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1.おさがしの本は 2.銀河鉄道の父 3.定価のない本 4.東京、はじまる 5.地中の星 |
「おさがしの本は」 ★ |
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N市立図書館の調査相談課員、つまり利用者からの相談等に応じるレファレンス・カウンター担当の和久山隆彦が、本物語の主人公。 本に関わる問題、図書館の存在意義に関わるストーリィ、ということであればまず面白い筈、と思って読み進んだのですが、余り盛り上がらなかったなぁ。 「図書館ではお静かに」:レポートの課題だと林森太郎「日本文学史」を探しに飛び込んできた短大生を教え諭す篇。 図書館ではお静かに/赤い富士山/図書館滅ぶべし/ハヤカワの本/最後の仕事 |
2. | |
「銀河鉄道の父」 ★★☆ 直木賞 |
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2020年04月
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題名の「銀河鉄道の父」とは誰のことか?と言えば、言うまでもなく宮沢賢治の実父である、宮沢政次郎のこと。 本作は、宮沢賢治の生涯を父親である政次郎の視点から描いた、だからこそ見えてくる宮沢賢治の新たな側面を描き出した、類まれと言える逸品です。 賢治の祖父=喜助が傾いた宮沢家を質屋業で立て直し、それに加え古着卸商売を新たに付け加えて宮沢家を盤石の資産家にした政次郎は、まさに実務に長けた経営者という人物像。 従来、賢治の側から見たその人物像は、賢治の優れた面を理解しない厳しい父親というイメージを持っていたのですが、本作で描かれる政次郎はいやはや、何と深い愛情に満ちた人物であったことか。 跡継ぎ息子の誕生に狂喜する気持ちを懸命に抑えようとするところ、病気で入院した息子を、他人から何と言われようと付き添い看護したところ、賢治への格別な愛情を感じさせられます。 あぁ、それなのに政次郎の期待どおりに成長しなかった賢治はどんなに歯がゆかったことか、そして賢治はどんなに政次郎を失望させたことか。しかし、勘当しても不思議ないような状況に至っても、政次郎は決して賢治を見捨てるまでには至らず、愛情を失うことはなかった。 一方、賢治からすれば、父親の期待に応えられないこと、父親の脛をいつまでもかじっていることにつきどんなに自分を不甲斐なく感じていたことか。 賢治が理想を追いかけた人物であるのは間違いないにしても、それは父親である政次郎の支え(金銭的等)があってのこと。 それだけに、賢治と政次郎の親子関係を密に描き、さらに宮沢賢治の生涯を妹トシらその家族との結びつきにおいて描き出した本作はまさに、素晴らしい、の一言。 宮沢賢治ファンにとっては、見逃せない、貴重な一作であることに間違いありません。 ※なお、「風の又三郎」は賢治作品の中でも有名な作品の一つですが、本書に名前が登場する「風野又三郎」はそれとは異なる作品ですので念のため。 ※井上ひさしの評伝劇「イーハトーボの劇列車」もお薦め。 1.父でありすぎる/2.石っこ賢さん/3.チッケさん/4.店番/5.文章論/6.人造宝石/7.あめゆじゅ/8.春と修羅/9.オキシフル/10.銀河鉄道の父 |
※映画化 → 「銀河鉄道の父」
3. | |
「定価のない本」 ★☆ |
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敗戦から1年、神田神保町の古書店街で、古書店店主の一人が倉庫で崩れた本の下敷きになって死すという事件が起きます。 それは単なる事故なのか、それとも何者かによる事故を装った他殺なのか。 事件の謎を追うことになるのは、死んだ三輪芳松の兄貴分にあたる古書店主仲間の琴岡庄治・35歳。 調べ始めようとした矢先、庄治はGHQで諜報活動を行っているジョン・C・ファイファー少佐に呼び出され、芳松はソ連スパイの疑いがある、事件の真相を調べるよう命じられます。 庄治自身の琴岡玄武堂は、古典籍(和書)を専門に取り扱う古書店。古典籍の値段が下がっている今こそ仕入れ時と奮闘するのですが、GHQの脅しに逆らうこともできず、事件の真相調べにも奔走します。 事件の真相は何か・・・・戦後の古書店街、古書店主たちをめぐるミステリ。 古書店が舞台、古書を巡るミステリ、陰謀、戦いという言葉に惹かれ読んだ次第です。 確かに内容はその通りなのですが、フィクションとはいえ空理空論過ぎる印象が強く、満足感としては今一つ。 読み手の好み次第かもしれません。 ※徳富蘇峰、津島修治(太宰治)、白木屋が登場するのも、あの時代らしく、妙味を感じる部分です。 プロローグ/1.本に殺された/2.丸善夜学会/3.共産主義者の客/4.書物狂奔/5.売り上げ零(ゼロ)/6.真相/7.抵抗軍(レジスタンス)/8.太宰治/9.文化の爆弾/10.望月不欠/エピローグ |
