スカットルシェイク

ロドスタに初めて乗ったヒトは誰もが思うのではなかろうか? あの頼りない乗り心地、気持ち悪いボディの振動、ブルブルユサユサと小刻みな揺れが止まらない独特の乗り心地が気持ち悪いと...。1つのギャップの揺れが1発で収まらずにブルブルブルっと小刻みなボディの振動になる。なんでもない良路なのにブルブルユサユサと揺れる。これが高速道路だと100Km/hを超えたあたりからブルブル感は絶頂を迎え、その頼りなさは手に汗握る恐怖の走りとなる(笑)。アレは一体何だ? どーすれば直る?

このブルブル感、一般にスカットルシェイクと呼ばれるモノで、ボディ剛性が低いオープンカーに良く見られる現象だ。椅子とフロアとステアリングとフロントウインドと前と後ろが全部バラバラにブルブル揺れるあの嫌な振動。ボディに外力が加わって捩れた時(曲がった時)、この捩れ(曲がり)が一発で収まらずに振動となって残留する。クローズドボディのクルマでもこの現象は有る(VitzシリーズとかS13なんか解りやすい)のだが、オープンカーの場合はボディの振動の幅が極端に大きくその減衰性も極端に悪い。 ボディ剛性不足による操縦性云々なんてどーでも良い、この普段街を40Km/hで走るだけで気持ち悪いようなあのブルブル感が嫌だ。これはなんとかならんモンか...?


91年7月6日、私のアパートに松田(ユーノスではない)の営業所長が私のロドスタを納車してくれた。金曜の夜の事だ。所長が帰るとすぐにロドスタに乗ってアパートの前のいつもの道を走り出した...ら、ぶるぶるゆさゆさ、気持ち悪りぃぃぃぃぃぃぃ〜っ。何でもない普通の道を40Km/hくらいで走ってるだけなのに...。それまで乗っていたAE86の剛性感とは比べ物にならん頼りなさ、オレはこれから毎日こんなのに乗るのか? と、一瞬自信を無くした(笑)。試乗車ではそれほど気にならなかったのに、いざ自分の車として落ち着いていつもの道を走ったら気持ち悪いのなんのって。ま、ナニせマイナー前の初期型NA6CEだからそのボディ剛性はその後のモデルよりかなり弱かったんだろうけど、それにしても酷かった(笑)。

初めて高速道路に乗った時、そのブルブルユサユサ感が怖くて100Km/h以上で走れなかった。あまりの酷さに翌日ホイールバランスの狂いや振れを点検したほど。もちろんホイールに問題は無く、やはりボディ剛性の問題だと判断。91年夏の事、この日から私とブルブルユサユサとの10年に及ぶ熱く永い闘いが始まったのだっっ(笑) この物語はその10年の闘いのすべてである...

91年当時の事、まだロドスタが珍しくてコンビニその他でいろんなヒトに声を掛けられたような時代、ロドスタ用のパーツなんかほとんど無かった。とりあえずボディ剛性を上げる手始めとして選んだのはサスタワーバーだ。ロドスタの場合はサスタワーが低くエンジンが高い為、タワーバーのデザインによっては効果が無いモノも多い。その中でもブラケットの剛性が高くバーが真っ直ぐに近くて応力を巧く分散させるようなデザインの製品を選んだ。結果は良好で、ブルブルユサユサ感は僅かながら減ったのが実感出来た。100Km/hでの走行も耐えられるようになった。これだけでも儲けモンだと思った。

次にリヤクロスメンバの補強バーを入れた。横一文字の突っ張り棒だ。両端がピロボールで長さ調整式だったこの製品、突っ張り方向で付けるか、引っ張り方向で付けるか、ニュートラルで付けるか、それぞれテストしてニュートラルで付けるのが一番良かった。つか、取り付け方法だけで違いが解るほどの効果が有っただけでも驚き(笑)。

次はファッションバータイプのロールバーもどき。シートベルトアンカを左右に連結するので少しはボディ剛性が上がる。これも取り付け時にスペーサを増やしたり減らしたりしてテストしながら剛性感が上がるように取り付けた。が、コレはあんまし効果は無い。真っ直ぐな棒を横に入れれば効くのだが...。

