KONI ASA HALF SPECIAL
究極の足を作るっ!

KONI-GPを永く使ってきた。だが、やはりノーマル形状故の限界が見えてきてしまう。3K程度のバネで走ってるウチは良かった。が、6Kgf/mmで200mm程度のバネになるとバネはかなり遊んでしまうし、それでもSタイヤでサーキットを走ると過激なロールが発生し、リヤアウト側の底突きによるリバースステアも出る。そもそも6K程度のバネでサーキットは辛い。だが、ノーマル形状のバネでそれ以上のバネレートはほとんどムリだ。KONI-GPでそれ以上を求めるのは酷ってモノだろう。やるならば、O/H&高レート対応の減衰力変更、ショートストローク加工、ショートケース加工、車高調アダプタ、ピロアッパ対応 or NBアッパ対応加工、をやらねばならん。そこまでやるならフルオーダの足を作って直巻バネにしようよ...(^_^;

って事でフルオーダでKONIを作る事になったわけだ。まずは図面を引く事から始まった。ケース長とロッド長を決めるのだ。ここが実は一番難しい。今流行りの全長調整式にするのは簡単なのだが、ロドスタのリヤの場合だと実は全長調整式はデメリットが大きくメリットがほとんど無い。調整代を確保する為に実際にダンパーケースとして使える長さが短くなってしまう為、ケース内部でのピストンクラッシュを防ぐにはロッド長を短くせざるを得ない。結果、ロッドが短くてストロークが足りない足になってしまい、底突きしやすい上に車高が低すぎる為、ケース長を伸ばして車高を上げる...つまり、ショートストローク&ロングケースの底突き車高短スペシャルになってしまうのだ。底突きしてしまうからと言ってケースを伸ばして車高を上げても意味が無いわけで、皿を上げるとプリロードがかかって足の動きは最悪となってしまう。これではどうする事も出来ない。実は市販のロドスタ用全長調整式ダンパはこんなのが多い。これでは意味が無い(笑)。

底突きしない範囲で可能な限りケース長を長くしたい。ケース長を短くするのは簡単だが、短くするとピストンクラッシュを防ぐ為にどうしてもロッドも短くなってしまうのでストロークを確保出来なくなってしまう(もちろん車高も上がらなくなる)。このギリギリのバランス点を探す為に真剣に図面を引いて計算した。これで割り出したピンポイントのケース長で設計した。

減衰力の設定は私の理論とKONI屋のオヤジの理論の共通点で導き出した。ほとんど同じ理論だったので苦労は無かった。簡単に言えば 「しなやかでコシが強い」 だ。もともとKONIの特性がそうなのだが、それを更に私好みにする。突っ張る事でレスポンスを狙ったようなダンパは嫌いだ。フロントアウト側をジワリと沈ませてスッと曲がる、ギャップの突き上げはしなやかに吸収する、伸側減衰を極端に強く、縮側をしなやかに。ピストンスピードが遅い領域はググっと抑え、ピストンスピードが速い領域ではしなやかに縮んで伸びをジワリと抑える。そんな特性を求めた。

ステア操作で発生するロール域などは0.1m/sec以下のピストンスピードが遅い領域だ。ここはググっと抑えたい。だが、アウト側の縮みが硬くて突っ張るのはイヤだ。スッと素直に曲がって欲しい。

ギャップなどの突き上げは0.3m/secを超えるピストンスピードが速い領域だ。この領域では減衰が高過ぎるとハネてしまう。この領域の減衰は高くなり過ぎないようにして、しなやかにギャップを吸収したい。簡単に書くようだが、これは実に難しい話しで、複雑なバルブシステムと副筒式低圧ガスと言う構成のKONIだからこそ実現できるモノだ。ちなみにKONIダンパの内部構造は非常に複雑で、部品の一つ一つがかなり高級な素材で構成されている。フェラーリが標準採用している(意外と知られていない)のは伊達ではない。KONIでしか実現出来ない高性能が有ってこそなのだ。

そんなオーダーで試作品が上がってきた。


普通のKONI-GPとASA HALF SPECIAL(以下ASAと略す)の比較。ケースの短さが理解できるかと思う。ASAのロッド長は試作品なので少し長めになっている。