4. | |
「東京、はじまる」 ★★ |
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2023年04月
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近代日本を代表する建築物を次々と設計した建築家=辰野金吾、併せてその時代を描き出した長編小説。 明治を代表する建築家、工学博士というと、高尚な人物を予想しますが、本作に描かれる辰野金吾は、相当にえげつない人物。 そこは出自が肥前唐津藩の下級武士であったことと無縁ではないのでしょう。 日本における代表的な建造物を設計するのに外国人に任せてなどいられない、自分こそが担うべきという使命感は理解できるものの、恩師というべき英国人建築家のジョサイア・コンドルをさえ公然と貶すのですから、これはもう相当なもの。 一言で表すならば、野心家。 しかし、単なる野心家だけなら、建築工事における数々の難題を乗り越えることはできなかっただろうことも事実と思います。 その辰野と対照的な人物が、同じ唐津藩で上級武士の出、一緒に入学した工部大学で辰野に首席卒業や英国留学で先を越され、大学でも上席と悔しい思いをした筈なのに、終始辰野をよく理解する友人であり続けた曾禰達蔵。 辰野のように派手に名を売ることはありませんでしたが、この曾禰達蔵もある意味で見事な人物であり、読み応えがあります。 明治期から大正期にかけた建築家たち、日銀本店建築において辰野に助力した高橋是清らの足跡も面白いのですが、辰野金吾が手掛けた建築物の、その建築に関する物語もたっぷり面白い。 日銀本店に始まり、そして中央停車場=東京駅が圧巻。 ただ、同時に辰野の晩年において、その限界も率直に描いている辺りは本作の良い処です。 今思えば、辰野らの考えがすべて正しいという訳ではありませんが、本作の魅力があの時代をリアルに体験できる処にあることは言うまでもありません。 ※植松三十里「帝国ホテル建築物語」も、同様の作品でした。 1.六歳児/2.江戸、終わる/3.二刀流/4.スイミング・プール/5.東京駅/3.八重洲と丸の内のあいだ/7.空を拓く |
5. | |
「地中の星」 ★☆ |
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2023年12月
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日本初の地下鉄「東京地下鉄」を誕生させた早川徳次の奮闘を描いた物語。 ずっと以前に、題名も、小説だったかノンフィクションだったかも全く覚えていないのですが<地下鉄(銀座線)>誕生の経緯を語った本を読んでいたので、現在の東京メトロ<銀座線>が一人の個人の奮闘によって誕生したこと、東急電鉄を率いる五島慶太との間で新橋駅での接続を巡って対立し、その挙げ句国家介入もあって<営団(帝都高速度交通営団)地下鉄>が誕生したこと、等については知識がありました。 そのため、本書も割とあっさり読み通せてしまった、という読後感です。 なお、本作では、大隈重信→渋沢栄一といった当時の大物の伝手を辿り支援者を募って事業化に邁進した当の早川徳次についてだけでなく、地下を掘って鉄道を通すという日本初の工事に挑んだ工事関係者(各人物はフィクション)、さらに五島慶太はじめ地下鉄事業に何らかの形で加わった実業界の人物と描き、一面においては群像劇のような様相を感じさせられます。 <銀座線>のみが、トンネルも車両も小さく、他の路線の乗り入れが不可能になっている経緯も本物語を読むとその理由が感じられますし、初めての地下鉄において採用された新技術の話も興味深い。 本作は、江戸〜東京の遷移を描いた「家康、江戸を建てる」「東京、はじまる」に連なる作品と思います。 こうして<銀座線>誕生の物語を読むと、地下鉄と都電が併存して走っていた頃が懐かしくなります。 1.銀座−東京といえば満員電車/2.上野−かたむく杭打ち機/3.日本橋−百貨店直結/4.浅草−開業そして延伸/5.神田−川の下のトンネル/6.新橋−コンクリートの壁 |