当時としてはボディ補強はこれくらいで終わることになる。で、次に試したのがサスペンションセッティングだ。ノーマルサスはかなり長いバネを縮めてプリロードをかなり強めにして使用されている。このプリロードはサスペンションの初期の動きを悪くしてドタバタさせてしまう。この足の動きの悪さもブルブル感に繋がっているのかもしれない。KONIのGPを入れて皿を下げる事でプリロードを落としてみた。結果は変わらず。減衰力を強くしたり弱くしたり、200%に及ぶ減衰調整の範囲で試してもブルブルユサユサ感は変わらない。プリロードや減衰力でブルブル感は変わらないようだ。足じゃないんだ。


時は流れ、NA8Cがデビューすると同時に、NA8Cに採用されパフォーマンスバーと呼ばれた前後クロスメンバの補強をコピーした社外品が多数登場した。私はコレに飛びついた。フロントに横一文字、リヤは縦に2本 横に2本のハシゴ状の補強だ。これは効いた。マジで効いた。ブルブル感はかなり減少し、突き上げ感はかなり増した。オーバステアが強くなりダンパのセッティングをやり直すくらいの差が出た。今までやってきた事の中でコレが一番効いた。だが、慣れてくるとやはり根本的にはブルブル感は消えてない事に気付く。

NA8Cに標準装備されたブレイスバーも付けた。それまで付けていたファッションバーを外し、NA8C純正のブレイスバーを付けたのだ。

シートベルトアンカーを左右に結ぶ↑コレね。

ボディ剛性がそこそこ上がった事、規制緩和でバネの変更に記載変更が必要無くなった事、これにより私はバネを交換するに至る。3.2Kgf/mm程度のバネ(バネレートはフロント、以後文中に登場するバネレートはすべてフロントの事を指す)でプリロードはかなり弱め(スプリングコンプレッサ要らず)のモノ。純正バネよりプリロードが弱くて初期の動きが良い分だけドタバタ感は減ったのだが、ブルブル感は変わらない。減衰力をどういじってもやっぱし変わらない。 バネはその後4.7Kgf/mmでプリロードゼロのモノを試し、6.0Kgf/mmのバネも試した。だがブルブルユサユサ感は変わらない。プリロードじゃない、バネレートでもない、バネじゃないんだ...。結局、ノーマルバネ、3.2Kgf/mm、4.7Kgf/mm、6.0Kgf/mm、と4種類のバネを使った。プリロードもそれぞれ違う。減衰力は調整幅の広いKONIでいろいろ試した。でもブルブル感は変わらない。あうあう...。

アッパーマウントも換えた。松田速度の強化品だ。でも変わらない。ナニも変わらなかった。乗り心地が悪くなったわけでも良くなったわけでもない、ナニも変わらない(笑)


当時、ボディ補強パーツとして話題になっていたのがサイドシル裏側に貼り付ける鉄板だ。こんなモン効くわけが無いと思いながらも、ワラにもすがる思いでこの鉄板を取り付けた。だが、これはまったく体感出来ず無意味だった。その後、取り付けネジを増設して改良を加えてみたが、効果はほとんど無かった。もちろん何気に乗って解るほどの差ではなく、ブルブル感はほとんど変わらない。ジャッキアップの安心感が増した程度だった。その後この鉄板は外してしまった(笑)。

そしてついにど〜だバーの登場となる。コレは効いた。パフォーマンスバーを超えて今までで一番効いた。歩くくらいの速度で10メートルも動けば違いが解る、それくらい効いた。ブルブル感もかなり減った。幌がユサユサ揺れるのも気にならなくなった。150Km/h以上で走ってもピタリと安定するその剛性感は驚きだった。問題のブルブル感はかなり減ったのだが無くなった訳ではない。もちろんこの時点で新車の頃とは比較にならんくらいシッカリしてるのだが、ブルブル感は無いわけではないのだ。


ロールバーも入れた。4点式のど〜だロールバーだ。だがこれはボディ剛性にはほとんど影響せず、ブルブル感も変わらない。期待もしてなかったが(笑)。そもそも構造上4点式ロールバーでボディ剛性なんかほとんど変わらんのだ。

この時点で私のクルマは新車から約9年が経過していた。ブルブル感と闘い続けて9年だ。まだ納得出来ない。もしかして、いろいろやったが9年の間にブッシュがヘタったのではないか? 走行距離は少ないが年数は9年だ。ゴム類の劣化は酸化による経年変化だと思うので、もしかしてブッシュがダメで今までやってきたせっかくの補強も生きてないのかもしれない。そう思い始めてきた。


そこでサスペンションアームを全バラにしてブッシュを新品に総交換した。シャキっとした素晴らしい乗り味を期待して試乗したが、まったく変化が無かった。何の変化も無かった。ムダだった(笑)。ブッシュじゃないんだ...。一体なんだ? あのブルブル感はなんだ?