左からノーマル、TEIN-HA、TEIN-NA、ASA、の4本だ。ASAのケースが極端に短いのが解るだろう。これだけ短いと底突きはほぼ皆無となる。


左からリヤのKONI-GP、KONI-GP + 車高調アダプタ、ASAの3兄弟。同じKONIでもASAのケースは極端に短い。KONI-GPは5.5Kgf/mmで200mm程度のバネを組んでいる。ASAは8Kgf/mmで150mmのバネだ。ちなみにGPはバネがガラガラと遊んでいる。


このASAには秘密の技が隠されている。写真の右側の小さなカラーが秘密兵器だ。10mm、15mm、20mmのカラー。これをアッパマウントとロッドの間に挟むことで全長を変更出来るのだ。


そのカラーを挟んで全長を伸ばしたのが下側、上はカラー無しで全長が短い状態だ。この意味はナニかと言うと、車高やバネを変更した時にプリロードを選べると言う事。通常ならば車高を10mm上げればプリロード10mmかかってしまう。ところが、10Kgf/mmクラスのバネでプリロード10mmってのは100Kgに相当する。ダンパ1本当たりの1G荷重は300Kgfくらいで、1Gで30mm程度しか縮まない。そこ10mmものプリロードを掛けたら足の伸び代は20mm程度になってしまうし、100Kgf以下の力では足は1mmも動かない。これではしなやかな足とは程遠いわけで、プリロードを掛ける訳にはいかない。が、バネが大きく遊んでいるなら別だが、普通は車高を上げればプリロードも掛かってしまう。そこでカラーを入れる事で全長を伸ばしてバネにプリロードを掛けずに車高を調整できるようにしたわけだ。これにより車高とプリロードを別々に調整出来るようになった。


下が全長を伸ばして皿を上げて車高も上がっている状態、上は全長を縮めて皿を下げて車高も下げた状態。どちらもプリロードはゼロだ。このカラーによる調整幅は5mm刻みで5mm〜20mmまでだ。全長で20mmの調整が出来るって事は、レバー比を考えると車高で30mm弱の調整幅が有るわけで、30mmの範囲をプリロードゼロのままで調整可能って事だ。これは今までのダンパには無い機能。


この調整幅だ。ダンパの全長20mmの差は車高で28mm程度の差になる。ハードなバネでベタベタの車高短にする時はカラーを抜く、街乗り仕様のバネを組む時はカラーを入れて車高を高めに設定する、この調整幅により、10K-8Kを中心にプラスマイナス2Kまでは対応可能だ。

例えば12Kgf/mmのバネを組む場合、カラー無しでプリロードゼロで組んだとする。これでダンパ1本当たり300Kgfの荷重で1Gの沈み代が25mmだ。これを10Kgf/mmのバネに交換したとする。同じくプリロードゼロで組んだとすると、1Gでの沈み代は30mmとなる為、車高は5mm下がってしまう。なので、5mmのカラーを入れてプロードゼロで組めば同じ車高を維持できる。8Kgf/mmのバネだと1Gでの沈み代は38mmとなるので、カラー無しだと最初の12Kgf/mmのバネに比べて8mm下がるが、10mmのカラーを入れてプリロードゼロで組めばほぼ同じ車高を維持できる事になる。

注: 文中では解りやすく書いているが、レバー比の関係で実際にはダンパ部で5mmの違いは車高で7mm程度の違いになる。

このように、使用するバネによって1Gでの沈み代が異なる為、求められるロッド長は大きく違う。これを吸収するには長いロッド長にしてヘルパースプリングを入れるって手も有るのだが、こうすると前述したように長いロッドによる内部でのピストンクラッシュを避ける為にケースも長くなってしまう。これでは底突きが発生する。ヘルパースプリングを使っているダンパキットと比較して極端に短いケース長を実現し、それでいて使用するスプリングや求める車高に合わせてロッドにカラーを入れて全長を調整するという新しい発想なのだ。もちろん全長調整式ダンパに比べても長いストロークと短いケース長を実現している。

