがお母さんへ結婚を申し込んだ時の贈り物は、空でまたたく星だったという話。思い返す度に深い味わいが感じられて、素敵なお話です。 ぬすんでも ぬすめないもの なあに/空色のふうせん/お山が火をふいたとき/あしたも いい天気/世界一のたからもの/キーキ・ミーミ・ハット/わらの家 レンガの家/空にかざった おくりもの /王さまと羊かい/春のとびら |
●「ほしのおくりもの」● 絵・牧野鈴子 ★★ |
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クリスマス童話の絵本。 前者は、貧乏な家のティムが、イエスの赤子像に小さなろうそくしか供えられないという話。イエスとティムの心の繋がりが、とても気持ちよく感じられます。 クリスマスを題材に、幾つもの気持ちよい物語が創られていると思うと、それだけでもクリスマスって良いものだなぁ、と思います。 ※ちなみに、私のもっとも気に入っているクリスマス物語は2つ、ディケンズ「クリスマス・カロル」と、ケストナー「飛ぶ教室」です。 |
●「遠い約束」● ★★ |
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浪速大学に入学した吉野桜子の念願は、ミステリ研究会に入ること。桜子が入会した、略して“なんだいミステリ研”のメンバーは、いずれも個性的な3回生3人(黒田・清水・若尾)。 メンバー3人のキャラクターが余りに類型的過ぎること、事件の謎自体は、それ程驚く程のものではないことから、読み出した初めはちょっと失望を感じました。 個性的な3人を中心に読むか、彼等を単なる案内役として読むかは、読む人の好み次第であろうと思います。3人を中心に読めばキャンパス・ミステリとなりますが、そうなら、私としては田中雅美“クラスメイト”シリーズの方が良かった。故に、私は後者の読み方を選びました。 消えた指環/遠い約束1/「無理」な事件−関ミス連始末記/遠い約束2/忘レナイデ・・・/遠い約束3 |
●「十八の夏」● ★★ |
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2004年06月 2002/09/16 |
朝顔、金木犀、ヘリオトロープ、夾竹桃と、各々花をモチーフにした4篇。しかし、ストーリィの趣きは其々だいぶ異なります。 「ささやかな奇跡」「兄貴の純情」は、光原さんらしい優しさに包まれた2篇。奇麗事過ぎるという批評があるかもしれませんが、光原ファンとしてはこれこそ待ち望む味わいです。 最後の「イノセント・デイズ」は、他の3作と異なり、重たい犯罪ミステリ。ただの犯罪小説に終わらず、塾教師一家の教え子を守ろうという気持ちに、心救われるものが残ります。 十八の夏/ささやかな奇跡/兄貴の純情/イノセント・デイズ |
●「星月夜の夢がたり」● ★★ 絵:鯰江光二 |
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2007年07月
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ファンタスティックな物語、32編。 光原さんというと、つい「時計を忘れて」のようなミステリ作品を期待してしまうのですが、本質的には「風の交響楽」とそれに連なる本書のような作品に持ち味があると思っています。その点で、再びこうした作品を読めたことはファンとして嬉しいこと。 【星夜の章】春ガ
キタ/塀の向こう/カエルに変身した体験、及びそれに基づいた対策/暗い淵/地上三メートルの虹/ぬらりひょんのひみつ/三枚のお札異聞/いつもの二人/もういいかい/絵姿女房その後/遥かな約束 |
●「最後の願い」● ★★ |
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2007年10月
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「新しく劇団を作ろうとしていた男がいた。度会恭平。劇団の名は、劇団Φ(ファイ)。納得するメンバーを集めるため、日々人材を探し回る。その過程で出遭う謎−。」というのが帯の紹介文。 普通の人だったらそのまま見過ごしてしまうような出来事を、度会、風見という劇団Φのメンバーは至極当然に謎解きしていきます。何故?といえば、役者だから演技はすぐそれと判る、というのが2人の弁。 あぁ面白かった。こんな展開を最後にもってくるなんて、光原さん、結構クワセ者じゃないか、と楽しくなります。 ※光原百合さんへ。 花をちぎれないほど・・・/彼女の求めるものは・・・/最後の言葉は・・・/風船が割れたとき・・・/写真に写ったものは・・・/彼が求めたものは・・・/・・・そして開幕 |
●「銀の犬」● ★☆ |
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2008年05月
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ケルト民話をベースにした、“祓いの楽人”を狂言廻しにして描く寓話的な連作短篇集。 「時計を忘れて」とか「十八の夏」のように日常ミステリ的な優しさのある作品をつい期待してしまうのですが、「風の交響楽」「星月夜の夢がたり」といった作品の流れからみると、むしろ本書のような作品の方こそ光原さんが書きたいと思っているものではないかと思います。 「あるべき様から外れたものに調べを聞かせ、理を思い出させることであるべき様に戻す」、この世でさ迷っている霊を本来行くべき場所へ送ってやる、それが伝説の“祓いの楽人”の担う役割。 いずれも恋や愛情に絡むものが主体。その辺りは光原さんらしいところでしょう。表題作である「銀の犬」と「三つの星」が中篇というべき読み応えを備えていますが、私としてはむしろ恋人同士を描く「声なき楽人」と「恋を歌うもの」の方が好みです。 なお、本書を楽しいと思えるかどうかは、かなり読む人の好み次第と言えそうです。 声なき楽人/恋を歌うもの/水底の街/銀の犬/三つの星 |
●「橋を渡るとき」● ★☆ |
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岩崎書店が児童向けに編集した“現代ミステリー短篇集”の第8巻目。 「兄貴の純情」は「十八の夏」に収録。「時計を忘れて森へいこう」は同名の単行本の第一話。 「橋を渡るとき」の主人公は、「遠い約束」の主人公である吉野桜子の兄で、大学生の吉野美杉。 謎そのものは難しいものではありませんが、それに絡む優しい想い、美杉と由希子の間にロマンスの香が僅かに感じられるところの雰囲気が瑞々しくて楽しい。 兄貴の純情/橋を渡るとき/時計を忘れて森へいこう−第一話 |