椅子も疑った。ロドスタの椅子ってバシっと叩くとぼよよよ〜んと揺れる。この小刻みな椅子の揺れとボディの揺れの周期が違うので、椅子とフロアとステアリングとフロントウィンドがバラバラに揺れるようなあの嫌な感覚を増強しているのではないか? 軽量で剛性が高く揺れないバケットシートに変えてみた。確かに純正の椅子よりはブルブル感は減る。だがそれは背中に伝わるブルブル感が変わるだけで、言うまでも無くクルマ全体のブルブル感は変化無い。椅子を換えたのは別の目的もあるので良いのだが。つか、筑波だの間瀬をガンガン走りながら9年もノーマルの椅子を使ってた事が脅威かもしれない(^^;


ど〜だバーもエボリューションモデルに進化し、補強度はこれ以上無いくらいまで上がってる。でもブルブル感は残ってる。そりゃノーマルボディのクルマから見ればかなりしっかりしてるんだけど、やっぱしオレはまだ納得出来ない。


タワーバーは目の字断面アルミ押し出し材を2重にした超強力バージョンになっている。あとはナニをやる?(^^;


そしてフルオーダのKONIを発注。ついに直巻きバネの車高調となる。バネレートはそれまでの6Kgf/mmから一気に12Kgf/mmだ。試乗して驚いた。ブルブル感が消えている。ほぼ気にならないレベルまで消えている。バネを10Kgf/mmに落としても変わらない。これだっ、オレが求めていたのはコレなんだよ。ナニが効いた? バネレートか? 直巻きバネの動きの良さか? KONIダンパか? いや、違う、それはピロアッパーなのだっ。

そう、ブルブル感の根源はあのアッパーマウントだったのだ。ダンパ&スプリングが一体となり、それとボディとの間にゴムが存在する構造。ボディはゴムの上でフルフローティング構造になっているようなモン。ロドスタのボディはゴムの上に乗っているのだ。ゴムは振動を受けると反発する。その反発は減衰出来ない。床の上で小刻みに跳ねるスーパーボールを思い浮かべて欲しい。ロドスタのボディは足の上のゴムに乗ってその上で跳ねているのだ。小刻みに跳ねるスーパーボールが4つの足の上に乗っていてその上にボディが載っている、そんな感じ。4つの足がバラバラに小刻みに振動する、それがボディ全体に伝わり、前後左右バラバラに襲ってくるようなあの嫌なブルブル感になる。これは松田速度の強化アッパでもノーマルアッパでも同じだった。


左がNB用、右がNA用。NA用はスプリングの受けとボディの間に分厚いゴムが挟まるのだ。このゴムがブルブルと揺れる。NBはリジットマウントだ。

NBに乗るとあのブルブル感がとても少ない。これはボディ剛性が高いってのも有るんだけど、リジットマウントに変更になったアッパマウントの構造の違いによるところが大きいのではなかろうか? 事実、NAにNBアッパマウントやピロアッパを付けるとブルブル感は大幅に減るのだ。もちろんボディ補強無しで10年経ったNA6だったらアッパマウントだけリジットにしてもボディそのもののブルブル感は有ると思うが。

「ボディ剛性の不足+アッパマウントのゴムの弾力」

これがあのブルブル感を増強しているのだ。ボディ補強とアッパマウントのリジット化をやればほぼ抹殺できるのだ。どちらか片方でももちろん効果は解るのだが、両方やると完璧だ。これが10年間かけて私がいろいろやってきてたどり着いた答えだ。もちろん私の個人的な考えだが、友人達のクルマやいろいろな事例、そして私自身が経験して悩んできた事の集大成だと思う。

私がお勧めするのはアッパマウントのリジット化、ど〜だバー装着、パフォーマンスバー装着、の3点である。NA8C以降ならパフォーマンスバーは標準装備なので迷わずど〜だバー装着だろう。NA6ならど〜だバーよりパフォーマンスバーの装着が先かな?

ここまでコレを読んで、皆さんが自分のクルマにブルブル対策をやる際の参考になれば幸いだが、個々のボディの程度や選んだ補強パーツの組み合わせ、取り付け方法など、いろいろな要素が絡むのでまったく同じ結果は二つと無いハズである事を了解した上で参考にして頂きたいと思う。皆さんがあのブルブル感を克服してシャッキリした素晴らしい乗り味を体感出来る事を願いながら今回のネタはこれにて終了です。

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