私が全長調整式にせずにあえてピンポイントで狙ったケース長、それは底突きしない足を目指し、ロッド長とケース長がギリギリでバランスされた脅威のスロトークを実現する設計なのだ。

バネにも拘りが有る。10Kクラスのバネになると、いろいろと問題が出てくるのだ。縮み始めから線間密着手前までリニアで一定のレートを持っているバネが理想なわけだが、それには高価は素材を使った高価なバネが必要だ。安価なバネの場合、太い線材を細かく巻くしかない。これだと強烈に重くなるのだ。細い線材を荒く巻けば軽くなるのだが、リニアなレートが出せない。実は市販の直巻バネはリニアなレートが出てないモノが多く、動きが良いと言われている某スイFトのバネなどはリニアなレートが出てないので沈み始めが表示レートより柔らかくて奥で硬くなる特性を「動きが良い」と勘違いされているだけだったりする。そんなわけで、軽量で安価でリニアなレートが出ているバネってのはなかなか無いのだ。そこでバネレートテスタを使って各社のバネの特性を調査した上でチョイスされた軽量でリニアな特性を持つバネがこのASA HALF SPECIALにセットされたのだ。


そしてピロアッパだ。このピロアッパにも秘密が隠されている。ピロアッパのピロ部分は消耗品だ、遅かれ早かれ必ずガタが出る。通常はガタが出たらそっくり交換となるため高価な出費になってしまう。コレが嫌いでピロアッパを避けるヒトも多い。だが、こいつはちょっと違うのだ。


裏はこうなっている。ナニやら銀色のアルミ部分は別部品。ちなみにこのアルミ部分がバネにはまる形状になってスプリングガイドになっている為、バネがズレるような異音が出にくい。まっ平らなピロに比べたら高機能。


このピロアッパの上側にあるネジ3本を外すと...


緑の部分だけ取れる...


ペラペラの超軽量。


そしてピロだけ取れる。ガタが出たらこいつだけ交換すればよろしい。


自分でバラバラにしてピロだけ部品で買ってO/H可能なピロアッパだ。素晴らしい。

さて、この試作品をまずはテストした。筑波仕様でフロント12Kgf/mm リヤ10Kgf/mmのバネ(以下12K-10Kと略す)で車高は指1本以下で街中を走る。信じられない...とても12Kのバネとは思えない。普通に街中を走れる。このしなやかさは異次元だ。細かなギャップは見事に吸収し、巨大なギャップでも驚くほどスムーズに越える。底突きしない足ってこんなにスゴイのか。KONI-GPに6K-5.5Kのバネより遥かに乗り心地は良いのにロールは少ない。

減衰力を調整したり、いつもの峠を走ったりして様子を見る。前後の減衰力バランスや伸びと縮みのバランスなど、まだまだ詰める余地は有る。だが、試作1回目の段階でも他の足に比べりゃかなり高次元な足で有る事は確か。さすがKONI、これぞKONIマジック。街乗りや峠では減衰は柔らかめに設定しているが、ステアリングを切るとフロントアウト側をジワリと沈ませて素直にスッと曲がってくれる。硬いバネに有りがちな突っ張り感やアンダ感は無い。今までのノーマル形状KONIに6K-5.5Kの足と同じ感覚で走ると、あまりの次元の高さにナニ事も起きずにスっと曲がってそのままグイグイコーナリングしていく。

この試作段階ではバンプラバーは使っていないしブーツも無い。ムキ出しのロッドがそのままだ。この状態でストロークをチェックすると、前後共にストロークにはかなりの余裕が有る。底突きには程遠い。リヤは底突きする前にマフラーが地面に擦るし、フロントだとインナフェンダにタイヤが擦る。通常のノーマル形状の足の場合、フェンダとタイヤの隙間が指2本分くらいの車高になるとその時点ですでに底突きしているわけで、バネやダンパの動きや性能云々よりもバンプラバの硬さがメインになる。つまり普通に車高を落としているロドスタはほとんどのクルマが底突きスペシャルであり、みんなが「硬い」と思っている足はバンプラバーの硬さなのだ。乗り心地の悪さは底突きが原因だ。ビルシュタインで車高を下げてるとそりゃもう酷い乗り心地になるが、ASAの乗り心地は12K-10Kでもスムーズそのもの。このスムーズさはいくらテキストで書いても伝わらないだろう。乗ってみてもらいたい。感動するに違いない。

さて、この足で2001年の筑波決戦を走った。最終コーナやダンロップの安定感は別次元。結果はご存知のように友人Tに続く2番目のタイムだった。しかし、この足はあくまでも試作品。まだまだダメなのだ。筑波から帰ってすぐにバネを10K-8Kに変更し、車高はほぼ同じにセット(指1本が斜めに入るくらいの車高短)。これで間瀬を走った。さすが、走り慣れている間瀬ではダンパの特性が良く解る。リヤの縮側が硬過ぎ、フロントの縮側もちょっと硬い、前後共にピストンスピードが遅い領域の伸び側が足りない、減衰調整幅の伸び側下限が柔らか過ぎ、etc...。更にそのままの仕様でジムカーナテストもやった。かなりギャップの激しいジムカーナ場でのテスト。リヤブレーキパッドがレース用カーボンパッドなのでジムカーナではタイムは出せなかったが、テストとしては上出来。これで得たデータを元に、試作品に付いてきた減衰力曲線図を書き換えて送り返す。ロッド長もミリ単位で指定して変更。

その試作2回目で上がってきた足はもはや感動の領域だった。誰に乗ってもらっても感動してもらえる足。10K-8Kのバネでベタベタの車高短でも乗り心地は素晴らしく、ツーリングどころかデートカーとしても通用するだろう。しかしそこから減衰調整ダイヤルを回してちょっと固めるだけでサーキットスペシャルに変身。12K-10Kのバネで筑波まで自走しても快適だし、筑波まで往復してもCDが飛んだのは1回だけだ。12K-10Kでもビルシュタインに3Kくらいのバネを組んだ車高短に比べりゃ乗り心地は遥かに良い。それでいてサーキットを走ってタイムを狙える足に仕上がっているのだ。

この後、1回だけ僅かな仕様変更を行い、私が考える究極の足が完成した。ベストバランスは10K-8Kだが、乗り心地や荒れた峠を重視するなら8K-6Kで、高速サーキットを重視するなら12K-10Kか13K-10Kや13K-11KでもOKだ。

(写真の赤バネはキットのモノではない。太い線材を細かく巻いた重量バネ。マジで重い)
そしてブーツを付けて組んだASA。ブーツは使えそうなモノを探してGABのを流用した。バンプラバは無くてもOKなのだが、NB用のモノを切って小さくして使った。インナフェンダが削れてしまうので、その手前であえてバンプラバに当たるようにしたのだ。私の足はフロントのケースが短すぎた(笑)。短すぎて皿を目一杯上げても10Kで150mmのバネだと車高があんまし上がらない。もうちょいケースを長くしたほうが良さそうだ(今更ムリだが)。

この足、あまりにも素晴らしいのでこのまま市販する事になってしまった(笑)。堂堕自動車こちらで売ってる足がコレだ。短過ぎたフロントのケース長はちょっとだけ伸びて問題無くなってるハズ。この足で富士N-ZEROに参戦しているオヤジレーシング構成員が富士のコースレコードを樹立。速いのに乗り心地が良いと言う魔法の足。STAGEこちらで売ってる足もほとんど同じモノだが、ちょっとだけサーキットよりのセッティングになってるらしい。

すでに買ったヒトはかなりの数になってるハズ。それぞれが皆感動していると思う。ピロアッパの乗り心地が良いのはこちらに書いたとおりで、どうせならピロアッパ付きのキットが良いと思う。ピロアッパ付きの本格的なキットの価格を比べてみればKONIが高くは無い事が解ると思う。買って損は無いですぜ。街乗り派やツーリング派のヒトにも自信を持ってお勧めしたい底突きしない魔法の足、それがASAなのだっ。

# 尚、市販品はピロアッパの色やバネの色、ケース寸法など、試作品とは微妙に違います。
# が、基本的な特性はほとんど同じです。

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